59年にデトロイトで産声を上げた音楽史における最重要レーベルのひとつが、スタートから60周年を迎えた。時代の流れと共に拠点や経営母体、シーン内での位置付けもサウンドのカラーも変わってきたモータウン。その栄光の歴史は当然2ページで振り返れませんが!

 今回で114回を数えるこの連載もよく考えると15年ぐらいやっているわけだが、その初回で取り上げたのはモータウン。当時は映画「Standing In The Shadow Of Motown(邦題:永遠のモータウン)」の公開もあって、華やかな舞台の裏で名曲の誕生に人知れず力を尽くしてきた裏方たち=通称ファンク・ブラザーズが俄に知られるようになった頃だ。ただ、そういうわかりやすいドラマティックな側面に興味が向きすぎた結果、あるいはレアリティーの追求が深まった結果、逆に表舞台の作品が陰になってしまう傾向も出てくるのでは?という考えもあって、この連載は逆にスタンダードとされてきたブツもそれ以外の作品も混在させながら紹介してきた。まあ、その後は〈ブラック・ミュージック〉というちょっと懐かしめのワードがキャッチーなものとして急浮上した時期もあったが、その種の言葉を使いたい層にはソウル芸能スタンダードのようなものはさほど重要視されず、どっちにしろ知られていないものが膨大にあるという状況は変わってはいない。

VARIOUS ARTISTS Motown 60 ユニバーサル(2019)

 で、そんなこんなでモータウンも60周年。55周年タイミングだった連載の第69回では〈80年代のモータウン〉をピックアップしたものだが、今回も60~80年代に残された多様な作品が60タイトルもリイシューされたのに合わせて、そのラインナップのごく一部を紹介している。また、それと同時に日本独自に選曲された3枚組のレーベル・コンピレーション『Motown 60』もリリースされた。こちらを聴いて改めて感じ入るのは、〈サウンド・オブ・ヤング・アメリカ〉を標榜した時代から世界屈指の老舗ブランドとなった現在に至るまで、60年に渡ってモータウンがアーバン~ポップスのシーンをリードしてきたという事実だ。つまり、それはとても一口では語りきれないほどの膨大な名曲と、一面的ではありえないさまざまな側面を彼らがクリエイトしてきたということの表れでもある。60年代の名曲を中心にしたDisc-1には、ベリー・ゴーディJrのペンによってタムラから59年に出されたバレット・ストロング“Money(That's What I Want)”を筆頭に、マーヴェレッツ“Please Mr. Postman”やマーサ&ザ・ヴァンデラス“Heat Wave”、シュープリームス“Baby Love”、テンプテーションズ“My Girl”、フォー・トップス“I Can't Help Myself(Sugar Pie, Honey Bunch)”、ジャクソン5“I Want You Back”……と思わず羅列してしまうほどスタンダード化した名曲を網羅。70年代のLA移転からディスコの流行とファンクの定着を経た80年代半ばまでを対象にしたDisc-2には、マイケル・ジャクソンやコモドアーズ~ライオネル・リッチー、スモーキー・ロビンソン、エディ・ケンドリックス、ミラクルズ、デバージ、リック・ジェイムズ、ティーナ・マリーらレジェンドたちのクロスオーヴァー・ヒットが居並ぶ。そして、80年代末のニュー・ジャック期から現代までを凝縮したDisc-3にはボーイズ“Dial My Heart”やシャニース“I Love Your Smile”からジョニー・ギル、ボーイズIIメン、ジャネイ、ブライアン・マックナイト、エリカ・バドゥ、インディア・アリー、レミー・シャンド(!)、ケム、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ミーゴス、そしてニーヨ“Pour Me Up”までの楽曲が収録されていて、時代と寄り添ってきたレーベルの歩みが駆け足ながらも一望できる内容と言えそうだ。そうやってザッと聴いてきてみると、特に80年代後半から90年代以降の作品は(配信も含めて)リイシューが未開拓なものばかりなので、今回の60周年を機にそろそろ体系的な復刻が進むことも期待したくなります。 *出嶌孝次

近年のモータウン作品。

 

最近のモータウン作品。