INTERVIEW

高田漣の『FRESH』が〈フレッシュ〉である理由

ルーツと未来が交差する、ユーモアに満ちた新作を語る

高田漣の『FRESH』が〈フレッシュ〉である理由

高田漣の新作『FRESH』が、すごくおもしろいことになっているという噂は聞いていた。2018年8月に砂原良徳を共同プロデューサーに迎えた配信シングル“GAMES”をリリースした時点ですでになにか起きていそうな気配はあった。2017年末の第59回日本レコード大賞で、優秀アルバム賞を受賞した前作『ナイトライダーズ・ブルース』からの明らかなギアチェンジ。もともとYMO世代である彼の音楽性の根底には型通りのルーツ・ミュージックに収まらないものがあるとは思っていたが、さすがにこの大胆なシングルは期待と困惑の両方を弄ぶ予告編のようにも鳴り響いていた。

そこから約半年を経て届いた新作『FRESH』。そこにあったのは、自分が受けてきた影響や現代的な音楽への目配りを躊躇なく存分に注ぎ込んでかき混ぜたようなカラフルな世界だった。それでいて痛快。それでいてポップ。なおかつ、そのサウンドの軸には、細野晴臣のバックバンドとしても活動を共にする面々とのアイデア豊かなバンド・アンサンブルがちゃんと継続していた。

細野晴臣“最後の楽園”(78年のオムニバス・アルバム『PACIFIC』)、はっぴいえんど“はいからはくち”(71年作『風街ろまん』)、1930年代に書かれたジャズ・スタンダード“OPUS ONE”とカヴァー曲も多彩なだけでなく、大瀧詠一やYMOへのオマージュも随所ににじむ。みずからのルーツをたどりながら、現代に鳴り響く新たなポップスを提示した『FRESH』は、まさに〈高田漣〉というミュージシャンを温故知新しながら更新した作品になった。インタヴューは、そんな作品の背景と誕生について、いつものように自然体で音楽を楽しむ姿勢でありながら、現代を生きる音楽家としてはっきりとした意志を込めた言葉で語るものになった。

高田漣 FRESH ベルウッド/キング(2019)

 

高い評価を受けた前作『ナイトライダーズ・ブルース』と地続きの『FRESH』

――第59回日本レコード大賞の優秀アルバム賞を受賞された『ナイトライダーズ・ブルース』(2017年)以来、約2年ぶりとなる新作『FRESH』ですが、最初に音が届いたとき、すごくカラフルな内容でびっくりしました。もちろん、漣さんは少年時代にYMOから強い影響を受けて育った世代ですし、初期のインスト作品にもニューウェイヴ的なアプローチがありました。だけど、今回は、ルーツ・ミュージックの渋みを通過して、自分のルーツもいま興味がある音も全部ごちゃ混ぜにした力強い遊び方が提示されていることを強く感じたんです。

「そうですね。とはいえ、『ナイトライダーズ・ブルース』の時点でも、歌詞を読むとけっこうバカバカしい部分が多かったし、レコ発ライヴでもわりとふざけたことをやっていて、そういう要素がだんだん大きくなってきた感じなんです。だから、自分のなかでは前作と地続きみたいなところはあります。“寝モーショナル・レスキュー”や“はいからはくち”のカヴァーは前作の直後にもう作ってましたし」

――“寝モーショナル・レスキュー”は、前作の取材でも言及されていたG・ラヴ&スペシャル・ソース的なサウンドを踏襲しつつ、歌詞としては日常すれすれのとぼけた感覚がどうしたら歌になるのかを試しているように感じます。ですけど、続く“ロックンロール・フューチャー”“モノクローム・ガール”という展開では音楽的な遊びの幅が過去にも未来にも広がっていて。

「“ロックンロール・フューチャー”はアルバムのなかでいちばん最後に作った曲なんです。アルバム分の曲は録り終えていたんですけど、なにか言い残してることがあるような気持ちがあって作りました。そういう意味では、この曲がアルバムを通していちばん描きたかった世界を表しているのかな。

逆に、“モノクローム・ガール”は、アルバム制作の過渡期的な状況で録った曲です。実は、このアルバムってバラバラな時期に録ってたんですけど、この曲のあたりからなんとなく〈もうちょいポップなものにいってもいいんじゃないかな〉と自分のなかでも思いはじめたんです。

その頃にドラマのエンディング・テーマ(テレビ東京系、ドラマ24『フルーツ宅配便』)として依頼を受けて作りはじめていた“ソレイユ”にも、そういう思いが影響していたのかもしれないですね。それ以降はわりとポップな曲が多くなっていきましたね。このアルバムの作業って、合間を縫って少しずつデモ・テープを作っていく感じだったんですけど、やっていくうちに詰め将棋みたいにだんだん自分のなかの青写真が出来てきたんです」

高田漣作詞作曲、超特急の2019年の楽曲“ソレイユ”。『FRESH』には高田が歌ったヴァージョンが収録
 

――そういう意味では、“モノクローム・ガール”はアルバムの鍵になっている曲ともいえますね。

「この曲を書いてるとき、映画の『ハイ・フィデリティ』(2000年)のことをすごく思い出してて。あの映画に出てくるレコード屋さんに来るようなレコード・ジャンキーの人たちに向けたラヴソングというか、そういう意味合いのアルバムが出来たらおもしろいなという思いがぼやっと浮かんだんです。だからそれからは、なるべくいろんなジャンルや題材を選びながらもそういう統一感を出せたらなと意識して幅を広げていった感じでしたね」

『FRESH』収録曲“モノクローム・ガール”

 

細野晴臣にバンドにしてもらった、伊藤大地、伊賀航との信頼関係

――新作を聴いてもう一回『ナイトライダーズ・ブルース』に立ち戻ってみると、ルーツ・ミュージック的な純化と思えたアプローチのなかに、ちゃんと高田漣個人の好奇心が雑味として投影されていることを、より強く感じました。

「前作を録ってみて自分のなかでいちばんの収穫だったのは、伊藤大地(ドラムス)と伊賀航(ベース)というリズム隊でいろんなことができるという発見や音の録り方の工夫だったんですけど、じゃあ今回はあのサウンドは活かしつつ、もう少し違うアプローチの楽曲をやってみたらどうだろうかという気持ちがだんだん広がっていった。そういう意味で、前作と新作はすごく繋がってるんだろうなとも思います」

2017年作『ナイトライダーズ・ブルース』収録曲“ハニートラップ”
 

――〈『FRESH』という新鮮なアルバムを作るぞ!〉という気合いで取り組んだというより、合間を縫うように録り溜めていった新曲群が、結果的に『FRESH』と言えるものだったということでもありますよね。それってすごく理想的な状況だと思います。

「まさにそうですね。いい意味で気負いがない。前作がああいう賞をいただき、評価していただいたことのプレッシャーとかも特にはなくて。ただ、ライヴをやってるときに〈もうちょっとファンキーな曲やポップな曲があったらいいな〉みたいなことはなんとなく感じていて、デモもそのために録っていたというか。だから、最初の目的はアルバムというよりライヴのための楽曲みたいな部分も強かったんです」

――なるほど。新鮮なサウンドだと感じますけど、砂原良徳さんを迎えた“GAMES”を除けば、基本的にはいつもライヴを共にしているバンド・メンバーでレコーディングも行われているんですね。

「そこありきですね。自分で曲を作っていても、〈大地くんにこういうリズム叩かせたらどうなるか?〉〈伊賀くんにこういうベース弾かせたらどういう化学変化が起こる?〉みたいな想像が頭のなかにあるので、昔とはぜんぜん作り方が違いますね。細野(晴臣)さんのバンドも含めて僕らは10年以上いつも一緒にいるので、信頼関係がすごく大きいと思います。ある意味、細野さんにバンドにしてもらった、みたいな部分はあるかもしれないですね。そこで身につけた呼吸とかタイム感はアルバムのあちこちで活きてる気がします」

 

高田漣のルーツとの向き合い方、引用の仕方

――それにしても、ですよ。やっぱり新作のイメージは〈フレッシュ〉です。アルバムのアートワークもグラフィティですし。

「僕はアルバムのアートワークにそれほど口を出すタイプじゃないんですよ。いつもざっくりとしたイメージだけデザイナーさんには伝えるようにしていて、前作のときも〈ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンのアルバム『ACME』(98年)のジャケットのイメージで、背景は赤で、フォントは青江三奈(の“伊勢佐木町ブルース”のジャケットと同じもの)で〉って伝えたら、なぜか電車が付いてきた、という展開でした(笑)。

今回はなんとなく〈グラフィティで壁に《FRESH》って描いてあって、壁は黄色で〉ってことだけ伝えたんです。それと、たまたま見てたグラフィティの写真集で、壁の上に空が抜けて見えてる一枚があったんですよ。それを見たときに、〈あ! ドクター・ジョンの『Gumbo』だ!〉って思ったんです。実はまるっきり構図が同じなんです。それで僕は杖じゃなくて傘を持って写り込んでいて。すごく新しいことをやってるように見えるけど、実を言うと本当は前の僕となにも変わってないというか(笑)」

ドクター・ジョンの72年作『Gumbo』と『FRESH』
 

――そういう意味では、過去の音楽の引用というか、オマージュも随所に織り込まれています。はっぴいえんどの“はいからはくち”や細野さんの“最後の楽園”のカヴァーもあって、そういう構造も実は『Gumbo』的ですよね。あの作品もドクター・ジョンのニューオーリンズ愛を結晶させたものですし。

「まさにそのとおりですね。ジャケが上がってきたときに、自分でも〈そういうアルバムだったんだ〉ってあらためて腑に落ちたというか」

――過去も現在も知る高田さんの世代のミュージシャンが、型通りの〈ルーツ・ミュージック〉ではなく、あえて自分の本当のルーツにも踏み込んでやっているおもしろさも感じました。

「僕らは、はっぴいえんどや大瀧詠一さんを通してアメリカの音楽を知ったし、聴き方を教えていただいたとも思ってるので。今回、引用率を少し高めにしたのは、僕がやるべきことは自分の音楽を作りながらも同時に過去の音楽の索引を作るような作業でもあると感じていたからです。

そういう意味合いもあって、わかりやすい引用を多めにしました。以前だと、誰に話してもわからないくらいの引用の仕方だったんですけど、今回はわりとはっきりと提示しました。聴いてくれた人がそこから興味を持ってくれたらいいなと」

 

砂原良徳との“GAMES”がアルバム『FRESH』に及ぼした影響

――とはいえ、チャレンジもこのアルバムには刻まれています。砂原さんを迎えた“GAMES”。こういう曲は〈ちょっと合間にデモでも〉というスタンスではできないかなと思うんですが。

「実は、この曲がアルバムでいちばん最初に出来ていたんです。前作のプロモーションをやってる頃には、もうデモが出来てました。その段階では、いまライヴでもやってるバンド・ヴァージョンっぽくて、前作とそんなに遠くないサウンドだったんですね。でも、この曲は作ってるときから、なんとなくもうちょっと伸びしろがあるというか、違うアプローチをしてもいいかもというイメージがあったんです。最初のアイデアは〈この曲を、ももクロ(ももいろクローバーZ)に歌ってもらったらどうか?〉みたいなものでしたから。

そんななかで、より現実味のあるアイデアとして、〈僕のギター以外のトラックを全部打ち込みの人に投げちゃうのはどうか?〉という話になって、真っ先に浮かんだのが砂原さんだったんです。最初はプリンスみたいなイメージで作業は始まったんですけど、気がついたらYMO色がすごく強くなりましたね。まあ、そこは僕と砂原さんお互いの共通項でもあるので(笑)」

『FRESH』収録曲“GAMES”
 

――アルバムの作業の最初にこの曲が提示されていることで、いろんな冒険が可能になりますよね。野村卓史くんのシンセの音色の選び方も変わったと思いますし。

「そうですね。この曲が出来て、先にデジタルでリリースしたことで、ある種、肩の荷が下りたというか、最初の風穴を開けてもらった感じです。それに“GAMES”はあまりに異質だったんで、アルバムとしてまとめていくなかで、他のルーツ・ミュージックっぽい曲にもシンセを加えてみることで中和しようという意識も働きました。

でも、それは前作を録っていたときになんとなく思い描いていたひとつのパターンでもあったんですよ。ルーツ・ミュージック色の強いリズム隊の音のなかにアナログ・シンセが鳴ってるようなしなやかさ。そういうものが次のアルバムにはあったらいいんじゃないかな、というアイデアはあって、それが今回より具体的になったという感じです」

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