Page 3 / 6 1ページ目から読む

人も音楽も差別したくない

 ミルウェイズと共作すると政治的になりがち、と指摘するマドンナ。それがもっとも顕著になった曲こそ、アルバムの始発点となった先述の“Killers Who Are Partying”だろう。〈イスラム教徒が嫌悪されるなら、私はイスラム教徒になる。イスラエル人が去勢されるなら、私はイスラエル人になる〉という強烈な歌詞が耳に飛び込んでくるこの曲についてマドンナはこう説明する。

 「私は世界を断片的ではなく、一つのものとして見ている。自分は大きな宇宙の一部として存在するんだと。カテゴリーやラベルをつけて世界を見ない。けれどこの世界には、人々をカテゴリーに分類したりラベルを貼って自己の利益を防御しようとする連中がいる。私はラベルを貼られた人たちの前に立ちはだかって、連中からの攻撃を真っ向から受けるわ、と言っているの。私は地球市民、人類としての責任を感じ、すべての人への思いやりが義務だと感じる。誰かが苦しんでいるなら、その苦しみを私も感じると」。

 また、セカンド・シングルとなった“I Rise”は、米フロリダ州のマージョリー・ストーマン・ダグラス高校銃乱射事件を題材に、同校の生徒で銃規制運動を先導した19歳の活動家、エマ・ゴンザレスのスピーチで始まる。悲惨な事件を取り上げながら、若い世代に希望を見い出すマドンナの視点が反映された一曲だ。デビュー当時から社会の偏見と闘い続け女性の地位の進歩に多大に貢献したことについてと力強く語った。

 「私が若い世代に影響を与えたか? そうあってほしいと願っている。それが私の望み。エマのような女性が、彼女の世代の代弁者であるという点も重要だわ。私は初期の頃からずっと同じ姿勢を貫いてきた。女性の権利について公の場で発言し、人間としての権利について公の場で発言し、常に弱者の平等のために闘ってきた。そのせいで多くの打撃を浴びてきたのも事実だけど、確かに女性の地位を向上させる闘いの最前列に立ってきたと感じている。私の後に続く女性たちのために、さまざまな境界を拡げてきたと思う。でも、いまだに闘いは終わっていない。以前と同じ闘いが続いていると感じているわ」。

 『Madame X』ではマルーマ、スウェイ・リー、クエイヴォ、アニッタなどと共作し、新世代ともコネクトするマドンナ。彼らは若いばかりでなく、言語も文化も異なる。もはや英語はポップ・ミュージックの公用語ではなくなったことの証でもある。

 「もはやロックやポップの公用語が英語だけではなくなった。まったくその通りだと思うし、それは素晴らしい状況だと思う。ポップ・ミュージックがより〈ワールド・ミュージック〉になってきたのだから。区分主義というのが私は大嫌い。人を差別したくないし、同様に音楽も差別したくない。だからいろんな言語が飛び交う音楽シーンを愛している。NYにいればスペイン語の歌が流れてくるし、リスボンで車を運転しながら聴く音楽は世界中の音楽よ。サンバ、レゲトン、ダンスホールなどなど。本当にアメイジングだわ」。

 それでも、今回のように言語の違う人たちとの音楽作りはチャレンジだったのでは?と問うと、彼女はこう答えた。

 「でも私はチャレンジが好きだから!」。

 マドンナのチャレンジは続く。