INTERVIEW

タワーレコードはなぜアナログ専門店〈TOWER VINYL〉を始めたのか?

担当者に訊くコンセプトやねらい

タワーレコードはなぜアナログ専門店〈TOWER VINYL〉を始めたのか?

タワーレコードのアナログ専門店〈TOWER VINYL SHINJUKU〉が話題だ。

アナログ・ブームと言われるようになって久しいが、日々多数の海外旅行客が中古盤を買うために日本を訪れる一方で、新作のリリースも増え続けている。そんな状況のなかでタワーレコード新宿店の10階にオープンしたTOWER VINYLは、レコード店としては珍しい明るく開放的な空間設計で評判を呼んでいる。

しかしタワーレコードはどうしてアナログ専門店を始めたのか? またTOWER VINYLはどんなコンセプトの店舗なのか? オープンから1週間後、多くの音楽ファンが気になっているであろう疑問を、TOWER VINYLを担当するリテール事業本部旗艦店舗統括部の花野顕に訊いた。

 

家族で買い物できるレコード屋

――開店初日のレポート記事は多くの方に読んでいただけました。特にSNS上での反響が大きく、みなさん〈どんな場所なんだろう?〉と気になっているようです。

「ありがたいですね。実際、レコードを探すという目的ではなく、〈どんな場所なんだろう?〉という好奇心で来ていらっしゃっている方もいると感じています。それがすごくうれしい。〈限定盤が欲しい〉〈イヴェントへ行きたい〉といった明確な目的とは違う来店動機が作れているので。〈なんとなく行きたくなってしまう場所にしたい〉と考えていたのが、いま実際にそうなっています。来店された方に〈おもしろい場所だ〉と思っていただければ、また来ていただけるのかなと。

それと、いままではそれほど見かけなかったようなベビーカーを押した若いご夫婦や海外からのご家族のお客様を見かけるようになって、〈ああ、いいなあ〉と思っています。レコード屋って一人で行くことが多いじゃないですか?」

――基本的に狭いお店が多いですしね。確かに、TOWER VINYLの通路は車いすやベビーカーが通れるほどの広さです。

「家族が買い物をするお店のなかにレコ屋が入れたというのはよかったです。共通の趣味の方もいらっしゃっているとは思うのですが、例えば、一人の親御さんがレコードを見ている一方で、もう一人の親御さんとお子さんがカクバリズムのポップアップ・ショップを見ているという海外からのご家族も見かけました。それはいままで考えられないような新しい動きでしたね」

 

音楽の〈いま〉をアナログでも届けていく

――開店から1週間が経ちました。アナログの話題作は、なんといっても星野源の2018年作『POP VIRUS』と2015年作『YELLOW DANCER』ですよね。昨日がいわゆるフラゲ日で、本日が発売日です

※取材は2019年3月27日に行った

「7階で試聴できるようにして、10階(TOWER VINYL)でストア・プレイをしています。〈レコードは音が良い!〉という反応はTwitter上でもありますね。〈レコードっていいな〉という体験を提供できたと思っていて、それこそが〈敷居は低く奥が深い〉というコンセプトを掲げるTOWER VINYLの役目だと思っているんですよね。

理屈じゃない部分で〈あっ、なんか音が良い〉と感じられることも体験の一つだと思います。レコードを買うというところまでいかなくても、〈レコードってなんか楽しいな〉って思っていただいて、音楽に触れる人やレコード人口が増えていけばいいなと」

――実際、星野源のアナログは売れていますか? 

「もともとご予約も多かったんですが、やっぱり売れていますね。タワーのなかでの比較ではありますが、ダントツです」

――目立った動きとなると中古ではなく新品になると思いますが、他にこの1週間で売れた商品はありますか?

「やっぱりSOLEIL(2018年作『SOLEIL is Alright』。アナログ盤は今年3月20日にリリースされた)が売れています。ノラ・ジョーンズのファースト・アルバム(2002年作『Come Away With Me』)も売れていて、それは以前から全店的にロングセラーだったんですが、さらに伸びた。あとは、先週リリースされたアメリカン・フットボールのサード・アルバム(『American Football (LP3)』)。そういう新譜レコードを買いたい方にも来ていただいています。

TOWER VINYLで新品を大きく展開したのは、現行のアーティストの作品や音楽の〈いま〉を届けていくという、いままでタワーがCDでやってきたことをアナログでもやっているだけなんです。アナログというフォーマットへの興味がいますごく高まっている状況なので、そことうまく噛み合えば〈新作をアナログでほしい〉という方もさらに増えそうだなと」

 

なぜタワーレコードはアナログ専門店を始めたのか?

――そもそも今回は〈なぜタワーレコードがアナログ専門店を始めたのか?〉ということをお訊きしたかったんです。きっと音楽ファンはみんなそこが気になっていると思うので。

「アナログを扱うというのは、音楽に関することなのでごく自然な流れではあったんです。音楽の旬なことをお届けしたり、音楽に関する新たな体験や価値を提供していくという点で、いまアナログというものが盛り上がっている。なので、良いタイミングだった。

いままではCDが中心でしたけど、〈アナログ専門〉とすることでまた別の音楽の楽しみ方をお客様に提示できるのかなと。さらに、いままでタワーレコードに触れていなかったアナログ・ユーザーや海外の方々にも来ていただけると思いました」

――もちろんタワーレコードは歴史的にはアナログの時代に始まったわけですが、現在はCDショップというイメージがありますからね。

「ええ。それと、若い音楽ファン層の〈スマートフォンで、ストリーミングで、イヤホンで聴く〉という現在の状況を否定せずに、そういった状況を踏まえて、その対極にあるような〈アナログで、スピーカーで聴く〉という楽しみ方が逆に噛み合うのではと思ったんです。全然違うものとして成立するかなと。

一方で、いままでタワーレコードでCDを買っていただいていたお客様にも、〈アナログってこんな楽しみ方があるんだ〉という新しい発見をしてもらいたい、そういう提案をしたいという思いも強くありました。

〈じゃあ、どういうお店だったら来てもらえるんだろうか?〉と考えたときに、間口が広く、誰もが来やすい場所で、レコードがどういうものなのかを音響などでちゃんと体感できるようなお店にしようと思ったんです」

――開放感のある店内の雰囲気や通路が広い設計もそういったアイデアやコンセプトから導き出された?

「そうですね。マニアの方は欲しいモノがあればどんなお店でも行かれると思うんですけど、そうじゃない人たちが入りやすくて買い物をしやすい店にしたかったんです。これまでアナログ・ユーザーじゃない方にとっては、密室の狭い空間で他のお客様のことを気にせざるをえない点を解消したお店であれば来やすいのかなと」

 

TOWER VINYLをきっかけにレコードに触れてほしい

――TOWER VINYLは棚も低いですよね。

「アメリカなど、海外のレコード・ショップの内装をいろいろと見たうえで、10階フロアの広さをどう伝えるかを考えました。開放感があるほうがいいなと思ったので、面陳をなくして、什器(商品をディスプレイする棚やケース)を低くして、抜けが良い空間を目指しました」

――海外と比べても、こういった雰囲気のお店は見たことがないという感想もあるそうですが。

「お店の感想としては〈開放感〉という単語をよく見かけます。いわゆるレコ屋のイメージとは違うことを感じてもらえているのかなと。窓の見晴らしから外の景色の写真を撮っている方も多いです。〈気持ち良くて楽しい場所〉〈トレンドの場所〉ということをきっかけにレコードに触れてもらってもうれしいんです。

そういえば、週末にレコード・プレーヤーが結構売れたんですよね。TOWER VINYLをきっかけにレコードを買ってみよう、聴いてみようと思う方を増やしたいという目的に対しては手応えを感じていますね」

――アクセサリーも売れていますか?

「結構売れているんですよ。クリーニング・キットや内袋など、レコードのサプライ品もそうなんですが、トートバッグやTシャツのノヴェルティーも売れています。Tシャツやスリップマットは海外の方が手にされていることが多いですね。お土産の要素もあるからだと思うんですけど。TOWER VINYLという場に来ていただいて、いろいろな形で音楽にまつわるものに触れてもらっていると思います。もちろん、中古のマニアの方からは手厳しいご意見もいただいています」

――そうなんですね。

「はい。品揃えであったり、価格設定であったり、検索性であったり、他所との違いからご意見をいただいています。そのあたりは改善していかなければいけない。特に中古はお店としてこれから成長していかなければならないと思っています。

お客様の動向を見てチューニングしていきたくて。思ったよりも安い商品のほうが売れているので、もうちょっとレアなものやそれなりの値段が付いているものも売りたいですね。そこはまだまだお店としての課題です。それにはお客様との信頼関係の構築が必要だと思っています」

 

巨大スピーカーで正面から音が来る店内の音響設計

――入店すると、やっぱりあの巨大なスピーカーが目に付きますよね。ALTECのA5という劇場用の機種だそうですが。

「これまでタワレコのすべての店舗のスピーカーが天吊りだったんです。でも、アメリカへ視察に行ったとき、あるレコ屋の入口で、顔の高さにあるスピーカーからバシッと音が鳴っていたところがあったんですよ。そのとき入った瞬間に気持ちが切り替わる感じがあって、〈こういうのいいなあ〉と思ったんです。他のお店でも身体と同じ高さから音が鳴っているところが気持ち良いなあと思いました。なので、TOWER VINYL SHINJUKUも天吊りはやめて、絶対に正面から音が来る形にしようと。

音の波動を感じることがイヤホンで音楽を聴いている人にとっての新たな体験になるだろうなと思ったんです。それで、〈どういうスピーカーがいいんだろう?〉と探しているなかで、商品本部のオーディオ・マニアに訊いたら、即答でALTECの名前が出てきたんですよ」

――へー!

「もともとお店のコンセプトとしてアメリカを意識していたので、アメリカのスピーカーはぴったりでした。ヴィンテージを探してもらったら、すぐに良いタイミングで見つかったので購入したんです。それで、〈あのスピーカーを活かすにはアンプどれがいい?〉と考えて、McIntoshの真空管アンプで鳴らすことにしました。

レコードの音を体験してもらいたいという思いやお店の雰囲気からスピーカーを選び、それに合わせてシステムを組んだという感じです。ラッキーな流れもありながら、〈こういう店にしたいな〉という思いにうまくハマりました。実際、初めて鳴らしたときに〈すげえ!〉と思いましたね(笑)。あの音の良さは非常に気持ち良い。空間の演出としてアナログの音が聴けるお店になっています」

――スピーカーの評判も届いていますか?

「〈音が良い〉という声は社内のスタッフからも聞きます。写真を撮っている方もいらっしゃいますし。たぶんオーディオ・マニアの方だと思うんですけど」

――マニアでなくても、見た目にインパクトがあるから写真を撮りたくなりますよね。

「〈なんだこれ?〉って思いますよね、きっと(笑)。いまは床に置いているのですが、土台の上に置いてもう少し背を高くします。店のどこから見ても〈あっ!〉となるような感じにしたくて」

 

音楽好きが幸せを感じる場所

――今後、TOWER VINYL SHINJUKUではどんなことをする予定ですか? 4月13日(土)には〈RECORD STORE DAY〉も控えています。

「オープン計画を立てているときに、〈RECORD STORE DAY〉はこの日だろうから、この日(3月21日)にオープンしようという考えはもともとあったんですね。当日はいろいろな方に来ていただきたいです。限定商品だけじゃなく、空間も楽しんでもらいたいなと。

それと今後、いろいろな形でインストア・イヴェントはやっていきたいと思っています。初めてレコードを触る、ビギナーの方向けのイヴェントもやりたくて。〈レコードって実際にどういうふうに作られるものなのか?〉〈レコードの針ってどういうものなのか?〉といったことを関係各位のご協力も得て、わかりやすく展示して伝えたい。

あと、レコードの所作みたいなものってあるじゃないですか? クリーニングの仕方や針の違いなど、そういうことをお店で表現して、レコードの楽しみ方を深めていただければいいなと思っていますね」

――〈NO VINYL, NO LIFE.〉ポスターには大滝詠一さん、奥田民生さん、SOLEIL、The Birthday、細野晴臣さんと、大物アーティストから新進気鋭のミュージシャンまで多くの方がご協力されています。

「みなさん直近でリリースがあった方々です。この後もシリーズとして続いていく予定です」

――もちろんアナログ/ヴァイナルというのをキーワードにお声がけされているんですよね?

「そうですね。ただ、〈こういうアーティストじゃなきゃダメ〉というのはないので。それをきっかけにお店に足を運んでいただいて、新たな音楽の楽しみ方が広がったという方が増えるのがいちばんうれしいですね」

――〈敷居は低く奥が深い〉というコンセプトのとおりに。

「ええ。気に入っていただいて、リピートしてもらえればうれしいですね。音楽好きな方が幸せを感じる場所にできればいいと思います」

――ちなみに、店舗を増やす計画はあるんですか?

「う~ん……。ここ次第なのでなんとも言えないですね(笑)」

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