COLUMN

〈NONESUCH RECORDS設立55周年〉特集、ジョン・アダムズ/ニュー・アムステルダム/ブラッド・メルドーに迫る

(c) Vern Evans

JOHN ADAMS
「アメリカでは音楽ジャンルを厳密に分けないんです。私自身はミニマルの影響を受けましたが、必ずしもミニマリストになりたかったわけではないし、ジャズやロックからも大きな影響を受けています」

 現代アメリカをリードする作曲家ジョン・アダムズが、最新作のピアノ協奏曲《Must the Devil Have All the Good Tunes?》の日本初演(3月20日、ドゥダメル指揮ロス・フィル、ユジャ・ワン独奏)に立ち会うため来日した。日本を訪れるのは実に45年ぶり(!)、しかも今回がまだ2度目だという。

――先日オランダののエラスムス賞を受賞なさり、おめでとうございます。受賞理由は「今日のための作曲」ですが、ずばり「今日のための作曲」とは?
「オリジナルな作品を書くこと、それからアクセスしやすい作品を書くことだと思います。私の場合は、原爆やテロといった今日的な題材をテーマにすることですね。そこが評価された対象ではないかと」

――原爆開発とトリニティ実験を扱ったオペラ『ドクター・アトミック』のスコアは、ノンサッチ初代社長ロバート・ハーウィッツに献呈されていますね。
「私の人生において最も重要な人物です。ライヒ、クロノス・クァルテット、ローリー・アンダーソン、ジョシュア・レッドマンも同じように感じていると思います。ノンサッチは偉大なレーベルですが、我々みんな、ひとつの家族のようなものですよ」

――昨年『ドクター・アトミック』の初録音をノンサッチからリリースされましたが、2005年の初演時と、それから14年を経た現在とでは、作品に対する見方は変わりましたか?
「これまで私のオペラは、どれも初演のたびに厳しい批判にさらされてきました。『中国のニクソン』も最初は笑い者にされましたし、最近初演した『黄金の西部の娘』も台本が悪いと批判されました。『ドクター・アトミック』も同じです。確かにこの作品に関しては、知的な意味で理解するのが難しい作品だとは思います。プルトニウムや中性子の話が出てきたと思ったら、次のページはコーラスがボードレールや『バガヴァッド・ギーター』の引用を歌ったりしますからね。人生の2年間をすべて注ぎ込んだ作品が駄作と書かれると、そりゃ傷つきますよ。でも、10年か20年経てば、評価も変わってきます」

――以前、DVD用の字幕を訳して思ったのですが、この作品は現代版『ラインの黄金』だと思いました。
「どのような点でそう思うのですか?」

――手をつけてはいけない自然を人間が細工し、それに対して(大地の女神)エルダのようなアルト歌手が、警告の歌を歌うからです。
「その解釈、私も引用して構いませんか?(爆笑)」

――日本でまだ上演されていないのが、非常に残念です。我々日本人にとっても重要な作品ですので。
「もしこのオペラを指揮して、日本に客演する機会があったら、演奏会形式でも構いませんよ」

――今回、ピアノ協奏曲の新作を委嘱・初演したロス・フィルとの繋がりは?
「1981年の《コモン・トーンズ・イン・シンプル・タイム》を皮切りに、ほぼ毎年私の作品を演奏してもらっています。現在、私はロス・フィルの〈クリエイティヴ・チェア〉というポジションをいただき、現代音楽のプログラミングや委嘱、指揮を担当しています。先日も、グラスの交響曲第12番《ロジャー》の世界初演を指揮しましたが、これは私の新作と同様、ロス・フィル創立120周年記念の委嘱作品です」

――その新作の曲名は「悪魔はすべての名曲を手にしなければならないのか?」という意味ですが、ずいぶん変わっていますね。
「実はマルティン・ルターの言葉から採ったんです。チャック・ベリーやミック・ジャガーみたいにロックな曲名でしょう(笑)? ソリストのユジャ・ワンの超絶技巧を「悪魔だ!」と表現するような意味で、この曲名を使いました。もうひとつ、リストが19世紀に作曲した《死の舞踏》の伝統に連なるという意味も込めています」

――主題そのものもジャズというか、とてもアメリカ的ですね。ヘンリー・マンシーニ的というか。
「ファンキーでしょう? それと、私はホンキートンク・ピアノの音が好きなので(独奏パートとは別に)曲の中で用いたのですが、今回はツアー演奏の制約上、楽器を運べなかったので、サンプル音で代用しました。英語で言うところの“サワー”、つまりキムチのような酸味が欲しかったんです(笑)」

――女性演奏家とのコラボでは、もうひとり、リーラ・ジョセフォウィッツのために《シェヘラザード.2》を作曲しましたね。この曲、現在の視点で見ると女性の抑圧を表現した“#metoo”だと思うのです。
「作曲時は全く考えもしませんでしたけどね。彼女はもう60回以上演奏していますが、先日、マリン・オールソップが女性指揮者として初めてこの曲をリーラと一緒に演奏してくれました。作曲家の私だけ男性なので、申し訳ないという感じです(笑)」

――リーラは「アダムズの《ヴァイオリン協奏曲》で人生が変わった。もうメンコンやチャイコンは弾かない」と言っていましたよ。
「彼女のレパートリーで最も古い曲は、ストラヴィンスキーです。指揮者たちも、もっとそうなってくれるといいのですが(爆笑)」

――先日、ニューヨーク・タイムズ紙であなたがグラスと対談された時、「アメリカ音楽の偉大な点は、あるジャンルが別のジャンルに滲み出すところだ」という趣旨の発言をされましたね。
「その伝統は、ラグタイムを使ったアイヴスまで遡ることが出来ます。ジャズを用いたコープランドの《ピアノ協奏曲》、プエルトリコやクール・ジャズやビバップの影響を受けたバーンスタインの《ウエスト・サイド・ストーリー》、MJQの影響を受けたライヒもそうですね。そうした伝統は、20代、30代、40代の若い作曲家にも受け継がれていますが、彼らはジャズよりもロックやエレクトロニカの影響を受けていると思います。ヨーロッパ、特にドイツとフランスで強く感じるのは、シリアス・ミュージックと、ノン・シリアスのポップスの間に厳然たる境界があることです。例えば、ブーレーズはジャズやロックを全く論じませんでしたよね?」

――フランク・ザッパ以外は。
「あれは不思議な例外でしたね(注:ブーレーズが指揮したザッパの『ザ・パーフェクト・ストレンジャー』のこと)。きっと、ブーレーズは何かクールなことに挑戦したかったのでしょう。結果はそうなりませんでしたが(笑)。いずれにせよ、アメリカでは音楽ジャンルを厳密に分けないんです。私自身はミニマルの影響を受けましたが、必ずしもミニマリストになりたかったわけではないし、ジャズやロックからも大きな影響を受けています」

――映画音楽についてはどうですか?
「例えばマンシーニがデューク・エリントンやスタン・ゲッツの影響を受けていたり、あるいはジョン・ウィリアムズがクラシックの影響を受けていたりというのはありますが、映画音楽は我々が言うところの“坩堝”、つまりスープやシチューのようなごった煮で、いろんな影響が雑多に入っています」

――ドン・デイヴィスがあなたの影響を受けて『マトリックス』の音楽を書いたり、あるいは多くの映画であなたの作品が使われたり、あなた自身の音楽もハリウッドに影響を与えている状況については?
「とても悲しく思っています。もし、作曲家が単独で全編の音楽を手がければ、ひとつのアートとして論じることも可能でしょう。しかし、現在のハリウッドで決定権を持っているのはミュージック・スーパーバイザーです。彼らがバーバーの《アダージョ》を選んだり、スティーヴィー・ワンダーを選んでいる。とても音楽の統一体とは言えません。それと現在のハリウッドは、コルンゴルトやマックス・スタイナーやジョン・ウィリアムズの時代に比べて、作曲家のスキルが低下していると思います」

――ブライス・デスナーやジョニー・グリーンウッドなど、ロック出身でありながらクラシック作品も書く作曲家についてはどう思いますか?
「重要なのは音楽が良いか悪いかで、出身は関係ありません。デスナーはイェール大出身ですが、それとは関係なく神童ですね。一方、ザッパは大学を出ていないし、ブラームスやベートーヴェンなどの大作曲家も大学を出ていない。ストラヴィンスキーは音楽院だけ。世間にはいろんな人がいるわけです」

――でも、あなたはハーバード大出身ですよね?
「私がハーバードにいた頃は、ベトナム戦争、ロック、サイケデリック、LSD、反戦運動が渦巻く激動の時代でした。現代とはずいぶん違いますよ(笑)」


(interview & text : 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)/取材協力・AMATI)

 

 

 


ジョン・アダムズ(John Adams)
1947年マサチューセッツ州生まれ。ハーバード大学でレオン・キルシュナーに作曲を学んだ後、サンフランシスコ音楽院で作曲の教鞭を執りながら、ライヒ、グラス、ライリーらミニマリストの影響を受ける。代表作に《シェイカー・ループス》(1978)《ハルモニーレーレ》(1984)《ヴァイオリン協奏曲》(2005)《魂の転生》(2002)《シティ・ノワール》(2009)など。演出家ピーター・セラーズとコンビを組んだオペラに《中国のニクソン》(1985)《クリングホファーの死》(1991)《ドクター・アトミック》(2005)《黄金の西部の娘》(2017)がある。

 


テリー・ライリーのミニマルの名作《In C》にインスパイアされ、出世作《シェーカー・ループス》を作曲したジョン・アダムズ。その音楽を知る上で欠かせないのは、やはり《ハルモニーレーレ》と《ヴァイオリン協奏曲》だろう。前者は、シェーンベルク風の後期ロマン派を思わせる大編成でミニマルを鳴らし続ける快感を表現し、後者は、19世紀のロマン派協奏曲の超絶技巧をミニマルの文脈で見事に開花させた。ヴァイオリン協奏曲第2作《シェヘラザード.2》は、女性の独奏ヴァイオリニストを「アラビアン・ナイト」の語り手シェヘラザードに見立て、男性至上主義の原理主義者たちを象徴する巨大なオケが彼女に襲いかかることで「女性の抑圧」を表現した、まさに#metoo協奏曲と呼ぶべき野心作。いまだに日本初演の目処が立たないと《ハルモニウム》『ドクター・アトミック』は、英国詩人ジョン・ダンの詩を歌詞に用いたという共通点がある。

 

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