違和感は残したいけど、腑には落ちたい(小原綾斗)

――1曲目から作ったという話でしたが、イントロダクション的な“21世紀より愛をこめて”があって、実質的なオープニングが“のめりこめ、震えろ。”ですね。メロディーはすごくポップなんだけど、トラックは作り込まれていて、何ともTempalayらしい。

小原「この曲は岡本太郎さんへのラヴレターみたいな曲で、キャッチーではあるんですけど、より攻撃的な、破壊力のある曲にしたくて。ベースやドラムはわりとまとまりがないというか、ギターでしかリズムがわからないようなアンサンブルになっていて、でもなぜかストレートに感じる、そういう構造になったかなと。一筋縄ではいかない、理解できないものの上に成り立っていたいというか、そういう表現をしたくて」

『21世紀より愛をこめて』収録曲“のめりこめ、震えろ。”

――〈毒なら身になる、毒から身を成す〉というフレーズは、岡本太郎の著書「自分の中に毒を持て」から来てると思うんですけど、〈迎合するのではなく、一人ひとりが毒を持て〉というあの本と同様のメッセージをこの曲からも感じることができます。リズムに関しては、どうやって構築していったんですか?

藤本「これは合宿で作った曲で、デモの段階からそんなに崩した記憶はないんですけど……サビのリズムとかはほぼ決まってるなかで、曲として成り立つギリギリのラインを模索して、ベースをどう乗せていくかでいちばん苦戦した気がします」

――曲作りの段階からサポートでベースを弾いているKenshiroくん(Aun beatz)と一緒にやってるわけですよね?

小原「ほぼほぼそうですね。3連の感じはデモの時点であったんですけど、アンサンブルの絡みとして、〈ここが一個ずれるとものすごく気持ち悪い〉みたいなことが起きるので、違和感があるんだけど、心地いい場所を探すみたいな、そういう作業を延々としてました。違和感は残したいけど、腑には落ちたいので(笑)」

――〈変拍子やポリリズムを入れよう〉みたいな発想ともちょっと違うと。

小原「ポリにするとかは僕はあんまりわからないんで、感覚的な話ではあったんですけど、感覚を共有して、アウトしてもらう作業に結構時間をかけました。

リファレンスとして、ブラジルの音楽のプレイリストを作ったりもしたんですけど、あんまり意味ないなと思って。それをもっと数学的に解説できたら伝わるんでしょうけど……難しかったです。もっとそれを理解してから手を出さないと、下手なことになっちゃうんで」

――表面的に真似するだけになっちゃう?

小原「そうそう。なので、そこはこれからの課題ですね」

 

ライヴ感を音源に持ってきたかった(藤本夏樹)

――“のめりこめ、震えろ。”のシンセに関しては、リズムや音色の面でどんなことを意識しましたか?

AAAMYYY「Tempalayは綾斗がおどろおどろしさを求めてくるので、そこを考慮しつつ、でも聴いてて心地いいという、ひたすらそれに徹しました。私がスパイス的なものを入れないと、綾斗が満足しないんです(笑)。

あとは〈ギターとシンセの掛け合いを意識してるのかな?〉と思ったので、中間を行くことはやめて、美しさとおどろおどろしさのどちらかであることにフォーカスして、音は作りました」

――ギターに関しては、“SONIC WAVE”のように派手なリフで攻めるタイプの曲は少ないですよね。

小原「今回はただただパワーコードみたいな曲がいままででいちばん多くて、わかりやすいリフ的なものは少ないかもしれないですね。ただ、鍵盤では出せないニュアンスがギターで出せるから、実験的なこともいろいろしてて、特にコード感は意識しました。それこそルイス・フューレイとかはコード感が気持ちいいというか、気持ち悪いというか、その感じは結構意識してたかもしれないです」

『21世紀より愛をこめて』収録曲“SONIC WAVE”

――夏樹くんは自分のプレイやアプローチに関しては、どんなことを意識しましたか?

藤本「ドラムの音は全然違って、いままではヴィンテージ機材メインだったんですけど、今回はハイファイ寄りにしたんです。それで組んでみた結果、物足りなくていろいろ遊んだりもしたんですけど、主軸はハイファイなドラム・セットで、それを実際に叩いてフレーズが変わったりもしたし、そこは絶対的に違います」

――なぜハイファイなドラム・セットにしようと思ったのでしょうか?

藤本「スタンダードなものに近づけたかったというか、曲自体がおどろおどろしいので、それに対してバランスを取ってもいいのかなと。前作の時点で、それまでにやりたかったことをやれた感じもあったので」

――例のBTSの件も含めて、バンドの状況が広がりを見せるなかにあって、もちろん急に売れ線を意識するわけではないにしろ、より広く届けようという意識も芽生えた?

藤本「そういう意識もあったとは思うんですけど、それよりもライヴ感を音源に持ってきたいという個人的な気持ちが大きかったですね。最近のTempalayのライヴは前よりよくなってる実感があって、前まではライヴの熱量を抑圧して音源にするのがクールだと思ってたけど、わりとそのまま出す曲があってもいいかなって。なので、“のめりこめ、震えろ。”の最後はわりと自由に叩いて、それがOKテイクになってるし、ダイナミクスに関して言うと、“脱衣麻雀”とかもそうですね」

 

〈なんじゃこりゃ?〉みたいなものが最終的にはスタンダードになる(小原綾斗)

――その一方では、“人造インゲン”のようなビート・ミュージック的なアプローチもあるのがおもしろい。

藤本「あれはスネアの上に割れたシンバルを乗せて、変な音にしてます。まあ、“そなちね”とか“Queen”とかは前までと同じテンションで録ってて、やっぱりかっこいいなと思ったり、俺のテンションが曲ごとに入り込んでるだけなんですけどね」

――AAAMYYYさんは自分のプレイやアプローチに関して、どんなことを意識しましたか?

AAAMYYY「〈音源で聴いて、いい音である〉ということにプライオリティーを置いて、前作から引き続き、今作も全部実機を弾いてます。

あとはギターがシンプルになったというか、単音をきれいに聴かせる曲が多い印象だったので、私はそれを邪魔せずに、足りないところを埋めたり。ベースがすごいアイコニックというか、リフ的な要素もあったので、リフの足し算はしないように心掛けて……あまり人が気にしてないところを鳴らすというか(笑)。

余白を埋めちゃうのはいい部分と悪い部分があると思うんですけど、いい塩梅でできたかなと思います。“そなちね”は生ピアノに好きなエフェクターをかけて、高揚感の力添えができたかな」

――“そなちね”はリファレンスの話で出た映画の「ソナチネ」がモチーフになってると思うんですけど、奇妙な構成ではあるものの、メロディアスで、スタンダード感のある曲ですよね。さっき夏樹くんにしたのと同じ質問で、綾斗くんとしてはより開かれたものを作るという意識はどの程度ありましたか?

小原「えー……2%くらいはあったかもしれないです。まあ、2%であり、100%でもあるのかも。要するに、求められるものがわかってくると、その真逆をやりたくなるんで、そういう意味で意識はしてるから、ある意味100%。

今回に関しては、無責任なものは作れない状況になってきて、誰に言われたわけでもない使命感を勝手に抱いてはいたので、広い層に届くものを結果的に作れた感覚はありますね」

――さっきの岡本太郎の話じゃないけど、毒を持って、自分にしかできないものを作ることが、結果として開かれたものを作ることに繋がるというか。

小原「そうですね。結局〈なんじゃこりゃ?〉みたいなものが最終的にはスタンダードになるので、いかにそれを説得力を持って提示できるかどうかだと思うんですよ。ただめちゃくちゃにやっても何の説得力もないけど、一見めちゃくちゃなものにちゃんと説得力を持たせることで、半歩先に立つことができるというか」

――太陽の塔なんて、〈なんじゃこりゃ?〉がスタンダードになった象徴ですよね。

小原「そういう意味では、いま自分たちがどういうふうに見られていて、どうあるべきなのかを、今回はちょっと意識したのかもしれないですね」