COLUMN

スティーヴ・カレル×ティモシー・シャラメ、映画「ビューティフル ・ボーイ」公開! 実話をもとにした父と子の葛藤の物語

©2018 AMAZON CONCERT SERVICES LLC.

 

実話をもとにした父と子の葛藤の物語

 「息子のことは何でも知っていると思っていたのに、時々『この子は誰だ』って思うんです」

 もしかしたら、親は一度ならずそんな気持ちになるのかもしれない。そして、逆に子供が親を見て、『この人は誰だ』と思うこともあるだろう。どんなに近い存在でも結局は他人。何でも知っていると思い込んでいた自信が、確かにあると思っていた強い絆が、何かをきっかけに崩れ落ちた時、以前のような関係を取り戻すのは大変だ。実話をもとにした映画「ビューティフル・ボーイ」は、そんな風にどこかでボタンを掛け違ってしまった父子の物語。最初に紹介したセリフは、映画の冒頭で、父親のデヴィッドがカウンセラーに漏らす言葉だ。

©2018 AMAZON CONCERT SERVICES LLC.

 デヴィッド(スティーヴ・カレル)は著名な音楽ライター。再婚した画家のカレンとの間に二人の小さな子供、そして、離婚した元妻ヴィッキーとの間にニック(ティモシー・シャラメ)という息子がいる。そのニックはドラッグに溺れて家を出たまま行方不明。ヴィッキーにも行方はわからない。ようやく家に戻って来たニックを、デヴィッドは更生施設に入れて治療しようとするが、ニックは施設から逃げ出してしまう。探そうとしない施設に業を煮やしたデヴィッドは、雨の中をひとりで探しまわり、ひどい状態で震えているニックを見つけ出した。「お前の素晴らしさをもう一度取り戻すんだ」とニックに語りかけるデヴィッド。かつてニックは、デヴィッドにとって自慢の「ビューティフル・ボーイ」だったのだ。

 物語はデヴィッドとニックの関係を軸にして、時系列を再構成しながら進んでいく。かつてニックは成績優秀、スポーツにも秀でていて申し分のない優等生だった。そんな息子を心から愛するデヴィッドは、ニックをハグする時はいつも「I love you more than everything」と声をかけていた。それほど愛情を注がれながら、なぜニックは父親の期待を裏切ったのか。その具体的な理由は描かれないが、父親の愛情や期待がニックにとって重荷だったのかもしれない。

©2018 AMAZON CONCERT SERVICES LLC.

 幼いニックが、ひとりで飛行機に乗って遠く離れたLAに住む母親に会いに行く回想シーン。デヴィッドは心細くてグズるニックを優しく言い聞かせ、「Everything」とハグをして送り出す。そして、ひとりで搭乗口へ向かうニックの寂しげな後ろ姿。父親の一方的な愛が詰まった「Everything」は、時としてニックを縛る呪文だったのかもしれない。ドラッグをやめることができないニックとデヴィッドが、久し振りに馴染みのカフェで再会するシークエンスも印象的だ。二人の話は最後まで噛み合ず、ニックは「自慢の息子じゃなくなったから、今の僕のことは嫌いなんだろ!」と声を荒げて店を出て行くが、そこにニックの父親に対する複雑な気持ちが現れている。このシークエンスは20テイクも撮り直したそうだが、カレルとシャラメの緊迫した演技に引き込まれる。

©2018 AMAZON CONCERT SERVICES LLC.

 本作がユニークなのは、デヴィッドが書いた回顧録とニックが書いた回顧録を原作にしているところで、映画には両方の視点が盛り込まれている。どちらかというとデヴィッドの視点で物語は展開していくが、それだけに寡黙なニックの心の動きを細やかに表現するシャラメの演技は、本作の見どころのひとつだろう。禁断症状に陥っていない限り、ニックに麻薬中毒患者のような荒んだ雰囲気はなく、どこにでもいる大人しい好青年。デヴィッドに嘘をつく時も、傷つきやすいナイーヴな表情を見せる。普通の青年がどんな風に堕ちていくのかを、シャラメはひたむきに演じている。

 また、注目したいのが音楽の使われ方だ。デヴィッドが音楽ライターということもあり、様々な音楽が物語を彩っていて、原作に登場する音楽も映画に使用されている。親子それぞれの世代の音楽が使われているが、カーラジオから聞こえてくるニルヴァーナ《テリトルリアル・ビッシングス》を聴きながら、親子で語り合うシーンは幸福感に満ちているし、病院から抜け出したニックを保護したデヴィッドが、疲れ果てて眠ってしまったニックに子守唄のように歌うジョン・レノン《ビューティフル・ボーイ》も胸を打つ。歌詞の内容がシーンにあっているというだけではなく、ニックがジョン・レノンに最後にインタヴューしたライターだということを踏まえての演出だろう。また、モグワイ、トータス、エイフェックス・ツインなどニック世代の音楽がニックの張りつめた内面を音楽で表現しているが、なかでもシガー・ロス《スヴェン・ギー・エングラー》はニックの心の叫びのように使われている。

 反発したり、寄り添ったりを繰り返すデヴィッドとニック。その苦難の日々にドラマティックな救済は訪れない。「ビューティフル・ボーイ」は簡単に解決できない問題に向き合った親子の葛藤の物語であり、「この子は誰だ」と途方にくれながらも辛抱強く相手を知ろうとすること。そして、必死で何かと葛藤している姿を、しっかりと見守ってやれることの大切さを教えてくれる物語なのだ。


「ビューティフル ・ボーイ」
監督:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン
原作:「ビューティフル・ボーイ」ニック・シェフ(オークラ出版より4/3発売予定)
出演:スティーヴ・カレル/ティモシー・シャラメ/モーラ・ティアニー/エイミー・ライアン/ケイトリン・デヴァー
配給:ファントム・フィルム(2018年 アメリカ 120分)
©2018 AMAZON CONCERT SERVICES LLC.
◎4/12(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開!
beautifulboy-movie.jp

▪劇中歌が収録されたCD

タグ
40周年プレイリスト
pagetop