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遊びとユーモア――音楽って本来はだらしなくて適当でいい

――イントロダクション/インタールード的な“FRESH”“MORE FRESH”が入る遊びの要素も、いままでの高田漣だったらやらなかったことだなと思いましたけど。

「前作のライヴでもNAOKO(バクバクドキン)ちゃんにはアナウンスをやってもらったりしてたんです。今回は、アルバムの初っ端にこういう肩透かしを食らわせるようなトラックがあるのもいいなと思って。

そもそも、今回のアルバムのアートワークで僕がなぜ〈黄色〉をリクエストしたかというと、ひとつはデ・ラ・ソウルのファースト(89年作『3 Feet High And Rising』)があったんですけど、もうひとつはスチャダラパーの『タワーリングナンセンス』(91年)のロゴの黄色が念頭にあったんです。あのアルバムも〈みなさん、こんにちは。渡辺です〉って言葉で始まって、あとでもう一回その〈渡辺〉が出てくるじゃないですか。あの感じをちょっと出したかった。そこはスチャダラへのオマージュなんです」

デ・ラ・ソウルの89年作『3 Feet High And Rising』とスチャダラパーの91年作『タワーリングナンセンス』
 

――そういう遊びをさらに遡ると、スネークマンショーのアルバムもあるし、大瀧さんや細野さんのソロ作にもそういう遊びはありました。

「そうですね。YMOもそうですし、はっぴいえんどもそうだったと思うんですけど、シリアスな音楽のなかに変な笑いの要素があった。それを子どもの頃はある種の違和感で受け止めてたんですけど(笑)。

いまは社会がギスギスしてるじゃないですか。芸事の世界であっても聖人君子しか認めない、みたいな風潮がある。でも、音楽って本来はだらしなくて適当でいいと思うし、そこのユーモアみたいなものがすごく足りない気がしてて。今回アルバムを作るにあたって、そういう要素を少しだけ多くしたいなという気持ちはなんとなくあったんですよね」

――〈角が立つ〉という言葉がありますけど、そこに丸みを持たせて成立させることが芸事だし、エンターテインメントの本質にある粋やおもしろさだと思います。お父さんである高田渡さんもまさにそういう表現者でした。

「父の影響は、音源からもありますけど、僕が若い頃にライヴも一緒にやっていて、そこで見た立ち居振る舞いとか、そういうものが自分に残っていると思いますね」

――そういう意味では、年齢を重ねてギタリストとして、シンガー・ソングライターとして純化して研ぎ澄まされていくという道もあったと思うんですが、そうではなく、こうしていろんな情報量をまといつつ遊んでいる現在の姿というのがむしろ自然だし、よりリラックスできるやり方だったんだろうなと改めて感じました。

「まさにその通りですね。ジェイムズ・テイラーのライヴとかを観ると、音源だけだとすごく真面目っぽいけど、MCがめちゃめちゃおもしろかったりする。そういうことを知るにつれ、自分のなかでもそうしたいという思いがだんだん強くなってきてるのかもしれないです」

 

アナログ的な発想と、現代的な音作り

――もちろん、スティール・ギター・プレイヤーとしてのご自身の出自も細野さんの“最後の楽園”、ジャズ・スタンダードである“OPUS ONE”のカヴァーなどで、アルバムの要所に配置してる。その構成も粋ですね。あそこでピリッと締まるので、〈あ、おもしろいだけじゃなくて、ちゃんとした職人さんだった〉とみんな思い出すという効果もある(笑)。

「それはもう完全にアナログLPを意識しての配置です(笑)。“最後の楽園”でA面が終わり、“OPUS ONE”でB面が終わるイメージなんです。たとえCDのフォーマットであっても、A面B面で裏返して一回リセットする時間って自分にとっては必要だし、アルバムとしてのトータル・タイムもLPの収録時間を意識しましたね。

LP、CD、カセット、ストリーミングと、今後はいろんな形で音楽って聴かれるようになるでしょうけど、そんななかでも自分の軸をちゃんと持ってないといけないなと最近思いはじめていて、僕はアナログ・レコード的な発想は大事にしたほうがいいなと感じてます。曲順もそうだし、アートワークもそう。そこはきちっと貫こう、という確固たるものがある気がします」

――先ほどから少し細野さんの話も出てますが、実は今回の『FRESH』はたまたまというか、運命のあやというか、細野さんの新作『HOCHONO HOUSE』と同日発売でした。

「そうなんですよ。ちょうど細野さんが新作を作ってるときに、僕もアルバムを作っていたんです。細野さんも最近のインタヴューなどで、やっぱりいまのEDMやヒップホップの音の作りはどうしても無視できないとおっしゃってたし、僕自身もすごく意識してたんです。僕も去年いちばん聴いてたのはマック・ミラーやアンダーソン・パークだったし。

ただ、それを音楽のフォーマットとして真似するのはおもしろくないですけど、並べられたときにあまりにこっちの音像がしょぼいと聴いてもらえないと思ってはいました。そういう葛藤や悩みみたいなものを細野さんも時を同じくして感じていたということにすごくびっくりしました。こんな大先輩でも同じようにもがいてるんだと思ったら、僕も負けてらんないし、ちゃんとトライしないとダメだなと思いましたね。

音の転換期っていままでもあって、いろんなアーティストが悩んできたと思うんですけど、細野さんはそこにきちっと向き合ってずっと戦ってきた人だからこそ、2018年のいろんな音像に対する思いがあったんでしょうね。僕も曽我部(恵一)くんのラップ・アルバム(『ヘブン』)(七尾)旅人くんのアルバム(『Stray Dogs』)を聴いたときに、同じものを感じた。みんな出口は違うんですけど、感じてるものは同じだったんだということがすごくうれしかったですね」

細野晴臣の2019年作『HOCHONO HOUSE』収録曲“住所不定無職低収入(New ver.)”

 

〈FRESH〉であり〈REFRESH〉でもある音楽との接し方

――僕がもうひとつおもしろいと思うのは、40代くらいのアーティストが作る作品がすごくおもしろくなってきてることです。かつてはその世代はもうヴェテラン扱いで、音楽的な斬新さでも若い世代に追い抜かれて、という図式がある程度あったと思うんです。でもいまは、たくさんの情報量を維持しながらそのバランスを図って混沌を作り出せるという面では、それが備わるのはその年代なのかなという気がしてます。

「そうですね。僕も同年代の仲間を見てて、楽しいんですよ。曽我部くんがやってるチャレンジに僕も共感するところがあるし、大先輩の細野さんのアルバムにもパワーをもらうし、自分にもまだまだやれることがあるなと思える意味でも、楽しみが増えてる。

それこそニューウェイヴやテクノ・ポップの全盛期に楽しみをなくしてしまった先輩たちもいたかもしれない。でも、そこに積極的におもしろさを見出してやってきた人たちもいて、そういう人たちはいまでもちゃんとおもしろいんですよ。いろいろ形を変えながら自分たちの音楽を結果的に貫いてる」

――なおかつ、細野さんがライナーにも書かれてましたけど、すごく苦しんだアルバムだから、それをあざ笑うためにタイトルを〈HOCHONO HOUSE〉にした、ということ。苦しみをユーモアとして表現するという粋は受け継がれていくべきだと感じました。

「そうですね。やっぱり細野さんとライヴをやってていつも思うし、大瀧さんもそうなんですけど、ユーモアというものがいかに大事かってことですよね。それがひとつのテーマなんですよ。

そういえば、細野さんに僕の新作を聴いていただいて、開口一番におっしゃったのが『今回はふざけてるね』でした(笑)。ありがたい言葉だなと思いました。いまの日本の、このやるせなさのなかでは、音楽のなかにはせめてユーモアがあってほしいというのはなんとなく思っていたことなので」

――その感覚は『FRESH』にもすごくあると思います。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『Fresh』的でもあるというか。閉塞した状況を自覚したうえでのリフレッシュ感もあるのかなと。

「実はこのアルバムのツアー・タイトルが〈FRESH&REFRESH〉なんです。前作を作っててG・ラヴやソウル・コフィングの楽しさをひさびさに再発見したように、いままた音楽の楽しさを再発見してる。だから、〈FRESH〉であり〈REFRESH〉であるという気がします。また不思議なもので、僕もサブスクリプションでいろんなものを聴くんですけど、そこで見つけた新しい盤があると、それをまたアナログで買ってしまう」

――それもメディアとの接し方という面での〈FRESH〉であり〈REFRESH〉。

「サブスクを否定的に思う人もいるかもしれないんですけど、そういう意味でいうと、僕はかつてたくさんあった音楽番組を観たり聴いたりしてる感覚に近いかもしれないですね」

 

〈いくらでも新しいものを作りたい〉いまの高田漣

――この新作を作ったことで、また次から自由になりますよね。

「そうですね。いまはもうやりたいことが広がりすぎてて、自分のなかで〈あれもやりたい! これもやりたい!〉って子どもみたいになってるんで、いくらでも新しいものを作りたいって気持ちです。

僕は、デビューはずいぶん前だし、もともとインストゥルメンタルのプレイヤーだったし、アルバムもインストだった。それがだんだん自分の歌にシフトしていって、そのなかでもいろんな試行錯誤をしてきたんですけど、父の曲を歌うアルバム(2015年作『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』)を出してようやく肩の荷が下りた。

その後が『ナイトライダーズ・ブルース』だったので、その流れでいまもなんか力が抜けてる感じなんです。その作品が賞をいただいたことで、またさらに肩の力が抜けたというか。力まずにいろんなものに取り組めるようになったことは確かです」

――今後もそのペースでいけそうだし、これからの高田漣が相当楽しみに思えます。

「そうですね。なるべくアイデアがあるうちに作るというスピード感は日々心がけているので。普段でもちょっと思いついたおもしろい言葉とか、〈あの曲カヴァーしてみたいな〉とか、そういうのは書き残してるし、いろんな人とライヴやってても〈あ、このグルーヴおもしろいな〉とか〈こういうコード進行いいな〉とかみたいなきっかけも自分のなかでいちばん重要だったりするので、また隙あらば作りますよ。

そういう意味では、新作も前作のツアーとか細野さんのライヴとかの〈隙あらば〉で作ったというアルバムなので。家のなかで〈さあ、新しいアルバムを作りますよ。今度の新機軸はなに?〉みたいな感じでは作らない。衝動みたいなものをいつも大事にしてます」

――今年の5、6月には細野さんのアメリカ公演(NY、LA)もありますしね。

「そうですね! そのこともいろいろ自分に影響してくると思います。細野さんが海外で評価されていることもそうですけど、日本語で歌うということがネガティヴなことじゃなくて、それが世界に通用することになってきてる。そういうある種のアンチ・グローバリズムみたいなものが絶対これから大事になってくると思うし、海外で演奏することで得るものはあるはずだと思ってます」

 


Live Information
FRESH&REFRESH 2019 -梅雨のレン祭り-

出演:高田漣(ヴォーカル/ギター)
伊藤大地(ドラムス)/伊賀航(ベース)/野村卓史(キーボード)/ハタヤテツヤ(キーボード)

6月16日(日)大阪・千日前 ユニバース
開場/開演:16:15/17:00
前売り:4,500円(全席自由席/税込/整理番号付/ドリンク代別)
※小学生以下無料
※ご入場は整理番号順となります
※ご入場時に学生証提示で1,000円キャッシュバック

チケット取り扱い
湯仲間直売所:https://www.shimizuonsen.com/ouken/
チケットぴあ:0570-02-9999 http://t.pia.jp/
ローソンチケット:0570-084-005 http://l-tike.com/
イープラス:http://eplus.jp 

お問い合わせ(清水音泉):06-6357-3666(平日12:00~17:00)
http://www.shimizuonsen.com

 

6月23日(日)東京・鶯谷 東京キネマ倶楽部
開場/開演:16:15/17:00
前売り:4,800円(指定席/税込/ドリンク代別)
※6歳以下1名まで入場無料、座席が必要な場合は要チケット
※ご入場時に学生証提示で1,000円キャッシュバック

チケット取り扱い
チケットぴあ:0570-02-9999 http://t.pia.jp/
ローソンチケット:0570-084-003 http://l-tike.com/
イープラス:http://eplus.jp
LINE TICKET

お問い合わせ(ホットスタッフ・プロモーション):03-5720-9999(平日12:00~18:00)
http://www.red-hot.ne.jp/

チケット一般発売日:4月20日(土)

企画制作:TONE 
協力:KING RECORDS