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LEARNERS=現代のフライング・ブリトー・ブラザーズ?

――ロカビリーはもちろん、お2人とも共通して古い音楽にも詳しいですよね。そうしたルーツ・ミュージックを聴きはじめたきっかけは?

紗羅「ネット世代なんで、最初はそこでいろんなものを見つけてましたね。それからライヴ・イヴェントやDJイヴェントに行って気に入ったものを見つけるようになって」

チエ「私はまったくクラブ育ちではなくて、レコード屋さんに行き試聴をさせてもらって、いろんな音楽を知りました。特に通っていたのはロカビリー専門のレコード屋さんですね。いまはインスタでカントリーのバンドをチェックしています。最近は好きなレーベルを追っかけることも多いです」

――何というレーベルですか?

チエ「シカゴのブラッドショット・レコーズってインディー・レーベルなんですけど、アウトロー・カントリー系を強く押し出しているんです」

紗羅「アウトロー・カントリー?」

チエ「紗羅ちゃんも絶対好きだよ。ウィリー・ネルソンやウェイロン・ジェニングスといった人たちに影響を受けた若者たちがそのレーベルにはたくさんいて、それを追っかけてるのね。古い音楽と同様にいまの時代の音楽もいろいろと聴いてます」

ブラッドショットがリリースしたサラ・シューク&ザ・ディスアームズの2018年作『Years』収録曲“New Ways To Fail”
 

――ところで、趣味が渋いねぇ、と言われるのって、2人にとっては誉め言葉になります?

紗羅「小学校の頃から、渋い!って言われてますからね。だから、そうっすか……みたいな反応になっちゃう(笑)。ま、ありがたいことですよ、きっとね。ただ、可愛い!とか言われないね。そう言われるようになったら、オーヴァーグラウンドに行けたってことになるんだろうけど」

――(笑)。お2人が、これぞ完璧な音楽!とつねづね考えているものがあったらご紹介いただきたい。

チエ「完璧!ってことでは、ニッキー・レーンがそうかもしれないですね。もともとはモデルで、20代後半から音楽をやりはじめた人なんですが、ファッションも音楽も性格も何から何まで完璧なんですよ。彼女、古着屋もやってるんですけど、そのお店も完璧(笑)。ファッションとリンクしているのが大事で、パッと見たらそれですべてわかるというか。古くなりすぎず、いまっぽい良さも持ち合わせていて、そういうところが音楽性とも比例しているというか、お洒落でカッコいいんだけどやっているのはカントリー・ミュージックという。そのバランスが完璧だなって思います」

ニッキー・レーンの2017年作『Highway Queen』収録曲“Jackpot”
 

紗羅「完璧ってことでいうなら、フライング・ブリトー・ブラザーズかもしれない」

チエ「お~、いいねぇ!」

紗羅「あれを知ったときはかなり衝撃でしたね。それまでは私のなかでカントリーっていうと、カウボーイ・ハット被って革パン履いて、その後ろには馬、みたいなイメージだった。私のパパもテキサス生まれなんですけど、カントリーな男性で、そういう格好を小さい頃から見てきたわけです。だから(王道のカントリーは)ちょっとパッとしないなって思っていたところに、あのバンドの音楽を聴いて〈なんてお洒落な人たちなんだ!〉って驚いた。メンバーのファッションも決してまとまってはいないけれど、どこかまとまりが感じられるというか個性的だし」

――まとまってなさそうでまとまっている、って重要なポイントですよね。

紗羅「そう、LEARNERSもそういうところがあって、全員バラバラだけど、ステージに揃っているのをみると案外まとまっているように思える。フライング・ブリトー・ブラザーズもまた誰一人として意見を譲らないんですよ、きっと(笑)。でも、いざバシッと揃ったときにとてもカッコよく見える。そんなことを彼らから教わって、考え方がガラリと変わってしまったのをよく覚えています」

――そこまでの衝撃を受けたんですね。

紗羅「60年代の曲をいろいろ探していた頃、ワンダ・ジャクソンやパティ・ペイジなどを知ったんですが、あそこらへんってイメージどおりだったんですよ。で、さまざまな曲を知って、その先の音楽を知りたい、と考えていたときに出会ったはず。〈うひょ~、カラフルゥ~!〉って感じでしたね。髪型や服装も完璧」

フライング・ブリトー・ブラザーズの69年作『The Gilded Palace Of Sin』収録曲“Christine's Tune”

 

排他的な考え、オリジナル信仰は大嫌い

――LEARNERSは〈オールディーズ・バット・グッディーズ〉という理念のもとに、過去も現在も同一線上にある、って主張の音楽を作ってらっしゃる。でも、オールディーズ好きのなかには、古いものこそ正しいって保守的な考えの人もいるじゃないですか。

紗羅「私、苦手なんですよ。自分の好きな音楽にレールを敷いて、こうじゃなきゃいけない、とか、Tシャツは中に入れなきゃいけないとか(笑)、狭い枠に押し込めようとする行為が。新たにやってくる人たちを、ここに古くからいる俺たちがいちばんカッコいいんだ、って排除しようとする人とか。その考えってもう化石(笑)。その人たちのせいで、若い人たちが新しい世界に入っていけなくなっていることが大問題。

だって若い子たちって、アレ聴いてカッコよかったから今度ちょっとイヴェントに行ってみよう、っていうふうに好奇心につき動かされているのがほとんどじゃないですか。そこから大きく広がっていく可能性があるのに、来る者を遮断して内輪だけでカッコいいとか褒め合っていたりするのってクソだと思うんです。だから昔のものだから優れている、とかいう考えは私のなかに1ミリもない」

チエ「私もずっと似たようなことを感じていて、私が好きな音楽の界隈でも、フィフティーズ以外はダメ、みたいな考え方が根強く残っている。私もフィフティーズの音楽がすごく好きだったから、その輪に入っていきたい気持ちもあったけど、やっぱり入れなくって」

紗羅「(その結果)こんな才能豊かな原石を路頭に迷わせていたんですよ! こんなすごい子が出ていったら、シーンが活況化するんじゃないか?って考え方がなぜできないのか」

チエ「私自身、オリジナル至上主義になれなかった、ってところがありますね。〈どれだけ巧く似せることができるか〉ってことよりも、〈どういった表現ができるか〉ってこだわりのほうが強かったので。テクニックを披露することで自分が満足したいんじゃなく、私が伝えたことを受け取った人が満足してもらえたらいい。そっちのほうを選択したから、古い音楽だけを聴くって方向に向かなかったですね。ただ、いろんな考え方があるんだな、って受け取れるようになったんで最近は楽ですね」

――それは良かった。今回のシングルを聴いてちょっと思ったのが、LEARNERSって、こういう音楽をやるバンド、というようなカラーがだいぶ定着していたと思うんです。でもそういうイメージを裏切りたい、というか狭い領域に押し込められたくない、っていう意思が制作過程において働いていたんじゃないか、などと考えたりもしたんですが。

紗羅「いやぁ、私たちいつもそんなにいろいろと考えてないですよ」

チエ「ハハハ、主張とかぜんぜん似合わない」

紗羅「人生いろいろ大変なことがあるけど、LEARNERSのライヴを観ている1時間だけでも幸せになれて、よし、明日もがんばろう!って元気を与えられる私たちでいられたら、それだけでいいです」

――わかりました。で、今回のシングルで示したひとつの方向性は今後も継続していこう、といった話はあるんでしょうか?

紗羅「なんか、アコースティックっぽいのもやっていきたいね、とは言ってたね」

――そこではオリジナルの比重が高くなる可能性もあったりして?

紗羅「うん、あるかもしれないですね。でもまだ何もやっていないんですよ」

――このシングルのテイストで丸々アルバム一枚を作ってもらいたいなぁ。

紗羅「最近チャーベさんからメールが来て、そこに〈俺、もう女の子の気持ちが書けないから、次から紗羅、歌詞をよろしくね〉って書いてあった(笑)。そう言われているんで、ひょっとしたら次は私が書くかもしれない」

チエ「でも、歌い手としたら自分で歌詞書けるほうが楽じゃない?」

紗羅「いや、そうなんだけどね。私、暗くてドロドロした曲しか書けないから(笑)。チャーベさんはハッピーな曲を書く天才なんです。ティンカーベルみたいな人なんで」

――ハハハ(笑)。めっちゃ暗い曲も期待してます。