COLUMN

金沢21世紀美術館〈大岩オスカール展〉 世界を客観的に俯瞰するブラジル日系二世のコスモポリタン、大岩オスカールの6つのヴィジョン

ゴースト・シップGhost Ship 2014

世界を客観的に俯瞰するブラジル日系二世のコスモポリタン
大岩オスカールの6つのヴィジョン

 アーティスト・大岩オスカールは真の「コスモポリタン」だ。1965年、ブラジルの首都サンパウロに日系二世として生まれた彼は、東京、ニューヨークと活動の場を移しながら制作を続けてきた。

 1991年から11年間暮らした東京では、会田誠や小沢剛といった同い歳のアーティスト仲間と「昭和40年会」というグループを結成。ドイツのデュッセルドルフ美術館から瀬戸内海に浮かぶ男木島まで、国内外の展覧会に大岩も随時参加してきた。

 大岩の絵画には、その時々の活動拠点である都市の様相や、日々の暮らしの情景、さらに印刷物やインターネット上のイメージが組合わされ、大型の画面いっぱいに生き生きと精細に描きこまれている。独特の空間構成はダイナミックで、まるで「飛び出す絵本」のように、平面作品の域を超えた奥行の深いスケール感を持つ。その感覚の鍵を握るのは、上空から見渡すような客観的な俯瞰の視点と、身辺のディテールに焦点を当てる極私的視点との混合である。

 自身を取り巻く複雑な環境を冷静かつおおらかに観察し、一個人として人生の経験を重ねてきた大岩は、「自分の本能に従い、明るい方へ向かって旅を続けていきたい」と語っている。そのオプティミズム的意識の表れともいえるのが、彼の絵画の重要なファクターの1つである、世界にあまねく満ちあふれる眩い「光」の描写なのだ。

 もちろん「光」あるところには「影」も共存する。大岩が描く都市や社会の情景には独自のビターな批評性やユーモアが介在している。誰もが美しいと思うものばかりでなく、猥雑さやグロテスクさも等価値に描かれる。生活者としての画家の眼力は、社会の矛盾や環境問題といった負の側面にもフォーカスしてきたからだ。

 2008年に東京都現代美術館で開催された大規模な個展以来、10年ぶりの本展覧会では、近作を中心に60点あまりの絵画作品と、金沢21世紀美術館の幅27メートルの壁面に描かれるドローイングを通して、大岩のヴィジョンに迫る。

 「第1章:波に包まれるニューヨーク市」。「第2章:まとまらないアメリカ」。「第3章:旅人生」。「第4章:うまくいかない世の中」。「第5章:光をめざして」。「第6章:希望をもって」。本展の6つの章タイトルからも、大岩の関心が特に現在の拠点であるアメリカ社会にあることをうかがい知ることができる。

ワールド・ワイド・ウェブ・ウェーブ2(ウォール・ストリート) World Wide Web Wave2 (Wall Street)2017

 大岩がニューヨークに渡った2002年は同時多発テロ事件の翌年で、アメリカは正義の名の下、イラクとアフガニスタンで戦争を始めていた。その後のリーマンショック、オバマ政権誕生による束の間の希望、そしてトランプ政権発足による世界中を巻込んだ大混乱…と、現代アメリカをシビアに見つめてきた作家ならではの表現の広がりに注目したい。

 さらに第4章では新たなコラボレーションに挑戦する。ブラジルで過ごした少年時代からうまくいかない世の中を目の当たりにしてきた大岩は、この章では大気汚染や海洋汚染などの環境問題や自然災害という不条理と向き合う。ゲスト・アーティストにロサンジェルスを拠点とする作曲家チャド・キャノンを迎え、大岩の作品からインスピレーションを得た壮大な交響曲と絵画の融合を試みる。

 毎朝地下鉄でスタジオに通い、夕方まで制作して帰宅、夜は自宅のパソコンに向かうという、規則正しいサラリーマンのような生活を送る大岩が、家族と暮らすニューヨーク、そしてグローバル社会を俯瞰し、注視する「定点観測的」眼差しはいま何を捉えるのだろう。人一倍生真面目な彼のこと、我々が置かれた状況に光を当て、忘れてはならない大事なことをきっと思い出させてくれるはずだ。

 


(c)Luna

 

大岩オスカール
1965年ブラジル、サンパウロ生まれ。1989年サンパウロ大学建築都市学部卒業。1991年、東京に活動の拠点を移す。1995年デルフィナ・スタジオ・トラストのアーティスト・イン・レジデンスにてロンドンに滞在。2002年ニューヨークに拠点を移し、現在ニューヨーク在住。

 


INFORMATION

大岩オスカール 光をめざす旅
○4月27日(土)〜8月25日(日)10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館 展示室7〜12、14、ほか
休場日:毎週月曜日(ただし4月29日、5月6日、7月15日、8月12日は開場)、5月7日、7月16日

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