INTERVIEW

Bird Bear Hare and FishがBBHFに改名。ふたたび生まれ変わった尾崎雄貴が考える、バンド音楽の可能性

BBHF『Mirror Mirror』

(左から)佐孝仁司、尾崎和樹、尾崎雄貴、DAIKI
 

Galileo Galileiの元メンバー3人(尾崎雄貴、尾崎和樹、佐孝仁司)とサポート・メンバー(DAIKI)によって結成され、昨年9月にファースト・アルバム 『Moon Boots』を発表したBird Bear Hare and Fish。初のツアーを終えて以来しばし沈黙していた彼らが、BBHFに改名し、新たなEPを送り出す。

今後の道筋の青写真を示し、バンドの野心とポテンシャルの大きさを仄めかす第一弾として作られた『Mirror Mirror』は、タイトル通り〈鏡〉をモチーフに、デジタル・コミュニケーション・ツールが中心にある現代の風景を描写。サウンドもデジタルにシフトし、トラディショナルなロック・バンドのフォーマットを一旦解体して、ヒップホップやダンス・ミュージック、R&Bにインスピレーションを求めた、ミニマルな表現を導入している。それはつまり、2010年代とその先の時代における〈バンド〉の在り方を模索する1975やバスティル、レイニーといった海外の面々に、同時代人として共鳴するような試みと言えよう。シャイニーな画面をタップするリズム、着信音や通知音のクリーンな響きにシンクロするモダン・ポップ集に託した目論見を、フロントマンの尾崎雄貴に訊いた。

BBHF Mirror Mirror Beacon (2019)

 

描きたかったのは、デジタルな繋がりが普通になった現在

 ――今回、配信限定のEPという形で作品をリリースするに至った経緯を教えてください。

「まず『Mirror Mirror』があって、そのあとでもう1枚制作し、結果的には対になるようなふたつのEPを発表するという企画なんです。もう1枚はまだレコーディングしていないんですが、『Mirror Mirror』がデジタルとするならば、もう1枚はカロリーが高くて、肉体的な感じですね。両極端なことをやってみたくて」

――曲作りをしているうちに、自然にふたつの方向性に別れていったんですか?

「自分たちのなかでふたつに別れたというより、ふたつ異なるものを出すことで、より大きい全体像をバンドで表現できるかもしれないという発想からスタートしました。ライヴも例えば、セットリストの前半は1枚目、後半は2枚目に分けるとか、あるいはライヴごとにモードを変えるとかをやってみたい。それに、ふたつの方向性を混ぜて1枚のアルバムに収めると、アレンジも含めて方向性がくっついてしまう。あえて分けることで、1枚の大きい絵として聴き手に伝えて、自分たち自身もバンドのポテンシャルを感じることができて楽しい。そういう挑戦です」

――そんな意欲的な企画が生まれたのは、クリエイティヴな意味でバンドがいい状態にあることの表れ?

「そうですね。いまはやることなすこと、みんな楽しんでやれていて、ステージに立って人に歌を歌って伝えることが、単純に楽しい。普段の生活のなかにある瞬間の想い、〈あれってどうだったんだろうな〉と思うような体験を作品に落とし込んで、歌って問いかけて、人の目を通して答えをもらう。そして作品を自分で聴いてみて、自分自身からも答えをもらえるという行為が、楽しくてしょうがないんです。これができること自体がありがたいし、その楽しさが、2枚のEPを作るという挑戦に踏み切るパワーをくれたというか」

――実際『Mirror Mirror』の収録曲は、積極的にコミュニケートしたがっている楽曲ですよね。これまでは、聴き手にそういう答えを求めていなかったんですか?

「いままではわりと、自分たちのなかだけにある言葉や情景やストーリーをただ形にして、それを〈どうですか〉と差し出す感じだったと思うんですけど、今回は違って。『Mirror Mirror』 では、スマホというものに目を向けています。ポチポチ打ってメッセージを送るということを誰もがやっていて、メンバーもみんなずっとケータイを持っているし、手紙とか電話とか肉体でやるものではなく、データで送ることでコミュニケーションをとっている。いま生きている人たちはみんなその過渡期にいて、おもしろい時代だと思うんですよ。それに対して、気持ち悪いなと思いながら過ごしている人もいれば、当たり前だと思って楽しく過ごしている人もいて。僕自身はどちらかというと、当たり前になったとギリギリ思っているか思っていないかの線かな。

あと、電源を切ったときに、スクリーンに顔が写るじゃないですか。それを見ているというのがちょっとおもしろい図だなと思うんです。結局みんな同じ黒い画面を見つめていて。そういったことを言葉として説明しようと思ったわけじゃなくて、自分が感じるいまの時代のコミュニケーションの感覚を、冷たいものとしてではなく、楽曲に取り入れてみたかった。例えば昔の音楽には、手紙も電話も出てくるし、見つめ合って話すことも出てくる。それと同じように、デジタルでの繋がりを当たり前のものとして、何かを問いかけることができたらおもしろいと思ったんです。だからこそ盤にはせず、まずは配信で。そしてもう1枚のEPはフィジカルを作って、そこも対比させたい。それで〈どう感じる?〉と聴き手に訊いてみたいし、自分たち自身もどう思うのか、実験したかった」

『Mirror Mirror』の表題曲
 

――世代的に、デジタル化のビフォーとアフターを知っているからこそ取り上げたテーマとも言えますよね。ビフォーを知らなければ、そこまで関心を抱かなかったかもしれないですし。

「そうですね。いまやゲーム機もネットに繋がるのが当たり前だけど、僕らの時代はギリギリ、ゲームボーイとか白黒の世界だった。こうなるっていうことは誰一人予想していなかったと思うし、それをギリギリ感じられる世代かな。それをいまだからこそ描きたいなと思った。この先はさらにテクノロジーが進んで、AIだのなんだのって言っているじゃないですか。そうなると、いま歌いたいことは歌えなくなっちゃうかもしれないし、いまの時代の歌として落とし込みたかったんです」

――すると、明確なテーマがあったうえで曲を作りはじめたということですね。

「はい。でも結構前から、〈鏡〉というものを自分の音楽性におもしろい形で取り入れられないかなと思っていたんです。今回は、メロディーも歌詞もなるべく鏡みたいに反復させていて。歌も、メロディーに対してメロディーをぶつけるとか、〈反射〉を意識したりして、曲を作っています。〈乱反射だからこんな感じなんだよな〉と思いながらアレンジしたりとか。いままでは、テーマはあとで立ち上がってくるものだったんですけど、今回は、ひとつのテーマに向けて曲を作ると、こういう楽しさがあるんだなと実感しながらやっていて、作品を作っているんだという感覚が強かったですね。言い方はあれだけど、ちょっとナルシシスティックな面もありました。

でも、それもこのテーマに関係していて、みんな人とコミュニケーションをとっているつもりでも、結局自分を映しているだけに過ぎないんですよね(笑)。みんなずっと自我と向き合っていて、自我ばかりが強大になっていって。僕は、それもいまの時代のおもしろさとして捉えています。日本人はテクノロジーに心が広いというか、昔からあまり深く考えずに取り入れるところがあるじゃないですか。僕もそうなんですよ。だからこそ現代の世界観を、〈冷静に〉と言うよりは、〈大雑把に〉自分のなかに落とし込めるのが、日本人であることのおもしろさなんじゃないかと思っていて。今回のテーマがあまりダークな方向に行かなかった理由は、そこにあるのかな」

 

サウンドを削ぎ落したぶん、歌にエモーションを込めた

――サウンド・プロダクションも、テーマに準じてエレクトロニックに転じています。世界的なポップ・ミュージックの主流に接近しているところもあって、ファンの驚きは大きいでしょうね。

「最近僕の頭のなかで鳴っているサウンドとか、自分の生活に合ったサウンドがこういう感じで。サンプル素材も多用しているんです。外部からサンプリングしたものだけでなく、自分でケータイで録音したものを使ったり、自分の声を自分の声ではないものにしたりするのがすごく楽しくて。でも、いつの間にかこうなっていたという感じで、もっとおもしろくしなきゃとか考えていたわけではなかった。乱反射するとか反射するとか、(それをどう音にするか)試行錯誤しながらやっていたら、いつの間にか全部出来ていたようなところもあります」

――それにしても、Galileo Galileiでもさまざまな音楽的実験をしていましたが、あのバンドではここまで振り切ることができなかったと思いますか?

「そう思います。それも含めて、さっき言ったように楽しいんですよ。いままでは結構好きな音楽を追いかけて、それを取り入れて、消化して伝えていくことが楽しくてやっていたんだけど、いまは、自分たちの生活のなかにあるものをどこまで、自分たちから見ても人から見てもおもしろく表現できるのかっていうところに、集中できるようになった。それが、例えばポップというふうに捉えられたとしたら最高だなと思っていて。そこは狙っているかな。やっぱりポップであるべきだと自分では思っているんです。ポップは正義だから(笑)。あと、歌は正義だという考えもあるんで、そのふたつはどんな音楽性になったとしても、変わらないでしょうね」

『Mirror Mirror』収録曲“友達へ”
 

――歌という要素は、確かにこのEPでは重要性が増しています。プロダクションがミニマルになったぶん、歌で引っ張っていて。歌い手としての意識も変わったんじゃないですか?

「そうですね。ギターとベースとドラムという、いわゆるロック・バンドのサウンドのなかで歌うと、どんな歌い方をしても、ギターがある程度エモーショナルさを出してくれたり、補ってくれたりする。逆に感情をすごく入れて歌っても、脂っこくなっちゃうことが結構あるんですが、今回はなるべく音数を削ったんですよ。入れようとしなかったわけじゃなくて、例えばギターを弾いてみたけど入らない箇所が多くて、〈じゃあいいや〉みたいなことが結構あった。その結果、歌でエモーショナルさを出してあげなきゃいけなくて。曲を作りながら〈こういうふうに歌おうかな〉と考えるだけでもすごく楽しかったですね」

――しかも、数を絞った音をすごく美しく鳴らしているようにも感じます。

「ミックスもマスタリングも自分たちでやったんです。例えばリヴァーブのタイム感なんかも含めて、いままでは録音して〈はい、どうぞ〉とエンジニアにやってもらうことが多くて、あまり考えていなかった。でも今回は、最初からたっぷり隙間がある状態で曲がどんどん出来ていったので、音と音の隙間をどうするかというところで、捉え方が一次元増えたんですよ。だから、サウンドとしての音と音の空間について、すごく考えてはいたかな。例えば、リヴァーブをすごく深めたらドリーミーになるのではなく、一気に切ったときに逆にドリーミーになったり。ミックスとレコーディングを同時にやりながら、自分のなかで〈これはおもしろいな〉と思う不思議な体験があって、サウンド・プロダクションの面でもいろいろ試すことができました」

――曲作りに関しては、バンド的なアプローチを取らずに、ビートから組み立てたんですか?

「そんな感じです。メンバーが途中で参加してギターやベースのフレーズを作るというのではなく、いつもスタジオで一緒に作業をしている(尾崎)和樹と僕が、ひたすら音と向き合って。そして、ほぼ完成した曲をみんなに聴かせて、〈何か追加することがあったらくれ〉と言って、音をもらった感じですね。基本的には〈僕が中心でやりたい〉という話をしていたので。でも僕が中心になってやったからといって、僕自身がやりたいことをやったわけではなく、あくまで僕がBBHFというバンドでこれからやって行きたいことを、みんなに提示した。〈BBHFはこういうことができると思うんだよね〉と、そういうバンドへの希望として僕は作っていたんです」

――踊れる曲も多いですよね。

「体を揺らせる曲って、いままでなかなか作れなくて。単純に技量的に作れなかったんです。わかっていなかったから。でも今回は1枚を通してずっと同じテンションで揺れるような感じになっていて、そこも気に入っています。ファンにとっても、ライヴですごく新しい体験になるんじゃないかな」

『Mirror Mirror』収録曲“Torch”

 

BBHFとしてヒップホップにアプローチしていきたい

――それは、リスナーとしての尾崎さんが聴く音楽が広がった結果でもあるんでしょうか?

「ヒップホップを聴いている影響はあるのかもしれません。いままで自分たちが感じていたヒップホップのイメージではなくて、ヒップホップの歌の感じ、こぶしの入り方、サウンド・アプローチなんかが好きで聴いているだけであって、多分ヒップホップそのものが好きだというわけではないですけど。世の中ではヒップホップと呼ばれている音楽、ラッパーと呼ばれている人たちが作るサウンドを聴いていて、それはメンバー全員に共通している。

さっきも写真撮影で久しぶりにメンバーが集まって、カメラマンの方がタイラー・ザ・クリエイターの新作『IGOR』を流していたら、〈いいよね、これ〉という話になって。離れていても似たようなものを聴いていて、みんな同じ何かを感じているんだと思う。いまの音楽に対しても、自分たちができることに対しても。それがメンバーへの信頼感に繋がるんですよね。何をやってもきっとわかってくれると」

――歌詞には少しラップに通ずるところがありますね。スタイルとしてではなく、言葉の乗せ方、響かせ方において。

「反復するところとかは、ラップもそうですよね。僕はボン・イヴェールとフランシス・アンド・ザ・ライツが大好きで、彼らのロックやブルースの立場からヒップホップに揺れ戻っていく感じがすごくおもしろいと思う。おもしろいし、スタジオで独りでお酒を飲みながら彼らのアルバムを聴いていたら涙を流すくらい、何かを強く感じる。歌詞も、意味がすごく通っているわけじゃないのに、すごくエネルギーを感じて。自分のなかでいちばん情熱的に好きだと言えるのが、ボン・イヴェールの仕事の仕方かな」

ボン・イヴェールの2019年の楽曲“U(Man Like)”
 

――作詞は曲が完成してから行なったんですか?

「今回はサウンドを作っている段階からイメージがあったから、わりと即興でやったんです。ノートを持って、歌いながら書いて……みたいな感じで。それもやっぱり〈どうなるんだろう?〉という実験でもあったし、自分ならではの節回しみたいなものを作りたかったというのもある。いろいろ考えたり聴いたりしながら〈こういうメロディーを作りたい〉と決めるのではなくて、曲に対して自分のなかから出てくる、言葉とそのリズムを引っかけていきたいというのがあって。いま、ソロ・プロジェクトのwarbearとして作っている曲もそうだし、自分のなかでひとつのテーマになっているんです」

――まさにヒップホップ的アプローチですね。

「そうですね。僕が考えている、ヒップホップのいいところを取り入れたいんです」

 

ようやく音楽的な意味で青年になれた気がする

――そしてもう1枚のEPは、よりバンド的なものになると考えていていいんでしょうか?

「はい、『Mirror Mirror』が僕という1人の人間からの、スマホという鏡を通したコミュニケーションだとすると、もう1枚は、すごくストレートなものになると思っています。そっちのほうでは、驚きを提示しようという気持ちが一切ない。でも〈自分たちの良さってここだよね〉みたいな話もしていない。ただいい曲を書いて、北海道に芸森スタジオという宿泊施設を備えた大きなスタジオがあるんですけど、そこでお酒を飲みながらバンドで音楽をやって、出来上がったものを世に出すということをしたくて」

――たとえばライヴ・レコーディングするとか?

「そうですね。メンバーの技量によるので、レコーディングまでにみんな練習してきてほしいな(笑)。僕のなかでは、『Mirror Mirror』が語りかけるEPだとしたら、2枚目は〈オラ!〉と人にぶつかっていくEPになるかなと思っていて。とにかくシンプルなことをやりたいです」

――こうなると、ファースト・アルバム『Moon Boots』の意味合いが変わってきますよね。あの作品には、4人のメンバーが集まったときに自然に出る音が収められていたように感じるんですが、まだ肩慣らしみたいなもので、いまからBBHFというバンドが始まるような気がします。

「いま振り返ってみると、そうなりますね。『Moon Boots』を出してみて気付いたことがいろいろあって、言葉に言い表せないこともあるんだけど、『Moon Boots』の反省が、これからふたつの軸で進めていきたいという想いに直結していると思う。そもそも僕らの場合、Galileo Galileiとしてデビューしたときは周りも見えていなかったし、自分のなかでの音楽の捉え方が、言葉を選ばずに言うと、幼稚過ぎた。自分たちはガキなんじゃないかと思いながらずっと音楽をやっていた。

そして新しくBBHFを始めて、いまやっと、音楽的な意味では青年になったような感覚なんです。だから〈いまはこういう音楽をやっているんです〉とあらためて人に知らせていくなかで、デジャヴ感というのがない。もちろん〈これは踏んじゃいけない〉という地雷は見えるし、〈あのときやっとけばよかったな〉と思うことをいまやれるという強みはあるけど、自分でもすごく新鮮さを感じられるうえで、このバンドを応援しようとしてくれている人がいるという状況は、すごくありがたいと思っています。それは絶対に無駄にしたくない。『Moon Boots』を発表した時点で再スタートだと言ったけど、今回レーベルも変わったし、これが再々スタートかな(笑)。この2枚のEPとその先にあるものが、僕らにとって勝負だなと思っています」

 


LIVE INFORMATION
LIQUIDROOM 15th ANNIVERSARY
2019年7月30日(火)東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演:18:00/19:00
前売り:3.500円(ドリンク代別)
出演:BBHF/mol-74
★詳細はこちら

 

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