2nd Session:フレディ・エトウ(QUEENESS)&サンプラザ中野くん

1st Sessionと同様、MCの矢口がゲストを呼び込む。“We Will Rock You”のイントロとともに1人目の講師・サンプラザ中野くんが登場。「ボヘミアン・ラプソディ」を7回観たという中野くんに、受講者たちも負けじと回数を答える。「15回観ました」「私は18回」「私は20回」……と、まるで競りのように数が増えていく。

続いて現れたのは本家も認めるトリビュート・バンド、QUEENESSのヴォーカリストであるフレディ・エトウ。「もう少し落ち着いたトーク・ショーのつもりだったので、この格好はしたくなかったんですけど(笑)」と言いながらも、白く輝くその〈正装〉は堂々たるもの。

 

フレディ・エトウとサンプラザ中野くんが語る、クイーンとの出会い

まずは講義の導入として、2人がクイーンと出会ったきっかけを語る。エトウがクイーンと出会ったのは中学校に入学する前後、AMラジオで“Now I’m Here”を聴いたのが最初だった。しかし、彼らの音楽にのめり込んだきっかけは、もう少し後のことだ。

「1年間アメリカに留学していたとき、ダラスで『The Game』(80年)のツアー・コンサートをやっていたんです。それでたまたま音楽関係の人に誘われて、連れて行ってもらって。僕は〈ロンドンのはずれの大分〉出身なので(笑)、(収容人数が)2,000人の大分文化会館がいちばん大きなホールだと思っていたんです。でも、そのダラスの(リユニオン・)アリーナは25,000人。ぶっ飛びますよ! そんな会場でやりたい放題やっているフレディを観て、その瞬間に〈フレディになりたいな〉と思ってしまったんです」(エトウ)。

一方、サンプラザ中野くんは、人生で最初にハマったロック・バンドがクイーンだったという。

「高校二年生の頃、同級生の女の子が手紙をくれて、ペン・フレンドになったんです。あるとき、彼女が〈クイーンって素敵よね〉と書いてきたので、僕は〈素敵だよね〉と返しながらも友だちに〈クイーンって何?〉って訊いて。〈すごいカッコイイロック・バンドだから、アルバムを売ってやるよ〉って言うそいつから買ったのが『A Night At The Opera(オペラ座の夜)』だったんです」(中野くん)。

 

ファースト・アルバム『Queen』
フレディの繊細な歌声と、最初から巧みだったコーラス・ワーク

クイーンとの出会いについて盛り上がった後、いよいよ1限目に突入。ファースト・アルバム『Queen』の特徴をエトウが解説する。ポイントはフレディの歌声。スタジアム・ロック化の過程でフレディの歌唱表現はヴォリュームを重視する方向へと傾いていくが、デビュー作では繊細さが強調されているとエトウは言う。

もう一つのポイントはコーラス・ワークだ。複雑なコーラスはクイーンの大きな特徴だが、それは前身バンドのスマイル時代からこだわっていたもの。よって、デビューの段階ですでに花開いていたのだ。

「高いところはロジャー・テイラー(ドラムス)。彼の声は、専門的に言うと倍音構成が非常に強い。それがてっぺんにあることで、ものすごい幅が生まれる。真ん中と下がフレディとブライアン。フレディの声のハリや強さが、真ん中で出ています。コーラスの構成はファーストである程度確立されているので、すごいと思いますよ」(エトウ)。

そんな『Queen』からエトウがピックアップしたのは“The Great King Rat”。アコースティック・ギターがこれほど激しく掻き鳴らされている曲は他にないという。リズムの中心になっているブライアンの演奏を、エトウはギターで受講者に実演してみせる。

73年作『Queen』収録曲“The Great King Rat”

 

組曲形式のB面が衝撃的な『Queen II』
表現の幅を広げた2作目

2限目で取り上げるのは『Queen II』。エトウにとっては特別な作品だとか。

「良い意味で引っ掛かったアルバムです。B面の〈ブラック・サイド〉にぶっ飛ばされましたね。あたかも組曲のように全曲が連なってて」(エトウ)。

『Queen II』でエトウが注目するのは“The March Of The Black Queen”。複雑な楽曲構成が聴きどころだ。さらに、テープの回転速度を変えるテクニックを使っているのが“The Fairy Feller's Master-Stroke”。録音技術を駆使して表現の幅を広げていったのがこのアルバムの特徴だ。

74年作『Queen II』収録曲“The March Of The Black Queen”
 

ここで質問コーナーに。映画の鑑賞回数は「25回から数えるのをやめました」と言う女性が、「5年間くらいゾンビのような状態だったんですが、この映画を観て自分の時間が動き出しました」と涙ながらに語る。クイーンへの熱い思いを持つファンが集まっている事実が共有された瞬間だ。

 

サード・アルバム『Sheer Heart Attack』
コーラスが重要な“Killer Queen”を収録した充実作

3限目に入る前に、矢口が中野くんに話題を振る。なんでも、中野くんは〈なぜいまクイーン・ブームなのか?〉ということについての自論を持っているとか。

中野くんによれば、映画に登場する猫が鍵だという。中野くんはフレディを〈ネコ科のヴォーカリスト〉と位置付け、それこそが世界的なクイーン・ブームの理由であると語る(その講義の内容は〈iRONNA〉の記事〈サンプラザ中野くん手記「クイーン映画、ヒットの秘密は猫とトキソ」〉に詳しい)。

本題である『Sheer Heart Attack』に戻り、アルバムの楽曲“Now I'm Here”の話題に。エトウが初めて出会ったクイーン・ソングだが、当時はイントロで聴けるフレディの歌のエコーが楽曲のテンポと合っていることに驚かされたとか。

続いてエトウが解説するのは“Killer Queen”。この曲で重要なのはライヴにおける3声のコーラスだいう。フレディ、ブライアン、ロジャーがそれぞれステージでどう歌っていたのかを、ピアノを弾きながら歌い分けてみせる。

74年作『Sheer Heart Attack』収録曲“Killer Queen”

そのままの流れで、エトウが「ちょっと本題から外れていいですか?」と矢口に訊く。「もっと気楽にやりましょうよ! ぶち上げていきません?」と受講者に問いかけながらピアノで披露したのは、“Bohemian Rhapsody”だ。「Sing it!」と呼びかけるエトウに「♪Mama, ooh」と応える受講者たち。

一体となった会場の空気を受けながらも、矢口は本題の『Sheer Heart Attack』へと軌道修正。ディキシーランド・ジャズのエッセンスが入っているとエトウが分析するのは“Bring Back That Leroy Brown”だ。ギタリストになる前のブライアンが演奏していたバンジョー・ウクレレが聴けるこの曲。技巧派ブライアンの魅力が感じられるとともに、バンドの音楽性が一気に広がったことを象徴している楽曲だとエトウは考える。

 

2000年代のクイーン+ポール・ロジャースは……

2度目の質問コーナーでは、男性の受講者が挙手。ポール・ロジャースがヴォーカリストを務めた2000年代のクイーンについて訊く。〈クイーン+ポール・ロジャース〉のライヴにがっかりさせられたという彼は、お金を稼くためだけに当時は活動していたのではないかと疑問に感じている。「それを覆すような答えが聞きたいんです」。まずは中野くんが答える。

「まったく同じ考えです。僕は横浜アリーナへ観に行きましたが、途中で泣きながら帰りました。〈ポール・ロジャースじゃねえだろ!〉って、悔しくて悔しくて。彼はマッチョかつ〈イヌ科〉なんですよ。あのクイーンは最低だなと思いましたが……エトウさんは埼玉スーパーアリーナで観たそうです!」(中野くん)。

クイーン+ポール・ロジャースの2005年のライヴ映像。演奏しているのは91年作『Innuendo』収録曲“The Show Must Go On”
 

中野くんからバトンを渡されたエトウは、クイーン+ポール・ロジャース肯定派だとか。

「僕はあの組み合わせについて、あまり気にしなかった。とはいえ、フレディのスタイルと違いすぎるのは誰の目にも明らか。この考えを押し付けるつもりはありませんが、あれが〈ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー&ポール・ロジャース〉という名前だったら、もう少し納得できたんじゃないかと。

ただ、92年に行われたフレディの追悼ライヴでワム!のジョージ・マイケルが“Somebody To Love”を歌いましたよね。あれを聴いた瞬間、もしクイーンが他のヴォーカリストを迎えることがあるとしたら、ジョージ・マイケルに入ってほしいなと思った――その気持ちは、僕のなかにあります」(エトウ)。

エトウの回答に、会場からは大きな拍手が。

クイーン&ジョージ・マイケルによる92年のライヴ映像。演奏しているのは76年作『A Day At The Races(華麗なるレース)』収録曲“Somebody To Love”
 

最後の質問は、〈“Bohemian Rhapsody”をピアノで演奏するのが難しいと言っている8歳の娘に応援メッセージを〉というもの。エトウが応える。

「“Bohemian Rhapsody”は難しいかもしれないね。でもね、〈その曲が好きだ〉っていう気持ちをピアノに少しずつ込めていけば、そのうち弾けるようになる。なので、頑張ってください!」(エトウ)。

温かいムードに包まれる会場。2時間にわたる講義もいよいよ終わろうかというそのとき、中野くんが手を挙げる。

「ちょっといいですか? 最初からずーっと気になっていたんですけど……今日はフレディがこの会場に来てくれています!」(中野くん)。

中野くんが指差すホールの最後部を見ると、そこには口ひげをたくわえ、髪を後ろに流し、黒革のジャケットを着たフレディそっくりの若い男性の姿が! まさかのフレディ登場に、受講者からはこの日一番の大きな拍手が。フレディが見守るなか(?)、TOWER ACADEMY presents〈音楽・映画連動講座 第1回「ボヘミアン・ラプソディ」Part.I〉は閉講となった。

 


Event Informaton
TOWER ACADEMY presents
〈音楽・映画連動講座「ボヘミアン・ラプソディ Part.II」〉

6月29日(土)東京・神楽坂 音楽の友ホール
1st Session:13:00~15:00(終了予定)
2nd Session:17:00~19:00(終了予定)

解説者
1st Session:ROLLY
2nd Session:清水一雄(QUEENESS)

MC:矢口清治
ゲストMC:萩原健太
定員:200名
受講料:各Sessionともに3,000円(税込)
https://tower.ac/type_course/movie1-2/

 

ROLLY

9月6日生まれ(63年生まれ、現在55歳*GO!GO!)大阪府高槻市出身。

90年〈すかんち〉のヴォーカル&ギターとしてデビュー。96年バンド解散後ソロ活動を開始。近年はキングレコードより日本のロックカバー集『ROLLY'S ROCKCIRCUS』『ROLLY'S ROCK THEATER』を発売。ディズニー映画「モアナと伝説の海」にてタマトア役の声優として出演。ミュージカル「ロッキーホラーショー」(演出:河原雅彦、出演:古田新太他)では音楽監督、訳詞、出演を担い、舞台でも活躍中の現在55歳。

ロック、シャンソン、ジャズ、クラシック、演劇、読み聞かせ、作詞、作曲等、何にでも手を出す粘着質で小心者の永遠の小学5年生を自称している。天性のキャラと、独特のサービス精神で観る人に違和感と恍惚感を与える日本代表であり、より一層“地に足の着いた変態”に磨きをかけるお茶の間のロックスター。2019年5月のデビュー記念日に、セルフカバーアルバム+新曲入りの『ROLLY'S ROCK WORKS』を発売する

オフィシャルホームページ:http://www.ROLLYnet.com
Facebook:http://www.facebook.com/rolly.official
Twitter:@RollyBocchan

 

清水一雄(QUEENESS)

中学生の頃、ベースを手にビートルズ等のコピー・バンドを始める。

クイーン、キッス、エアロスミスなどの影響で高校からギターに転向。85年デビュー当時の〈ザ・チューブ(現在はチューブ)〉にサポート・ギタリストとして参加、本格的にプロの活動を始める。その後、数多くのレコーディング・セッションに参加、またギタリストとして数多くのアーティストのライヴにも出演。

2001年より、かねてから絵や風景の見える様な音楽をやりたいとの思いから、活動の場を広げるべく演劇などの音楽制作の仕事を始める。

演劇集団キャラメルボックス、マキノノゾミ作品などの音楽制作多数。現在に至る。