INTERVIEW

エマニュエル・パユ、初来日から30年。さらなる挑戦意欲を胸にフルートで音楽を極め続ける彼の「現在」

©Josef Fischnaller licensed to EMI Classics

 

初来日から30年。さらなる挑戦意欲を胸に、フルートで音楽を極め続ける彼の「現在」。

 「1シーズンに150曲は吹くからね……」と苦笑いしながらパユがiPadを指差す。いわゆる電子化した譜面を使う演奏家は今でこそ増えたが、かなり早くから彼は始めていた。オーケストラを離れたソロと室内楽活動で、この数のレパートリーをこなすとなれば、重くてかさばる紙の譜面と世界を旅するなど真っ平御免と思って当然か。今年9月以降の来日公演を見ても、協奏曲あり(パーヴォ・ヤルヴィ&N響とのニールセン、尾高忠明&大阪フィルとの尾高尚忠)、室内楽あり(ル・サージュのピアノやケラスのチェロ、そして吉野直子のハープとの共演)、無伴奏リサイタルあり……。

 レコーディングも大忙し。まずはゲスト参加したアルバムの話題から。3月にリリースされたウィーン・フィルの首席ハーピスト、アンネレーン・レナエルツが弾くニーノ・ロータ作品集で、彼は《フルートとハープのためのソナタ》を吹いている(2018年9月録音)。「中世の城で騎士たちが円卓を囲む。そんな情景が目に浮かぶ素敵な曲ですよ!」とは、けだし名評。同じロータが数々の映画音楽で発揮したのは、まさにそんなイメージの喚起力だった。

 この取材が東京で行なわれたのは2018年11月だが、翌月にはパリでフランス国立管弦楽団との録音が控えていた。《ハリー・ポッター》や《英国王のスピーチ》で知られる、これもやはり映画音楽界を代表する人気作曲家、アレクサンドル・デスプラの作品集。アルバムは2020年にリリース予定だ。

 「彼が自分で指揮も担当し、このアルバムのためにフルート無伴奏曲も書き下ろしています。僕のディスコグラフィーに新鮮な1ページが加わることになりますね。アカデミー賞作曲部門に輝いた《シェイプ・オブ・ウォーター》で、彼はフルートを“水”の象徴として用いました。確かに、フルートから得られるサウンドの流動感はそれに適したものでしょう。僕たちの楽器はリードもマウスピースもなく、“息”という生命の営みがそのまま音に結実します。ある意味では樹木や植物の成長にも似て……」。

 来たる5月にセッションが予定されているのは、イヴァン・レプシッチ指揮するバイエルン放送管弦楽団との共演によるコンチェルト・アルバム。ライネッケの協奏曲と《バラード》に始まりながらも、続く演目の構成はかなりのところユニーク。

 「新古典主義的なスタンスの中に、時代に逆行する音使いと、ヴィルトゥオーソ性をちりばめたブゾーニの《ディヴェルティメント》。前衛の旗手だったペンデレツキがメロディアスな書式へ転じた時期に生まれたコンチェルト。ライネッケとこの2曲を対置することの意味は、たとえばロマン主義的な態度から出発しながら、独自の表現主義的な方向性へ走ったムンクの絵画を連想してみてください。そんなスタイルや意識の変革を音でたどる“ハイパー・ロマンティック”なコンセプトのアルバム(笑)。さらには武満さんの《ウォーター・ドリーミング》。彼の後期作品の典型として、自然への回帰が音使いの根底をなしている。ライネッケの冒頭部分の夢見る雰囲気や、ドイツの森と川の風景を思わせる空気感が、この曲とうまく呼応するように思います」

 パユを含む管楽器のトップ・プレイヤー5人と、ル・サージュのピアノからなるレ・ヴァン・フランセ(LVF)の最新盤もお目見えした。“モダニスト”というタイトルにふさわしく、彼らが初演したエルサンとエスケシュの六重奏曲が目をひく。

 「さらにはマニャール、ミヨー、ジョリヴェというフランスの作曲家に、北欧のニールセン。それぞれ作風は異なりますが、20世紀前半の楽壇で各人各様に未来への道を模索していた。こうした音楽史の流れに光を当て、時代の息吹を掘り下げるアルバム作りにLVFが意識して取り組んできたことは、今までの録音からもおわかりいただけるでしょう。オンスローとクルークハルトの木管五重奏曲と、シュポアが残した管楽器とピアノのための五重奏曲によるロマン派作品集は既に収録を終えています。2020年に生誕125周年を迎えるヒンデミットの、管楽器とピアノのためのソナタ集のリリースもぜひ実現したいですね」

 


エマニュエル・パユ (Emmanuel Pahud)
1970年ジュネーヴ生まれ。6歳でフルートを始め、パリ国立高等音楽院でミシェル・デボスト、アラン・マリオン、クリスチャン・ラルデ、ピエール=イヴ・アルトーに師事。同音楽院卒業後はオーレル・ニコレの下で研鑽を積む。神戸国際フルートコンクールで第1位に輝いた1989年が初来日。1992年のジュネーヴ国際コンクール優勝を経て、1993年にはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者に就任する(2000年から2002年にかけて一時離団。ジュネーヴ音楽院の教授職などをつとめた後に復帰して現在に至る)

 


LIVE INFORMATION

エマニュエル・パユ 2019年9~12月日本公演
○9/25(水)26(木)19:00開演 サントリーホール・東京都
 【出演】パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)NHK交響楽団
○9/27(金)19:00開演 王子ホール・東京都
○9/28(土)14:00開演 浦安音楽ホール コンサートホール・千葉県
○9/29(日)14:00開演 秦野市文化会館・神奈川県
○9/30(月)14:00開演 アクトシティ浜松中ホール・静岡県
 【出演】エリック・ル・サージュ(p)
○10/6(日)15:00開演 京都コンサートホール大ホール・京都府
 【出演】尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー
○11/23(土)17:00開演 フィリアホール・神奈川県
 【出演】吉野直子(hp)
○11/29(金)18:45開演 しらかわホール・愛知県
 【出演】エマニュエル・パユ 無伴奏リサイタル
○11/30(土)17:00開演 王子ホール・東京都
 【出演】エリック・ル・サージュ(p)ジャン=ギアン・ケラス(vc)
○12/1(日)17:00開演 高崎文化芸術センター小音楽ホール・群馬県
 【出演】エリック・ル・サージュ(p)
○12/2(月)19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール・東京都
 【出演】エマニュエル・パユ 無伴奏リサイタル
www.earts.jp

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