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【久保憲司の音楽ライターもうやめます】第2回 「ROMA/ローマ」から考える、小さな個人=僕たちの恐ろしい未来

ネトフリ時代のロック・ファン悲喜こもごも

ニルヴァーナやオアシスなど数多くのロック・レジェンドたちを撮影してきたカメラマンにして、ウェブページ〈久保憲司のロック・エンサイクロペディア〉を運営するなど音楽ライターとしても活躍しているクボケンこと久保憲司さん。Mikikiにもたびたび原稿をご提供いただき、ポップ・カルチャーについての豊富な知識とユーモラスな筆致で、いずれも人気を博しています。

そんなクボケンさんによる連載が、こちら〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉。動画配信サーヴィス全盛の現代、クボケンさんも音楽そっちのけで観まくっているというNetflixの作品を中心に、視聴することで浮き上がってくる〈いま〉を考えます。こんまりさんを採り上げ大好評だった初回に続いて、今回は本年度アカデミー賞を含め数々の映画賞を席巻したアルフォンソ・キュアロン監督作「ROMA/ローマ」を紹介。時代の大きなうねりのなかで懸命に生きていた市井の人々を描く同作を観て、クボケンさんは何を考えたのでしょうか? *Mikiki編集部

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「ROMA/ローマ」がアカデミー作品賞をとるという予想が外れて落ち込んでいる久保憲司です。

作品賞を取った「グリーンブック」もよかったです。デリック・メイやジェフ・ミルズといったデトロイトのDJたちとツアーをしていたときのことを思い出して涙してしまいました。デリックが「俺がなぜ日本が好きかというと、日本にいると差別されていると感じないからだ」と言ってました。自分の国で差別を感じるって、とっても寂しいことです。僕もイギリスに住んでいたことがあるので、差別される気持ちはわかるんですけど、自分の国でそう感じてしまうなんて、どう答えていいのかわからなかったです。マハーシャラ・アリ演じる黒人ピアニストが「俺は黒人でも、白人でもないんだ、どっちにも入れてもらえない」と叫ぶシーンは、アメリカに住むマイノリティーの人たちがどこか心の奥底で感じていることなんでしょう。

「グリーンブック」は友情の物語ですが、〈ローマ〉と同じテーマが背景にはあります。両者とも大きな物語のなかの個人のお話です。「グリーンブック」は人種差別の激しい南部にわざわざツアーをしに行く、個人で世の中なんか変えられるわけないのに挑んでいく、そこにマイノリティーでない人たちも共感するわけです。誰もが大きな物語のなかの小さな個人ですから。歴史に残る名作「アラビアのロレンス」(62年)が上映されている映画館がチラッと写るんですが、この映画のテーマはアラブ独立に翻弄された一英国人のお話と同じですよ、と示しているのです。

〈ローマ〉はわかりづらいかもしれませんが、その背景にはロス・アルコネスと呼ばれる、政府によって秘密裏に軍事訓練された農民の青年たちが、反政府の人たち600人以上を大虐殺したと言われるトラテロルコ事件(68年)と血の木曜日事件(71年)があります。映画では血の木曜日事件が再現されていますが、家政婦クレオの恋人が農村で剣道を習っているのはそういうことなのです。当時のメキシコで子供時代を過ごしていたキュアロン監督には、何が起こったのかまったくわからなかったと思います。しかし〈ローマ〉は監督の贖罪の映画なのです。「小さい頃のことなんだから知らんがな」と言うことは簡単です。しかし監督はこの映画を作ることによって、〈メキシコの未来がどうあるべきか〉を問いかけようとしているのです。

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未来はどうなるのでしょう。周りを見てください、いま僕たちの世界を制覇しようとしているのは〈GAFA〉と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonですよ。僕たちは「便利だ、かっこいい」と憧れ、これらの企業のプロダクトを使いながら、彼らの世界に取り込まれていっているのです。Amazonは毎年7万5千人の雇用を失くしていっていると言われています。それ以前に小売業を支配していたウォルマートは最低賃金で人を働かせていると批判されていましたが、ウォルマートから力を奪ったAmazonは最低賃金の労働者も雇わず、ロボットが倉庫で働いているのです。いまはまだ人が運んでくれている荷物も、何年か後にはドローンから受け取るようになるでしょう。

このままいくとほとんどの仕事はなくなるはずです。Amazonの社長、ジェフ・ベゾスもそのへんのことは気にしていて、政府に人々の最低生活費(ベーシック・インカム)を保証しろと言ってくれているのです。ありがたや、ありがたやじゃないですよ。とんでもない未来が待っているのです。ロボット工学も何も勉強してこなかった人間は政府から支給される最低保証だけで細々と生きていかなければならない、Amazonプライムでただの映像を毎日観て過ごすしかない。まさに飼い殺しの未来が待っているわけです。

そのとき、〈ローマ〉のアルフォンソ・キュアロン監督はどんな映画を撮るのかが楽しみです。〈ローマ〉は子供の頃の思い出なので、夢のように色が思い出せないため白黒にしたそうですが、勝者と農奴に分かれてしまった世界が崩壊していく物語は、きっと綺麗なカラーで撮ってくれるのでしょう。

 

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