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マーヴィン・ゲイ幻のアルバム『You're The Man』がついに登場

 〈Motown 60〉という字面から、99年のマーヴィン・ゲイの生誕60年記念を祝うトリビュート盤『Marvin Is 60』を連想した人もいそうだが、レーベルとの愛憎劇をキャリアに刻んできたこのレジェンドは当然モータウン史には欠かせない人物に違いない。そんな彼の代表作を挙げるなら、社会問題への意識を込めた71年のニュー・ソウル名盤『What's Going On』か、あるいは至高の性愛ソウル盤とされる73年の『Let's Get It On』が双璧となるだろう。で、このたび正式リリースとなった『You're The Man』は、それら2枚のクラシックに挟まれる格好で制作され、72年に出るはずだった幻のアルバムである。

MARVIN GAYE You’re The Man Motown/ユニバーサル(2019)

 当時の先行シングルとして世に出た“You're The Man”は同時期のカーティス・メイフィールドにも通じる緊迫感を備えたMPGファンクの佳曲だったが、もともと内容についてベリー・ゴーディJrと意見の対立があり、同曲がヒットを逸したことでアルバムの発売中止が決まったとされる。結局そのテイストは同年の『Trouble Man』に受け継がれ、マーヴィンはオーセンティックな『Let's Get It On』を作り上げることになり、お蔵入りした『You're The Man』収録曲のうち、“I'm Gonna Give You Respect”はGCキャメロンに、“My Last Chance”はミラクルズにそれぞれ提供。マーヴィン自身の録音が世に出たのは彼の死後で、リミックスを施されてシングル化もされた“The World Is Rated X”(86年)を皮切りに、編集盤などの目玉として少しずつ開陳されてきた。

 つまり、すでに〈幻〉の概形はイメージできる状態ではあったのだが、2014年に7インチで蔵出しされたマイゼル兄弟との“Woman Of The World”なども含め、こうして普通に並ぶことで見えてくるものもある。改めて聴くと全体のムードは緊迫したファンクネスよりも『Let's Get It On』の前段階に相応しくソウルフルなもので、マーヴィン持ち前の洒脱な温かみと哀愁味が存分に楽しめる作品と言えそうだ。ひとまずはアナログと配信のみのリリース……ってことで、CDが出たら改めて紹介したく思います。 *出嶌孝次

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