So Sorry,Hobo梶原笙の「聴きました」「読みました」「書きました」「そうですか」

第3回「ここに音楽を捨てないでください」

3月16日

この月の下旬はなんというか全体的に調子がよくなくて、家でじっとしていることが多かった。僕の脳は勝手に時間が足りない(無職なのに)と思いこんでパニックになってしまうところがあって、この日もそんな感じだった。ライブを観にいこうと思っていたのだけどいけず、ベッドに横になったまままとめ買いしたミステリを読んだり、「カブのイサキ」を一気読みしたりしていた。めちゃくちゃ時間足りてるじゃん。
こうやってあとになってふりかえるとなんにもパニックになることなんてないのに、なんでなんだろう。世のなかのことなんてほとんどなにもわからないけど、自分のことがいちばんわからないな。

夜になってライブの開演時間がすぎたころに起きあがれるようになり(そういうふうにできている)、ユーチューブで音楽を聴いた。

この日聴いたなかでいちばんよかったのはブラックミディだった。南ロンドンのすごく若い(高校生?)バンドで、なんでこんな音楽をやろうと思ったのかまったくわからないところがいい。あとこんなに変な曲なのにメンバー全員すごく楽しそうなのもすてきだ。バンドって楽しいもんな。

ショーン・レノンとレス・クレイプールのユニットがいつのまにか新譜を出していた。相変わらず振りきった悪趣味さ。ショーン・レノンは本当に声がかっこいい。

タイのロックシーンでは有名(?)なスロン・サンティによるサバスのカバー。これで喜べない人となかよくするのはむずかしいなと思う。リフにもどるときの絶妙なずっこけ感が最高。

あとキング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードのPVを八倍に伸ばしている動画を見つけて爆笑した。なにを考えてこんなことをやったんだろう。元の曲の面影はまったくなく、ドローン的な味わいになっている。

世のなかには音楽がたくさんあるんですね、と思った。

 

3月20日

渋谷でバンドの練習だった。
新曲のアレンジを考えて、いろいろと意見を出しあった。
「ここでいきなり三拍子になって、それからなにごともなかったかのように五拍子になろう」「アウトロはリフをゆっくり演奏しよう」「いきなりめちゃくちゃ元気なサビをいれよう」
こんなことを言っているあいだは楽しくてしょうがないのだけど、実際にあわせてみるとうまくいかず、結局うんうん唸りながらなにも考えずに弾いていたフレーズがはまって採用されることが多い。

あいかわらずの無計画さ。でも、ほかのバンドはどうなんだろう。聞きたいという気持ちと、こわいから聞かないでいいかという気持ちがある。
「最初に頭に浮かんだアレンジにむかって、メンバーで意見を交換しつつ調整していく感じかな。思いつきで根本から変える? 遊びでやってるんじゃあるまいし、そんな適当なことするわけないじゃん」なんて言われたら、どうしたらいいのかわからない。
たぶん小刻みにふるえて、それからしずかになる。

 

3月27日

一週間なにもなかった。
いや、あるにはあったけどそれは「鶏肉をたくさんの唐辛子と炒める料理をつくったら、やっぱり辛かった」とか「豚バラブロックをスーパーで見かけるたびに角煮をつくろうかなと思うものの、圧力鍋が家にないので面倒に感じて結局手にとらない」みたいなことばかりで、つまりここに書く内容じゃない。
なんて言ったってここは「音楽ブログ」なのだ。再確認。

バンドの練習だった。
30日にライブがあるので、それのセットリストをきめて練習した。ふだんのスタジオでは曲づくりばかりしていてあまり練習をする機会がない。
一番手なのでいつもよりも元気な感じのセットリストにした。といっても僕らに出せる元気なんてたかが知れてるのだけど。

 

3月28日

深夜の2時ぐらいに井の頭公園に歩いていって、桜を見た。人がほとんどいなくてしずかだった。
あまりにも似合わないのでそんなに言葉にすることはないけど、花は好きだ。梅とか、桜とか、菜の花とか、紫陽花とかを季節になると見にいく。初夏の新緑や秋の紅葉もいい。僕は変なところでのんびりしたり急にせっかちになったりしてしまうので、あまり人気のない場所や時間を選んでぼうっと見ることが多い。もちろん所謂名所と呼ばれるところのものも手入れがいき届いていてすばらしいのだけど。

いちど家に帰ったあと、まだ歩きたりなかったので今度は自宅から井の頭公園とは反対方向にある煙突を見にいった。
煙突はゴミ処理場のもので、百メートルの長さの筒が周辺になにもない場所に突っ立っているのが面白い。家から歩いて30分ほどかかるのだけど、かなりの頻度で見にいってしまう。

花や煙突を見ていると「こういうものがいいな」という、あこがれなのかなんなのかものすごくあいまいな気持ちになることがあって、それと似た感触がいい音楽(いい音楽ってなんだろう)やいい小説(いい小説ってなんだろう)やいい詩(いい詩ってなんだろう)にもある。
その感触を持ったものが僕にとっての好きな(音楽)(小説)(詩)ということになるのだけど……。まあ本当に個人的な感覚の話だ。でもみんなかたちはちがえど、こういうことを感じながら好きや嫌いやどうでもいいを仕分けしているんじゃないかなと思う。
そういうものをつくれたらいいな。つくれてるのかな。自分ではわからないな。

家に帰り、アイドルズを聴いてきゃっきゃとはしゃいだ。

 

3月30日

吉祥寺シルバーエレファントでライブだった。まあまあひさしぶりのライブだ。
この日は岩井が別バンドでもう一本ライブを予定していて、その関係で出番が一番手になった。
ライブハウスの人に配慮してもらったおかげで、本来できなかったはずのリハーサルをたっぷりできた。ありがとうございます。

ライブは、ライブだった。

演奏が終わったあと、観に来てくれていた林(宏敏)くんと吉祥寺に新しくできたネポというライブハウスに移動した。小雨が降っていて、ネポがそこそこ駅から遠かったので濡れてしまった。林くんがフードをかぶっていて(僕の服にはフードがなかった)うらやましいなと思った。
ネポはジブリ美術館の近くにあって、つまり僕の家からもまあまあ近かった。オープン記念のイベントに友だちのゲートボーラーズが出演していたので、それを観に来たのだった。
ゲートボーラーズを観たのは三か月ぶりとかで、あいかわらずとてもよかった。どんどん丁寧になっていくなと思った。

観終わってすぐにシルバーエレファントにもどると、トリのバンドが最後の二曲です、とMCで話しているところだった。
終演後、お客さんや共演の人とすこし話して、コーラを飲んでから帰った。この日ブッキングしてくれたスタッフの福井さんに「梶原さんってすごく怖い人だと思ってたんですけど、話したらそうじゃなくて安心しました」と言われた。僕は「たはは」と言った。

家に帰って機材をしまったあと、ネポにいった。ゲートボーラーズの本村とイタルが機材の搬出をするところだったので手伝って、そのまま吉祥寺駅前のガストでご飯を食べた。たくさん食べようと思っていたのに、なぜかそんなに食べられなかった。
かっこ悪い歳のとりかたはしたくないね、みたいなことを話した。あとブラックミディかっこいいよねとも話した。
二人と別れるころには雨が強くなっていて、すっかり濡れてしまってからコンビニで傘を買った。家に帰ったときにはシャワーを浴びる気力もなかったので、ドライヤーを雑にあてて寝た。

 

3月31日

挫・人間のライブが新宿ロフトであり、その手伝いにいった。
新しいサポートドラムのナカジ氏とはこの日が初対面で、そういった形式のあいさつをした。
この日のライブはピストル・ディスコというDJグループの解散イベントだった。打ちあげに出るのかなと思っていたけどそんなことはなく、出番が終わったら爆速で撤収していた。

事務所に機材をもどしたあと、そのままみんなでおおきなラーメンを食べにいった。夏目が「マシでお願いします」と言った結果、ギャグみたいな盛りつけのラーメンが出てきて笑った。僕は普通の量にしてもらった。
食べ終わったあと事務所で解散して、そのまま下川の家にいった。いつものように音楽を聴いた。

最初はライブハウスで最近よく名前を聞くバンドをいくつか聴いて、そのどれもがあまり好みじゃなかったのでなんというか落ちこんだ。
衝動の吐き出しかたが二十年ぐらい変わらないのは率直に言って嘘だと思うよ、みたいな話をしたあとに下川が僕のバンドの曲を流しはじめたので、なんなんだこいつ、と思った。

そのあと五泉菜摘の名前が下川から出てきてびっくりした。五年ぶりぐらいに聞いた名前だ。
調べたらいまはもう活動していないらしい。どこかでなにかしら音楽をやっていてほしいな。

いま聴いてもやっぱりいい。宅録をやりたくなる。

そこからすこし前までそこそこの数いた(ニコニコ動画やサウンドクラウドではなく)ユーチューブに自作曲をアップしていた人たちはどこにいったんだろうという話や、やっぱり何回観てもサカナクションの“アイデンティティ”のPVのパチンコだったことがわかる瞬間(文字にすると意味不明だな)でめちゃくちゃ笑ってしまうという話をしたあと、バンプオブチキンを聴いて藤原基央氏かっこよすぎるねとなった。脈絡なくそうなった。
そろそろ黄色いレスポールスペシャルを買う時期が来たね、みたいなことを言いあいながら、終電の時間になったので帰った。

でも僕がいまほしいのはこっちかな。

 

【プロフィール】
梶原笙

梶原笙 (かじわらしょう)

ロックバンド、So Sorry,Hobo(ソーソーリーホーボー)のギター・ヴォーカル。​バンドは「内在するファンタジーの再現」を目標にマイペースに活動中。話と文章と髪が長い。オタク。

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