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編曲と作曲でバッハへオマージュを捧げる

 デビュー以来J.S.バッハの音楽と密度濃い関係を築き、さまざまな作品を演奏してきたマルティン・シュタットフェルトが、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より《シャコンヌ》を自身の編曲版でレコーディング。さらに自作として《バッハへのオマージュ~ピアノのための12の小品》を加えている。

MARTIN STADTFELD バッハへのオマージュ Sony Classical(2018)

 「ここ数年はバッハ以外の作曲家の作品もかなり演奏し、しばらくバッハと距離を置いていた時期があります。しかし、近年またバッハに回帰し、自分の根幹にあるのはやはりバッハだとわかりました。そこで《シャコンヌ》の編曲に挑戦しました。ブゾーニ編を弾いてほしいという依頼があったのですが、私にはどこかしっくりしないため、自分で編曲してみたのです」

 しっくりしないのは、最後の部分だという。

 「ブゾーニはこの作品を華々しく、ひとつずつ個性的な編曲を施していますが、私は大きく短調、長調、個人的な感情が含まれる3つの部分に分けて考えています。ブゾーニ編は最後も華麗に終わりますが、私は沈黙のうちに消えていくものだと思っています。ここでは生身のバッハが現れるため、他の解釈が入る余地はないのです。バッハの悲しみと苦悩が見えるからです。いろんな演奏を聴いてきましたが、ユーディ・メニューインの演奏が参考になりました。この曲に関しては、演奏するたびに次々に新たな面を発見することができ、内容が変容していきます。《ゴルトベルク変奏曲》と同様に、どこに行くのかわからない、どんな旅になるのか想像がつかないという感じです」

 シュタットフェルトは雄弁なタイプではないが、バッハの話になると止まらない。

 「今回作曲した12の小品は、子どものころに師事した恩師で、先ごろ亡くなったフベルトゥス・ヴァイマル先生に捧げています。彼のおかげでバッハに対するの基本を学ぶことができたからです。5年前から曲作りを始め、さまざまな紆余曲折を経て録音にこぎつけました。当初、長調・短調の曲を組み合わせて24曲あったのですが、それが表裏一体となり、結局12曲でまとまりました。長調の曲は幼く純粋で内向的、短調の曲は半音階的でポリフォニック、複雑な表情を備えています。作・編曲を続けていくうちにバッハ時代の楽器、クラヴィコードに興味を抱くようになりました。バッハが愛したこの楽器は、静かな響きのなかで世界が広がっていくという感覚。興味は尽きません」

 今後はベートーヴェンの初期のソナタを子どもたちが理解できるよう、ナレーションと演奏を含めたコンサートも企画している。すでに台本は出来、ベートーヴェンへの熱き思いが湧き出てくるそうだ。