サカナクション
みずからのグルーヴとメロディーを現行ポップのモードに織り込んだキャリアの集大成

 実に6年ぶりとなるニュー・アルバム『834.194』は、この長いインターヴァルの間に沸き上がったクリエイティヴィティーを丸ごと注ぎ込んだかのように、CD2枚組というヴォリュームで届けられた。前作以降のシングルやベスト盤収録のナンバーも押さえた内容ながら、ごった煮的な印象を感じさせない、丁寧にストーリーを構築した作品になっている。

サカナクション 834.194 NF Records/ビクター(2019)

 Disc-1は言うなれば〈アッパー・サイド〉。AOR的な洗練が眩しいシンセ・ファンク“忘れられないの”で幕を開け、オリエンタル・ディスコ“陽炎”や“新宝島”といったシングル曲を畳み掛けて、C-C-Bを換骨奪胎したようなフックだらけの歌謡ファンク“モス”に突入する。スターダストばりの人力ディスコ・ハウス“「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」”からクールなグルーヴへと舵を切り、穏やかなR&B“セプテンバー -東京 version-”でDisc-2へと誘引する。DJミックス的にも感じられる構成で熱量をグイグイ上げていく様がとにかく小気味良い。

 一方のDisc-2は〈メロウ・サイド〉といったところか。スケール大のバラード“グッドバイ”などのシングル曲で立ち上がり、バレアリックな雰囲気のスロウ“ナイロンの糸”にピアノと不思議なアンビエンスだけを纏った“茶柱”と静謐なナンバーが続く。4つ打ちロック“ワンダーランド”などでエモーショナルなサウンドを轟かせると、バンド・サウンドによる“セプテンバー -札幌 version-”で締め括られる。総じて、美しく叙情的な歌とメロディーを前面に押し出した構成だ。

 前作『sakanaction』はテクノ/ハウスのミニマリズムに最接近した作品だった。そのストイックな探求を経て、本作での彼らは、ソウル/R&BやディスコがJ-Popのモードとして浸透した状況を踏まえながら、猥雑なグルーヴや胸躍るメロディーを見事に織り込んでみせたように感じられる。モダンかつ最高にキャッチーで、統一感がありながらどこか謎を残す本作は、間違いなくキャリアの集大成と言える重要作だろう。