INTERVIEW

インディーR&B/フューチャー・ソウルの新鋭、KEITHって何者? 紆余曲折の半生を語る

KEITH『emotion and silence』

インディーR&B/フューチャー・ソウルの新鋭、KEITHって何者? 紆余曲折の半生を語る

ラウヴ、ダニエル・シーザー、FKJといった才能が注目を集める、海外のインディーR&B/フューチャー・ソウル・シーン。その流れに共鳴する日本人アーティストとして向井太一やSIRUPらに続き活躍が期待されるのが、シンガー・ソングライター/プロデューサー、Keita Kikuchiのソロ・プロジェクト=KEITHだ。その彼による初のフィジカル作『emotion and silence』が3月6日にリリースとなった。

KEITHはギターや鍵盤、トラックメイクは一切教えを受けたことはなく、すべて見よう見まねで体得したのだという。昨年11月にミュージック・ビデオが発表された“Indigo Lights”などの楽曲からもわかるとおり、チルな雰囲気の音楽性が持ち味な彼。実は少々込み入った経歴の持ち主で、中学卒業とともに音楽家を志し上京。しかし東京で挫折し渡豪、帰国した後は地元で就職。そして再上京という紆余曲折を経ている。

『emotion and silence』に収録されているのは“Indigo Lights”とスティングのカヴァー“Englishman in New York”を含む5曲。KEITHのモットーである〈感情と静寂〉がタイトルになっている本作はリリースから約2か月経ち、iTunesのランキングで上位に食い込むほか、CD店や各種ストリーミング・サーヴィス、SNSを通して確実にリスナーに届きはじめている。はたして、新元号を迎える今年はKEITHの時代となるのだろうか?

KEITH emotion and silence GOON TRAX(2019)

 

今年はKEITH元年?

――新元号〈令和〉と同じ意味のタトゥーを掘られているというTwitterの投稿を見かけたんですが、なんと彫られているんですか?

「〈耐雪梅花麗(雪に耐えて梅花麗し:西郷隆盛が詠んだ漢詩の一節)〉です。それがたまたま令和の由来になった万葉集の〈梅花の歌〉の一節と意味がほとんど同じだったんですよね。TVのニュース番組で知った友達が連絡をくれて、すぐテレビを点けて確認したんですけど、驚きました。だから今年は〈KEITH元年〉かなと(笑)」

――なるほど(笑)。ちなみにKEITHの由来は?

「出身は福岡なんですけど、19歳から21歳の間にオーストラリアに留学していて。向こうのピザ屋って配達じゃないので、店舗に注文しに行ってから店で待つんですよ。その時に受け取り人のサインに〈Keita〉って書いたんですけど、お店の人がずっと〈KEITH! KEITH!〉と呼んでいるんですよ。〈誰のことやろな?〉って思ってたら、めちゃくちゃこっち見てるんです。〈ピザ出来たぞ〉って(笑)。それをきっかけに、周りから〈KEITH〉と呼ばれるようになりました」

 

最初から最後までコードは2つだけ

――『emotion and silence』のリリースから少し経ちましたが、あらためていまのご心境はいかがですか?

「iTunesのランキングでも上位にきたり、タワーレコードさんでもかなり大きく扱って頂いたりで、反響が結構ありますね。SNSで連絡が来たりもしていて。(Instagramの)ストーリーでドライヴ中の空の映像の後ろで自分の歌が流れているという投稿も見かけました。そういう反応は純粋にめちゃくちゃ嬉しいですね。

そこまできて、ようやく出してよかったなと実感できました。〈もっといい曲を作ろう〉というモチヴェーションにもなりましたし。今作は、音楽を始めてから100曲以上貯めたアーカイヴから作ったものなので、ルーツが詰まった作品でもあり、現在を表した作品でもあるということで不思議な気持ちでもありますね」

――今作のなかで一番古い曲と新しい曲は?

「一番古い曲は“All Yours”。17~18歳くらいの時に作った曲かな。もともとフォーク・ソングっぽくて、歌詞もよく行く酒屋のおっちゃんについて歌ったものだったんですよ。メロディーはそのままなんですけど、日本語歌詞だったのを英詞にしてます。一番新しいのは“Indigo Lights”ですね。

コード進行とかはいまと昔で作り方が変わったと思います。まさに“All Yours”がそうなんですけど、前はお洒落なコードを詰め込む、ということにこだわっていました。でも最近は、最初から最後までコードは2つだけと決めています。曲調はざっくり聴くとそれぞれ違うんですけど、それをいまの自分の感性でアレンジをして、慣らしている感じです」

――取材にあたって、今作に影響を与えた楽曲を3曲挙げてもらっていたのですが、それぞれ伺わせてください。まずは、オーストラリアのフォーク・バンド、ペーパー・カイツの“Electric Indigo”と、ジャカルタを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ジャニトラ・サトリアーニの“Dream Cinema”。

ペーパー・カイツの2015年作『Twelvefour』収録曲“Electric Indigo”
 
ジャニトラ・サトリアーニの2017年の楽曲“Dream Cinema”
 

「ペーパー・カイツの“Electric Indigo”は、ロックっぽさを残しながら軽快なギターのソロが入ってきたり、リズムも不自然で。軽快でもありスローでもあり、という部分が気に入っていて、自分でもどうにか表現できないかなと参考にしましたね。

僕は自分でミキシングもしているんですが、ジャニトラ・サトリアーニの“Dream Cinema”は “Indigo Lights”で参考にしました。このリヴァーブ感と生感。“Dream Cinema”は本当にホールで聴いているような音のテイストなんですよね。この曲の質感に寄せるためにはどうしたらいいのかを、ひたすら考えながら作業しました。最初は理想とするもののマネから入って、オリジナルに変えていく。作曲もギターもそうなんですけど、僕はそういうスタイルなんです」

――そして、レイニーの“Someone Else”も挙げられていますが、Twitterでも〈来日を観に行く〉と投稿されていたり、お好きなバンドなんですね。

レイニーの2015年作『I Loved You.』収録曲“Someone Else”
 

「レイニーは以前〈SUMMER SONIC〉で観て。僕、その年の出演者はピコ太郎さんしか知らなかったんですけど(笑)、たまたまレイニーのステージを通りがかった時に演奏が始まって。スネアの最初の一音が鳴った瞬間に〈ヤバい! 上手い!〉って思って、全然知らないバンドだったのに、一番前まで観に行ったのを覚えています。この“Someone Else”はAメロが〈There's Some One Else〉の繰り返しなんですけど、それでも成立するんだな、と。何も無駄なものがない、でもちゃんと伝わる。それが衝撃でしたね」

 

自分のモットーをもっともナチュラルに、シンプルに表現できるのがラヴソング

――作詞作曲からビートメイクまでこなすそうですが、具体的にはどのように制作を?

「演奏からコーラスのレコーディングくらいまでだったら家で全部やっています。普通にギターを家で弾いてて〈これいいな〉と思ったらそのまま固めたり、先にトラックを作って、ミックスまで全部終わらせて、それをずっと流しながらメロディーを考えていったりもします。

ちなみに、ギターは見よう見まねで覚えました。僕が中学の時ってYouTubeとかはまだなかったので(YouTubeは2005年にサーヴィス開始)、TVにかじりついて音楽番組を観まくって研究していましたね。それで一週間くらいで複雑なコードまでほぼ網羅したので、そのコードを使ってオリジナル曲を作りはじめたんです。ピアノも習ったことはないんですが、それはYouTubeが始まって以降、動画を観ながら勉強しました。楽器や作曲に関して、教則本とかはいままで一度も読んだことがないですね」

――作詞についてのこだわりは?

「今作のタイトルである〈emotionとsilence〉=〈感情と静寂〉は自分のモットーで。それをもっともナチュラルに、シンプルに表現できるのがラヴソングかなと思っているんです。伝えるという意味で一番ストレートだなと。なので今作には恋愛を歌う曲が並びました。次の作品は応援歌というか、人を励ますような曲も入れたいとは思っています。

基本的に歌詞を作る時は映画を観ながらが多くて。映画のワンシーンをひたすらループして観て、そこからふくらませていくことが多いですね。長い期間の恋愛についてや、飛躍したことはあまり書かないようにもしていて、昨日のことだったり一瞬や数日を切り取った、いま起こっている身近なことを歌詞にすることが多いです。リアルな内容ももちろんあります」

『emotion and silence』収録曲“ECHO”
 

――カヴァーが一曲収録されていますが、なぜスティングの“Englishman In New York”を選んだのでしょう?

「オーストラリアにいる時に、バーでよくかかっていたんです。それから僕自身もよく歌っていて。最初はヒップホップ調のシンプルなアレンジだったんですよ。でも他の曲もけっこうシンプルなので、曲調に変化がある方がいいかなと。最後の〈FuFu〉というところを引き立たせるためにはどうしたらいいだろうと考えたら、こういった電子音を中心にしたアレンジになりました。

今作の全体の音数を抑えたり尺を3分前後に収めたりしているのは、いまの流行を意識しているところもあるんですけど(笑)、この形式は今後スタンダードになっていくと思うんです。それで僕も無駄を削った、シンプルだけどインパクトの残るメロディーをひたすら掘り下げていく、というところに行きつきました。違和感を感じさせながら、それでいて心地良いものが、人が聴き入るような、耳にこびりつくようなメロディーなのかなと。

最近はSIRUPさんや向井太一さんとか日本のアーティストの方からも影響を受けていて。そういう人たちがなぜこういう歌い方をしているのか、この音になったのか、このメロディーなのかということに興味があるし、自分も絶対追求していかなければいけないところだと思っています」

 

着うたフルに課金しまくった中学生時代

――KEITHさんの音楽的なルーツについても教えてください。

「ベースを弾いていた父の影響で、小さい頃は日本のディスコやソウルを聴いていました。それから中学生になると、携帯電話の着うたフルで目を瞑りながら曲名を見ずに曲を買うのにハマって。

それである日、クレイグ・デイヴィッドの“Don't Love You No More(I'm Sorry)”に当たって。〈誰だこれ?〉と思いながら聴いたら〈めっちゃくちゃいいじゃねえか〉と(笑)。そこから海外のR&Bとかソウルを聴きはじめました。課金しすぎてとんでもないことになりましたけど、ちゃんとお金を出して、ましてや当時の少ないお小遣いで買ったものって大事に聴こうと思えるんですよね」

クレイグ・デイヴィッドの2005年作『The Story Goes...』“Don't Love You No More(I'm Sorry)”
 

――そこから音楽をやる側へと向かったのは?

「ギターを弾くようになって、一番最初に覚えた曲は19の“『果てのない道』”でした。普通はそこからいろいろな曲を練習すると思うんですけど、僕はその曲のコードを丸々覚えたら、同じコードで歌のメロディーだけ変えたオリジナル曲を作る、ということをしていましたね。元の歌はあまり聴き込まずに、そういう曲をたくさん作って、近所のたまり場だった公民館で友だちたちに披露したりして。

そういうことをしているうちに〈歌手になれるんじゃないか?〉と思い、中学卒業後、すぐに東京に出てきました。でもバイト漬けで全然音楽ができなくて、2~3年で一回しかライヴもできなかった。がんばろうと思えばできたと思うんですけど、絶対に逃げられない状況を作らないと何も成し遂げられないと思って、音楽を一度辞めてオーストラリアに行ったんです」

――向こうでの生活はどんな感じでしたか?

「まったく英語ができなかったので、最初は大変でした。でも、どうせ行くならオーストラリア人になろうと思ったんです。文化に溶け込んで、帰る時は現地人に間違えられるところまで目指そうと。日本人とか19歳とかいう肩書きをすべて捨てて、赤ちゃんみたいな気持ちでなんでも吸収しようと思っていました。

一度住む家がなくなって、駅で丸まって寝たこともありました。向こうの強盗はポケットをハサミで切って盗るんですけど、見たら小さい男の子で。英語ができないから〈No! Japanese!〉って叫んだらヤバい奴だと思ったらしく、いなくなったのでセーフでしたけど(笑)」

――日本と比べて、文化的に違うと感じた点はどういったところでした?

「オーストラリアは音楽が空気と同じ感覚でしたね。ちょっとバーに入ればめちゃくちゃ上手いジャズ・シンガーが歌っていたり。そこに〈歌わせてくれ!〉と飛び入りさせてもらって、フェイク勝負したりしてました。バーを開放してライヴをやっているところもあったりとか、音楽に寛容なんですよ。ビジネスなんだけど、ビジネスじゃない感じ。お金は実際にかかってて、当人にとってはビジネスなんですけど〈お金がないと入れない〉ではない。誰でも生の音楽だったり、新鮮な音楽に触れることができて。そこがそれまで僕の思っていた音楽との一番の違いかなと思います」

――そうなんですね。

「そういう日々を過ごして、東京に帰ってからは〈絶対に音楽でリヴェンジしてやる〉と思ってたんですけど、帰国したらそうもいかずに地元で就職して。お金を貯めてすぐ出ようと思ってましたけど、家庭のいろいろなことがあったんですよ。東京に行きたい気持ちと、家族のために残りたいのと葛藤しながら、最終的にはまた音楽活動をすることになって。それが3年前です」

――遠回りしてこぎつけたとも言える、いまの活動スタンスについて焦りなどを感じたことは?

「いまはまったくないです。音楽をやっていない時期のほうが長いんですけど、それがあって何かをがんばったりガマンできたり、全部意味が絶対あると思っていて。無駄なことはひとつもないと昔から教わっていたので、遅咲きとかは関係ないですね。いまは60代でめちゃくちゃ歌の上手い人がネットで火が点いてデビューできたりとかもあるじゃないですか? それこそ地元にいる時は焦ってましたけど、自信を裏付ける経験を地道にしていくことが大事なんじゃないですかね」

――最後に、これからの活動ヴィジョンなど教えてください。

「いまはPCで誰でも曲を作れるし、机を叩いて曲を作る人も世の中にいるじゃないですか。それでも音楽になるし、それも音楽とされている時代。その中で、革新的なことはしていきたいですね。何か新しい形で〈KEITHといえば、これ〉というようなものがほしいです。それを追求して、確固たるものを作り続けられればと思います。

実は、秋にフル・アルバムを予定しているんです。アルバムには日本語の曲も収録するんですけど、あまり日本語とか英語ということも考えていなくて。国境や言語の違いっていまはもうないと思っているし、日本語だから外国人に伝わらない、英語だから日本人に伝わらないということもない。いまの環境でもっと自由にいろいろなものから刺激を受けて、いいものを作っていきたいです」

 

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