写真:石田昌隆「ケルティック・クリスマス2018」より

 

ハープとフィドルのケルト・デュオ 圧倒的な鬼気迫る二重奏

 高速で移動し続ける対位法――。スコットランドのトラッド・デュオ、カトリオーナ・マッケイ&クリス・スタウトのサード・アルバム『ベア・ナックル』を聴いて思い浮かぶのは、こんな言葉だ。クラシック音楽でも活躍するカトリオーナの変幻自在なハープと、シェトランド諸島の伝統的奏法を受け継いだクリスの力強いフィドル。二つのパートがつねにせめぎ合い、互いのカウンター・メロディを奏でながら、スリリングな疾走感と上質なロマンチシズムを兼ね備えた唯一無二のグルーヴを紡ぎ出していく。

CATRIONA McKAY,CHRIS STOUT Bare Knuckle PLANKTON(2017)

 「前作の『ホワイト・ナイト』から7年。私たち2人は世界中いろんな場所を巡り、さまざまな音楽家たちとコラボを重ねてきました。嬉しいこと辛いこと、人として数多くの経験も積んで、デュオの絆をより深めることができた気がする。今回のアルバムでは、そんな旅路で味わった感情をすべて詰め込んでみたかったんですね。〈裸の拳(=Bare Knuckle)〉という題名通り、収録曲のほとんどは、生身の身体をぶつけ合うようなインタープレイを基本にしています。でも、ただ単にアグレッシブでソリッドな作品にしたかったわけでは決してなくて……。その裏に付きまとう不安とか恐怖、あるいは相手へのリスペクトも含め、今の自分たちをまるごと表現したかった」(カトリオーナ)

 全9曲を通じて、ゲストも多重録音もまったくなし。アコースティックの楽器2つのみで、豊かな広がりのある空間を創出してしまう力量が凄まじい。昨年末の恒例ライブ〈ケルティック・クリスマス2018〉でも圧巻の演奏で観客の心を深く揺さぶった。

 「ハープとフィドルの組み合わせは、本来デュオにはあまり向いていません。同じ弦楽器でも、指で爪弾くハープは音が可憐で途切れやすい。一方フィドルでは弓を用いて、強い音を好きなだけ伸ばすことができる。いわば真逆のキャラクターです(笑)。でも、だからこそ新しい可能性が見えてくる部分も大きいと思う。カトリオーナの奏法はすごく独創的で、たった1人でオーケストラのように多彩なサウンドを奏でられます。その繊細な音色を掻き消すことなく、いかに重層的なフィドルの音を鳴らせるか。今回のアルバムに限らずそれはつねに意識しています」(クリス)

 生々しい肉体性と緻密なアンサンブル。2つの要素が奇跡的なバランスを保ったこのアルバムは、彼らにとっての最高傑作であると同時に、現代ケルト音楽における1つの到達点だと言っていいだろう。

 「マーケットや売り上げは関係ない(笑)。心の内側から湧き出る感情と向き合い、私たち2人にしか創れないトラッドを奏でたいんです」(カトリオーナ)