So Sorry,Hobo梶原笙の「聴きました」「読みました」「書きました」「そうですか」

第2回「想像上の犬だけがかわいい」

3月2日

喉の痛みで目が覚める。風邪かな、と思ったけどそうではなく、どうやら花粉のせいらしい。たしかに鼻と目の動作も正常じゃない。舌を奥に押しこむようにして喉に触れてみると、風邪のときに痛む部分よりもかなり手前(つまり口の出入り口側だ)が腫れていることがわかった。
毎年この時期になるとそれなりに鼻水が出たり目がかゆくなったりするのだけど、喉にまで症状が及んだのは今年がはじめてだ。プロポリススプレーを三回ほどシュッと吹きつけてやる。すこし楽になった。プロポリススプレー、やるなあ。20ミリリットルぽっちでそこそこ高かっただけのことはある。
とうとう本格的な花粉シーズンの到来か、と気が重くなる。もともと働いてくれない頭が余計にぼうっとしてしまってほとんど使いものにならなくなってしまう。まあ、使えないのはいつもそうか。じゃあべつにたいして不便じゃないか。
それにしても、R1ヨーグルトを定期的に摂取していたのに効き目がなかったな。まわりはみんな効いていると言っているけど、僕の実感としては摂取していなかった去年までと変わりない。R1よりプラズマ乳酸菌のほうがよかったりするんだろうか。名前はプラズマ乳酸菌のほうが圧倒的にイケている。飼い犬の名前によさそうだ。プラズマ乳酸菌、お手。プラズマ乳酸菌、おすわり。プラズマ乳酸菌、隠し金庫。

この日はなにか文章を書いたり曲をつくったりしようと思っていた。でもなんだか気分じゃないというか、ひらたく言うとだるかったので音楽を聴くだけの日になった。なったというか僕がそうした。

このあたりをいれた散歩用のプレイリストを拵えて満足した。
時代はテクノだ、みたいなことを言いながらつくったのだけど、テクノ以外の曲もたくさん入っている。意味不明。
深夜までだらだらすごして、日付が変わるぐらいに散歩に出かけた。公園ですこし踊った。

 

3月3日

吉祥寺のクラブシータで挫・人間のライブ。家から歩いていけるのがうれしい。
広さのせいなのか音の響きかたのせいなのか、シータに来るとなんだか体育館を思いだす。
終わったあと新宿に移動して、下川と夏目とびっくりドンキーにいった。びっくりドンキー、好きだ。
「今度はじまる連載、あんたらばっか登場することになりそうだよ」と言ったら、下川から「俺のブログにもお前がよく出てくるし、まあいいんじゃない」と言われた。その場では納得したけど、なにがまあいいのかよくわからない。でもまあ、いいか。僕の交友関係が狭いのはどうしようもなく事実なので。

そのあと終電で下川の家にいって、中高生のころに流行っていた日本のバンドを聴きかえしていた。いろいろ聴いたなかでは9mm Parabellum Bulletのファーストアルバムがかっこいいなあと思った。メタル要素の強いバンドというイメージがあったけど、このアルバムはどっちかというとハードコアだ。あと演奏がめちゃくちゃうまい。

対バンでこんなのが出てきたらびっくりするだろうな、と思った。我ながらなんて暢気な感想なんだろう。

あとルイー・ゾンというハイペースで楽曲を発表している宅録の人を教えてもらった。
後日これを下川に教えた友だちから聞いたところによると、本職はアニメーターらしい(たしかにアニメのPVがとてもかわいい)。

そのあと下川が「キャサリン・フルボディ」をプレイするのを横で観ていた。
すけべなゲームだぜ、と三回呟いた。

 

3月4日

この連載の第一回の記事が公開された。ありがたいことにそこそこの数の人たちに読んでもらえたらしい。うれしい。よかったね。
それにしてもバナーの評判がめちゃくちゃ悪いのには笑ってしまった。「編集の人がふざけてつくったのかと思いました」とか言われていた。僕は自分のセンスをまったく信頼していないのでコメントはしづらいのだけど、もうちょっと普通のでよかったんじゃないかなとは思う。
まあ書く人も読む人もいろいろなら、バナーもいろいろなんだろう。多様性多様性。

 

3月6日

渋谷でバンドの練習だった。
できかけの曲をだらだら練習したり、新曲のことをぼんやり考えたりした。
花粉症がやってきたね、なんて会話もした。

帰りの電車のなかでガールズのセカンドがファーストよりずっとよかったこととか、ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのこととかをもうだれも話題に出さなくなったな、とぜんぜん意味のわからない角度からかなしくなってしまった。

大昔の名盤やこれから出る名盤(と思われるもの。たとえばビリー・アイリッシュのファーストとか)の話もいいけど、すこし前のしみじみといい音楽にもたまには触れてあげるべきなんじゃないか。
世界の速度についていけない。

帰って布団にはいってから「スーパーチャンクの大ファンだけど人格の破綻している人間」を自分は好きになれるだろうか、と考えはじめたら寝つけなくなった。そんな人間はいない。

 

3月9日

新宿レッドクロスで挫・人間のライブだった。例によって手伝いにいった。ワンマンで、一日三公演あった。本当に三回もやるのか?と疑っていたけど、実際三回あった。どうかしている。
内容についてはあまり触れないけど、やっていること(演奏も演奏以外も)の振れ幅がおおきすぎて、そのおおきさだけで笑ってしまうような感じだった。
この日は三年弱サポートドラムを務めていた菅さんがドラムを叩く最後の日だった。本当にお疲れ様でした。

ライブのあと打ち上げがあり、そこから歌舞伎町の二郎にいった。たしか時間は午前1時半とかだったと思う。
そんな時間なのに30分ぐらい待つほど混んでいたので驚いた。客層もホスト、外国人、サラリーマン風、派手な女の人とサラダ感があった。
打ち上げで普通にご飯を食べていたので食べきれるか心配だったけど、野菜を減らしたこともあってわりとあっさり完食できた。味も脳に直接ジェルを塗りたくっているような感覚があってよかった。身体にはよくないだろうけど。
そこから歩きやタクシーやその他の方法で下川の家にいき、寝て、起きて、帰った。

ソファで寝たせいか身体がめちゃくちゃになってしまい、ここから数日間ぐったりとしていた。

 

3月13日

バンドの練習だった。
新曲のアイデアをあれこれ出し、かなり悪趣味な方向でまとまったのでよかった。
僕はパワーコードというものをまったく弾かずにいままでやってきたのだけど、そろそろ弾く時期が来たらしい。

ギターの岩井に最近オールマン・ブラザーズ・バンドのファーストとセカンドを聴いているという話をした。
「『フィルモア・イースト・ライヴ』はあんまりなんだよね」「あれまあまあだるいからな」「そうなんだよ」
その流れでこの年代のアメリカのバンドはイギリスのバンドとくらべてドラムのフレーズに幅がなくて飽きやすい傾向にある、という話を岩井から聞き、なるほどねとなった。
オールマンはリードのみならずバッキングのフレーズまでちょっとダサくて、聴いていて思わず笑ってしまうのがいいところだと思う。こういうおかしさ(かわいさと言ってもいい)のある音楽はずっと聴いていられる。

 

3月14日

北海道で小説を書いている友だちのりきまるくんから、スティーヴン・プリナ(ステファンではないらしい。でもステファンかもしれない)の『Push Comes to Love』というアルバムがとてもいいと教えてもらう。さっそく聴いてみるとたしかにいい。

スティーヴン・プリナはレッド・クレイオラでキーボードを弾いたりしているらしい。参加メンバーはデヴィッド・グラブス、ジム・オルーク、サム・プレコップ、ジョン・マッケンタイアと90年代シカゴのすごい人たちが集結したという感じだ。

そこからオルークとグラブスといえばガスター・デル・ソルだよな、となり、ガスター・デル・ソルを聴いた。

とくにファンというわけではないけど、このあたりの音楽(なんてざっくりとした括り)にしかない手触りみたいなものはたしかにあるよなあ、と思う。これらを聴かないと得られない栄養というか。

そういえば舞城王太郎の書いた「ビッチマグネット」という小説があるけど、あのタイトルはグラブスが参加していた同名のバンドからとったんだろうか。なんならそのタイトルありきで書かれたもののような気もする。

小説のほうのビッチマグネットは、たしか高校生のときに読んだ。単行本が出たのが2009年の11月だから、たぶんそのころに読んだんだと思う。ほとんど内容を覚えていないので、読みかえしてみるのもいいかもしれない。
舞城王太郎もそうだけど、中高生のころはメフィスト賞を足がかりにミステリをよく読んでいた(ちなみに舞城王太郎はメフィスト賞出身だけどミステリもミステリでない小説も書く作家で、たしか「ビッチマグネット」はミステリではなかった)。泡坂妻夫、歌野晶午、石持浅海、連城三紀彦……。あのころほどではないけど熱が再燃することが定期的にあって、ちょうどいまがそのタイミングだ。
似鳥鶏の市立高校シリーズが面白くて、シリーズを一気に読破しようとしている(この文章を書いている現在は四作目の「いわゆる天使の文化祭」まで読んだ)。二作目の「さよならの次にくる」がとてもよかったので、思わず揃えてしまった。無職なのにこんなお金のつかいかたをしていいのだろうか。まあ文庫本七冊ぐらい、タダみたいなものか。
そんなことないな。

もう日記としてはここで終わりになるけど、ついでに告知をさせてもらう。
3月30日に吉祥寺シルバーエレファントでライブがあるので、この連載を読んで興味を持った人がいるなら来てもらえるとうれしい。

べつに来てくれなくてもいい。時間と金銭は有限なので、その賢明な判断を僕は支持したい。
こんなこと言ってると一生売れないんだろうな。かまわないけど。

【プロフィール】
梶原笙

梶原笙 (かじわらしょう)

ロックバンド、So Sorry,Hobo(ソーソーリーホーボー)のギター・ヴォーカル。​バンドは「内在するファンタジーの再現」を目標にマイペースに活動中。話と文章と髪が長い。オタク。

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