COLUMN

オーケストレーションの達人、その内面に迫る 〈同時代音楽企画「コンポージアム2019」~フィリップ・マヌリを迎えて〉

©東京オペラシティ文化財団 撮影:ヒダキトモコ

 

同時代音楽企画「コンポージアム2019」~フィリップ・マヌリを迎えて
オーケストレーションの達人、その内面に迫る

 同時代音楽の発展に努めてきた東京オペラシティが、1997年のオープン以来続けている同時代音楽シリーズが『コンポージアム COMPOSIUM』だ。毎年1人の作曲家を作曲コンクール〈武満徹作曲賞〉の審査員に招き、コンクール、コンサート、講演会を通してその作曲家の音楽や哲学、美学も掘り下げていく。「コンポージアム Composition+Symposium」という名からもわかるように、このシリーズは聴衆がただ受け身に音楽を聴くのではなく、そこに異なる意見やさまざまな議論が生まれることを狙っている。

 21回目の今年はフランスの作曲家、フィリップ・マヌリを迎える。フィリップ・マヌリの名は、日本の音楽ファンの間でポピュラリティーを獲得しているとまでは言えないかもしれないが、ピエール・ブーレーズ亡き後のフランス作曲界の最も重要な人物の1人であり、フランスではその名は広く知られている。マヌリの作曲活動は極めて活発で、最近ではパリやストラスブール、ルクセンブルクなどで上演された福島原子力発電所事故をテーマにした新作《光のない。》の成功が記憶に新しい。原作はオーストリアのノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネクの同名戯曲で、マヌリはこの作品を「オペラ」でも「ジングシュピール Singspiel」でもなく「シンクシュピール Thinkspiel」、すなわち「考える(させる)劇」と呼び、観衆に論争の一石を投じてみせたのである。

 マヌリの名はそのキャリアの初期からいつもエレクトロとともに語られてきた。1987年からブーレーズの指導するIRCAMにてライヴ・エレクトロニクスの研究に没頭し、その成果として、ライヴ・エレクトロニクスとピアノのための《プリュートン》を完成させる。野平一郎をソリストに迎えたこの作品は、ブーレーズの《レポン》と並んでライヴ・エレクトロニクスの技術を応用した最初期の重要作品として音楽史に刻まれることになった。

 今回のコンサートで日本初演されるマヌリの3つの作品は、すべて純粋な器楽によるオーケストラ作品である。なんだ、マヌリなのにエレクトロじゃないのか、と思われた方もいるだろう。でもがっかりしないで欲しい。マヌリはオーケストレーションの名人でもあるのだ。それは1曲目に演奏されるドビュッシーからすぐに明らかになる。これはドビュッシーの管弦楽組曲第1番のなかの一曲《夢》にマヌリがオーケストレーションを施したものだ。この組曲はドビュッシーの最初期の管弦楽作品で、第3曲の《夢》は作曲者によるオーケストレーションが失われてしまっていたが、マヌリが4手ピアノ版から新たにオーケストレーションを施し、作曲家の生誕150年にあたる2012年にフランソワ=グザヴィエ・ロトの指揮により初演された。マヌリの手によって再び色彩を取り戻した若きドビュッシーの音楽は、驚くほどに後年の傑作《海》を思い起こさせるもので、実に瑞々しい。2曲目の作品は、2018年7月にケルンでエマニュエル・パユによって初演されたばかりのフルート協奏曲《サッカード》で(初演指揮はドビュッシーと同じくロト)、今回東京では現代音楽のスペシャリストとして知られるマリオ・カローリがソロを務める。コンサートの最後を飾るのは、ブーレーズの生誕75年を記念してシカゴ交響楽団とクリーヴランド管弦楽団によって委嘱された大管弦楽のための作品、《響きと怒り》。左右に配置された2群のオーケストラから生み出される音楽は、非常に空間的に構築されている。今回演奏される《サッカード》も《響きと怒り》も、語弊を恐れずに言えばとてもエレクトロ的な音響世界を持った作品である。それはマヌリという作曲家に核となる美意識があり、それをアウトプットする手段がエレクトロであろうと、純粋な器楽であろうと、音楽的な本質が強固にブレないことを示している。このコンサートを通して、エレクトロとは違う角度から芸術家マヌリの美の内面を覗いてみて欲しい。今回の「コンポージアム」が、日本におけるマヌリ受容の重要な分岐点になり、この作曲家の新たな魅力が広く知られるようになることを心から期待したい。

 


フィリップ・マヌリ  (Philippe Manoury)
作曲家。1952年6月19日、フランス・チュール生まれ。現在最も重要なフランスの作曲家の一人で、ライヴ・エレクトロニクス分野における研究者であり先駆者。作品は19歳にしてすでに多くの現代音楽祭において演奏され、自ら開発に携わったライヴ・エレクトロニクス・システムを使用した作品をはじめ、オペラからソロ曲まで多彩な作品を次々と生み出している。

 


LIVE INFORMATION

東京オペラシティの同時代音楽企画
コンポージアム2019 「フィリップ・マヌリを迎えて」

○6/9(日)15:00   2019年度 武満徹作曲賞 本選演奏会
[ファイナリスト](エントリー順)
ツォーシェン・ジン(中国):雪路の果てに
シキ・ゲン(中国):地平線からのレゾナンス
パブロ・ルビーノ・リンドナー(アルゼンチン):ENTELEQUIAS
スチ・リュウ(中国):三日三晩、魚の腹の中に
阿部加奈子(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

○6/12(水)19:00  講演会「フィリップ・マヌリ、自作を語る」
フィリップ・マヌリ 岡本和子(フランス語通訳)

○6/13(木) 19:00  フィリップ・マヌリの音楽
マリオ・カローリ(fl)ペーター・ルンデル(指揮)東京都交響楽団
ドビュッシー/マヌリ編:管弦楽組曲第1番より《夢》(1883/2011)マヌリ:サッカード~ フルートとオーケストラのための(2018)
[東京オペラシティ文化財団、ケルン・ギュルツェニヒ管、サンパウロ響、フランス放送フィル共同委嘱作品]
マヌリ:響きと怒り~オーケストラのための(1998-99/2016)
※全曲日本初演

会場:東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
www.operacity.jp/concert/compo/2019/

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