数多くのロック・レジェンドたちを撮影してきたカメラマンのクボケンこと久保憲司さん。現在、京都のダイニングバー、ブランカにて写真展〈loaded〉を開催しており、連日多くのロック・ファンが来場し賑わっているようです。加えて、ウェブページ〈久保憲司のロック・エンサイクロペディア〉を運営するなど音楽ライターとしての活躍も周知のとおり。Mikikiにもたびたび原稿を提供いただき、ポップ・カルチャーについての豊富な知識とユーモラスな筆致で、人気を博しています。

そんなクボケンさんによる連載が、こちら〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉。動画配信サーヴィス全盛の現代、クボケンさんも音楽そっちのけで観まくっているというNetflixやhuluの作品を中心に、視聴することで浮き上がってくる〈いま〉を考えます。今回はNetflixオリジナル映画「ザ・ダート: モトリー・クルー自伝」を紹介。奇抜なステージングやセックス&ドラッグ三昧の振舞いで知られる、LAメタルきっての悪童バンドを描いた伝記映画ですが、クボケンさんはあの「ボヘミアン・ラプソディ」に匹敵するほどの感動を覚えたそう。はたして同作がとらえたロック・バンドならではの魔力とは?(今回は〈音楽ライターまだやめません〉といった内容ですね……) *Mikiki編集部

★連載〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉記事一覧はこちら

 

Netflixオリジナル映画「ザ・ダート: モトリー・クルー自伝」独占配信中
 

なぜ「ボヘミアン・ラプソディー」(2018年)が日本でここまで大ヒットしたのかまったくわからない久保憲司です。

70年代初頭のブリティッシュ・ロックの風景が目の前に再現されているので、特に前半はワクワクしながら観ました。「学校のホールを回るツアーなんかやっていてもジリ貧で終わるだけだ。ツアーに出れなくなって、生活していくこともできなくなるけど、バンドの財産(楽器車だけですけど)を投げ売ってデモ・テープを作るんだ」とほかの3人を説得するフレディ(・マーキュリー)、そしてそのなけなしのお金で4人が闘志に燃えてレコーディングするシーンなどは、涙なしでは観られなかったです。でもこんなシーンに感動するのバンドマンだけだと思うんですけどね。

日本で売れた理由は(世界でもでしょうが)、非白人のフレディ、天文学者のブライアン(・メイ)、歯医者のロジャー(・テイラー)、電子工学科卒業のジョン(・ディーコン)というロック社会でもミスフイッツ(社会に順応出来ない人)の4人がクイーンという疑似家族を作り、それが一度壊れ、再生していく物語に感動したのだと思います。

そんななかクイーンとは正反対のバンド、モトリー・クルーの伝記映画「ザ・ダート: モトリー・クルー自伝」がNetflixで観られます。全世界で8000万枚以上のアルバム・セールスを誇るのに、絶対ロックの殿堂に入れないバンド、その理由も赤裸々に語られます。

それが彼らをダメにした理由だったわけですが、最後にはそのことと向き合うことで、モトリー・クルーというバンドが復活する、クイーンにも匹敵するバンド(擬似家族)の再生の物語が描かれます。この感動の物語は「ボヘミアン・ラプソディ」と同じくらい話題になってもいいと思うんですけどね。

バンドのストーリーがヘヴィー過ぎるのかもしれません。知っている人は知っていると思いますが、ロックの殿堂に入れない理由はヴォーカルのヴィンス(・ニール)が飲酒運転で事故を起こし、その時同乗していたハノイ・ロックスのドラマー、ラズルが亡くなるというヴィンスにとっては一生背負っていかないといけない罪を背負ってしまったのです。

Netflixオリジナル映画「ザ・ダート: モトリー・クルー自伝」独占配信中
 

このヴィンスの重すぎる罪を、ほかの仲間たちはドラッグや酒に溺れていたからだと思いますが、見て見ぬふりをするかのように助けなかったことが、ずっと最後までわだかまりとなっていたのです。

こんな状況でもロック史に残る名盤『Dr. Feelgood』(89年)を作り、化粧バンドから本物のヘヴィー・ロック・バンドとなったのです。あんな名盤を出した彼らが、あの事件(当たり前ですが)をここまでひきずっていたというのは今作を観るまで思いもしなかったです。ビッグ・バンドになったあともずっと破天荒な話題が彼らについて回っていたのは、これが原因だったのかと合点が行きました。彼らは自分たちの罪にずっと答えを出せずにいたのです。

もちろんこの事件だけではないです。ベースのニッキー・シックスは最悪の家庭環境で子供時代を過ごし、ギターのミック・マーズは血清反応陰性関節炎を患っており、自分のロック人生が残り少ないということを意識しながらギターを弾き続けていたのです。唯一家庭環境にも恵まれロック界一のポジティヴ笑顔を絶やさなかったのがドラムのトミー・リーですが、こんな不幸を背負った3人に挟まれていたのなら、どんどん負のスパイラルにハマっていったんだろうなと思います。

でも、そうした負の物語以上に、僕たちを元気にしてくれるのは彼らのデビュー前の心意気――〈当時パンクが元気がなくなっていたから、もっとワイルドなことをしようぜ〉です。モトリー・クルー(Mötley Crüe) の〈o〉と〈u〉の上にはモーターヘッドと同じチョン・チョン・マークがついているのです。モーターヘッドよりふたつも多く。パンク時代、ハード・ロックなのにパンクと同じ仲間として認められたモーターヘッドと同じで〈強くやるぜ〉のマークを彼らはつけたのです。バンド名を考えているときに、このチョン、チョンを付け足すときの彼らの自慢げな顔がたまらなくカッコよかったです。この〈ハードに行くぜ〉という想いがラズルを死に追いやったのかと思うと皮肉です。

Netflixオリジナル映画「ザ・ダート: モトリー・クルー自伝」独占配信中
 

もうクイーンやモトリー・クルーのようなバンドは出てこないんでしょう。だから僕たちは過去の歴史を振り返りながら自分たちがもうできないことをやってきた彼らの歴史を見て、いいなと憧れるのです。でも、憧れてばっかりいても仕方がないですよね。ビースティ・ボーイズがレッド・ツェッペリンの伝記を読みながら、ツェッペリンがやった破天荒なエピソードを再現することに命をかけて最初のツアーをしたように、偉人たちの無茶なことを教訓としながら、バンドの本質――4人、5人、3人……何人でもいいんですけど、たったそれだけの人数で、何万人(三百人でもいいんですけど)もの観客を沸かすあの魔力――はいったいどこから来るのだろうと、ロック・バンドの自伝映画に魅入ってしまうのです。

追記:この映画で話題になっていたオジー・オズボーンの蟻事件の映像化はたいしたことないというか、ただのアホにしか見えなかったので、オジー・ファンとしてはあれを映像化してほしくなかったです。本当にただのアホなオッサンにしか見えなかったです。オジーの伝説は又聞きで聞いているくらいがちょうどいいです。

 


Information
久保憲司さんの写真展〈loaded〉が京都のブランカにて開催中!

開催期間:5月7日〜5月25日(土) (15:00~22:00 日曜休)
場所:ブランカ 離れ(京都市中京区丸屋町334/tel:075-255-6667)
※美味しい食事とお酒を同時にお楽しみいただける写真展です

トークショー(20:00〜/1,000円)
5月18日(土)久保憲司×椹木知佳子
5月23日(木) 久保憲司×伊藤桂司
ご予約はブランカ(075-255-6667)まで