COLUMN

カリード『Free Spirit』 20代になったアメリカン・ティーンの代弁者が追い求める自由な魂とは

カリード『Free Spirit』 20代になったアメリカン・ティーンの代弁者が追い求める自由な魂とは

本当の自由はどこにある?──3年前に鮮烈なデビューを飾ったアメリカン・ティーンは、20代に突入した現在も その答えを探し求める。内省を纏ったスムースな歌が荒野に響く時、青年の心は少しでも浄化されるのか?

変化を反映した新作

 カイリー・ジェンナーがSNSで拡散したこともあって、結果的に異例のビッグ・ヒットとなった“Location”(2016年)でデビューを果たし、翌年のファースト・アルバム『American Teen』で華々しい脚光を浴びてから2年、21歳になったカリード。感傷と哀愁を漂わせた美声で彼が歌ってきたのはティーンエイジャーらしい赤裸々な言葉たちだったが、その2年の間に起こった出来事や環境の変化は彼を否応なく成長へと導くものだった。

 アルバムは新人としては破格の200万ユニット相当のセールスを獲得し、500万セールスに達した“Location”に続くシングル“Young Dumb & Broke”ではR&Bチャートの首位を獲得。さらには全世界で10億回を超えるストリーミング再生数を記録し、第60回グラミー賞では〈新人賞〉を含む5部門にノミネート。そうした上昇を肌身に感じながら、この2年間の彼は北米やヨーロッパ、オセアニア、アジアなど世界各地を回ってライヴやフェス出演を行い、多忙さと引き替えに着実な支持の広がりを確信してきたはずだ(昨年10月の初来日公演も盛況だった!)。

 そうした活動スケールの大きさからすると忘れてしまいそうになるが、『American Teen』がなぜここまで愛される作品になったのかを考えれば、それは高校生の時から音源作りを始めた彼の歌世界がリスナーの一人一人に対して親密にリンクする素朴な思いで満ち溢れていたからだろう。彼がそこで綴ったのはテキサス州エルパソで育った高校生の純朴な恋愛や悲喜をテーマにしたもので、つまりは〈スケールの小ささゆえの傑作〉だったと捉えることもできるかもしれないわけだ。そう考えると、無邪気ではいられなくなった現在のカリードはどのような意識で創作に臨んでいるのだろうか。

KHALID Free Spirit Right Hand Music/RCA/ソニー(2019)

 2018年の配信EP『Suncity』とそこからのヒット・チューン“Better”を経て完成を見た待望のセカンド・アルバム『Free Spirit』は、ピュアなティーンの新人シンガーが世界が求めるスターに成長して、自由を謳歌するわけにもいかなくなった現実を照らした作品のようにも思える。もはや〈Young Dumb & Broke〉ではなくなった代わりに、彼はさまざまなものを失ったのかもしれない。言い換えれば、そうやって状況の変化に瀕した彼だからこそ記すことのできる喜びや哀しみ、葛藤、痛みがここには綴られているということだ。

 

自由な魂を求めて

 本人が「このアルバムは素晴らしい2年間で僕が手に入れたすべての成長と経験のクライマックスだ。スタジオに入って一人一人の心に響くような作品にするために僕の魂と精神を注いだ」と説明する今作からの先行曲となったのはディスクロージャーとコラボした“Talk”。この人懐っこい感触にはやはり得難いものがあるが、他のクリエイターたちによる楽曲との極端な違いを感じさせないのはやはりカリードの歌い口の個性そのものが楽曲のカラーを規定するものだろう。当人は曲作りに関して「まずは家で始めるんだ、〈さて、僕は今日どんな気分なんだろう。ハッピーなのか、悲しいのか〉って。それからスタジオに持っていくんだよ。〈よし、僕が今日考えてたことを言わせて。それで何ができるかな〉っていう感じに」とプロセスを説明しているが、今回もそのようにリラックスできる環境でアイデアを紡ぎ出したのに違いない。

 前作からのヒットを支えたジョエル・リトルやシック・センスらは不在で、今回は『Suncity』で組んだジョン・ヒルやスターゲイト、チャーリー・ハンサム&ディジを中心に、D・マイルやヒット・ボーイ、マーダ・ビーツ、アル・シャックス……と、名前のある大物プロデューサーが大半のプロデュースを担っている。

 もちろん楽曲の幅自体はそれによって柔軟に広がってもいて、アーシーなオールド・ソウル風味の“Paradise”やサザン・マナーの“Bluffin'”、どこかスティングっぽく憂いを帯びた旋律とリズミックな意匠が馴染む“Hundred”、ジョン・メイヤーのギターをフィーチャーして快いテンポ感を備えた“Outta My Head”、カントリー~アメリカン・ロック調に響く表題曲など、率直な歌い口と共に洗練された柔和な聴き心地は約束されている。ボーナストラック扱いながらEP収録曲だったフォーキーな“Saturday Nights”が結びに置かれているのも穏やかな聴後感に繋がってくる印象だ(日本盤にはさらにカントリー系シンガー・ソングライターのケイン・ ブラウンを迎えたリミックスもボーナス収録)。

 なお、カリードは本作のリリースに合わせて、アーティストとしての彼自身や歌詞の意味をより深く伝えるべく、アルバムと同名のショート・フィルムを制作。これまでにエド・シーランやカミラ・カベロ、デュア・リパらのMVを手掛けてきたエミル・ナヴァが監督を務め、カリード自身も演技に挑戦している。ルールに縛られていた学生時代を監獄のように感じていた若者たちが、卒業を迎えると同時に大人と見なされ、自分で道を切り拓いていかなければならなくなる——アルバムのアートワークに描かれているのもその一部のようだが、これこそがカリード自身の偽らざる心情なのかもしれない。自由であるがゆえに誰も道を決めてくれない……そんなもどかしさを率直に書き連ねるような彼の表現はまた多くの心を掴むことだろう。

 

カリードの2017年作『American Teen』(Right Hand Music/RCA)

 

『Free Spirit』に参加したアーティストの作品。

 

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