東京女子流のほぼ全作品に関わることで、支持基盤や評価を新たにしている近年の松井寛。例えば往年の日本産R&Bブーム期にMISIACalynらの仕事で名前を記憶している人は驚くかもしれないが、もともとはCMソングを手掛けながら歌謡曲〜J-Pop方面にコミットし、一方でハウス方面のアンダーグラウンドな評価を得るというステップをひょいひょいと踏んできた才人である。この10年ほどは加藤ミリヤからSweetS名取香り山田優モーニング娘。天上智喜CQC'sらの楽曲で作曲/編曲を幅広く手掛け、ディスコやフィリー・ソウルの意匠も濃厚に取り込むゴージャスな手捌きの担い手として定着している彼が、久々のアルバムを完成させた。それが、松井自身のリーダー作と、東京女子流ナンバーの松井リミックス縛りによるミックスCDをセットにした『Mirrorball Flare + Royal Mirrorball Discotheque』である。

松井寛,東京女子流 Mirrorball Flare + Royal Mirrorball Discotheque avex trax(2014)

  ただ、リリースそのものの背景に昨今の安定した評価軸があるとしても、作品の中身は事前に想像されていたであろう類のストレートなミラーボール・アルバムとは異なる。幕開けは桜井青(cali≠gari)のギター・ソロと中西俊博のヴァイオリンを従えたエレガントにしてダンサブルなインスト、続く宇多丸のナレーション的なラップに筑田浩志のギターをあしらった“Universe of Love”はロマンティシズムとミニマリズムの滲むスペイシー・ファンク……と、序盤だけでも自由さは相当なもの。以降もLinQの姫崎愛未によるモノローグを用いた不思議なナンバー、シンガー・ソングライターの和田昌哉(“ヒマワリと星屑”の作者でもある)を声として使ったリズム・ナンバー“Bogota”など独創的な展開の連続で、やれる機会にやりたいことをやったノリは角松敏生の新作にも通じる気がする。なお、ミックスCDのほうは木村コウがDJミックスを担当した直球で興奮できる仕上がり。好奇心をそそるミラーボールは裏表なく回転しているのだ。

 

▼『Mirrorball Flare + Royal Mirrorball Discotheque』に参加したアーティストの関連作品

上段左から、東京女子流の2014年のシングル“Partition Love”(avex trax)、cali≠gariの2013年のセルフ・カヴァー集『2』(密室ノイローゼ)、中西俊博のベスト盤『中西俊博 ゴールデン☆ベスト No.1』(フォーライフ)、RHYMESTERの2013年作『ダーティーサイエンス』(NeOSITE)、ミトカツユキの2013年作『Soul Noodle』(毛蟹ソウル)。下段左から、LinQのニュー・アルバム『AWAKE 〜LinQ 第二楽章〜』(ワーナー)、書上奈朋子による2009年のサントラ『IL VENTO E LE ROSE 愛するということ』(ポニーキャニオン)、KO KIMURAの2005年作『ROGUE』(UNITY)
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▼松井寛の関わった近年の作品

上段左から、Berryz工房の2012年作『愛のアルバム⑧』(hachama)、DiVAの2012年のシングル『Lost the way』、東京女子流の2012年作『Limited Addiction』(共にavex trax)、平山みきの新装ベスト盤『Beyond〜平山みき オール・タイム・ベスト』(コロムビア)、Serenaの2013年のシングル“ピンクの弾丸”(ARIOLA JAPAN)。下段左から、東京女子流の2013年作『約束』(avex trax)、流星群少女のファースト・アルバム『出る杭は撃たれる』(Inception)、MISIAの2013年のベスト盤『Super Best Records -15th Celebration-』(ARIOLA JAPAN)
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