DIYやインディーという意識すらないんです
――シャムキャッツとミツメは音楽性だけでなく、独立独歩の姿勢でもインディーの精神を正しく受け継いできたと思うんですよ。そこに対する矜持みたいなものはありますか?
夏目「うーん。なるべく自分がやりやすいほうに動いて、たまたまこうなっているってだけで。DIYでやっているという意識すら別にないの」
川辺「ですよね」
夏目「自主レーベルとかそういう話が好きな人もいるから、その前提でインタヴューされることもありますよ。向こうから事実を並べられて〈これはDIYですよね!〉と言われると、まぁそりゃそうなんだけど(笑)。そういうことではないんだよね」
――逆に、自分たちだけでやっていくうえで困難な面は?
川辺「インディーでやっていると、まったく関係ない人を巻き込んで、活動を大きくしていくのが難しいんですよ。僕たちはスペースシャワーに流通やレーベル業務の基本の部分、プロモーションをお願いしていて、最初は僕たちのことをあんまり知らなかったけど、営業しているうちに好きになってくれたスタッフの方もいて。そういう人に出会うと、メジャーでやっていく意味もあるんだろうなと思いますね。バンドが長く続いていくうちに、応援したいと思ってくれた人がなかなか入りづらくなる面もあるし」
夏目「わかるわー」
川辺「そういう堅苦しいイメージがつかないほうが、風通しも良さそうですしね。さもインディー・マナーがあるかのような振舞いだけはやめておこうと。うまくいくんだったら、たくさんの人に関わってもらうほうが全然いいので」
――こういう言葉が出てくる人こそ、真のインディーだなって思いますね。インディーやDIYが目的でやっている人とは違うんだなって。
川辺「あと、ずっと自分たち主体でやってきたから、権利関係の大きな部分は僕たちが所有しているんですけど、その意味が大きくなってきましたね。日本に限らずアジアとかでライヴをやって、物販でCDを買ってもらうと、そのままダイレクトに収入になる。これまでの自分たちの活動が、いまの僕たちを支えてくれているんだなって、10年経って実感しています」
たまには応援したい人のための窓口を設けてもいいのかな
――シャムキャッツは今回、12月に開催されるデビュー10周年ライヴの映像作品化に向けたクラウドファンディングを企画しました。その理由を教えてもらえますか?
夏目「せっかく10年やったので、自分たちで誕生日会を開いてもいいし、それを盛り上げようとしてもいいのかなって」
――なるほど。
夏目「バンド側も勝手にやっているので、(ファンも)勝手に好きになったり嫌いになったりすればいいと思うんですよ。でも、たまには応援してもらえる場所を作ってみてもいい気がして。実際、応援したがっている人が結構いるのも感じていて。ホントは苦手な感じではあるんだけど、たまにはその扉を開けてみよう、応援したい人のための窓口を設けてみようと」
――でも確かに、長くやってきたバンドであれば、CDやアナログ、グッズも片っ端から買って、ライヴも常連みたいなファンが必ずいるはずで。そういう人がもっと応援するためのコーナーを設けるのって正しい気がしますね。
夏目「そうそう。俺らは実際、めちゃくちゃ資金があるわけでもなく、後ろ盾もないわけで、だったらやるのは正しいんじゃないかと思って。あとは昔と比べて、クラウドファンディングも一般化してきたし、以前よりフランクに考えられるようになったのもあるかな。いい企画もいっぱい見てきたし」
――この取材が行われている時点で、集まった金額は目標の100%を越えています。実際にやってみて手応えはどうですか?
夏目「うーん、手応えのある/なしはわりとどうでもよくて。めちゃくちゃお金を集めて力を示したかったわけでもないし、目標金額を一応掲げてはいるけど、それより(クラウドファンディングを)やること自体が目的だったというか。みんながいつもより少し楽しんでもらえたらいいなって気持ちのほうが強かったです」
――10周年記念ライヴを盛り上げる一環になればというね。会場の新木場STUDIO COASTは、シャムキャッツ史上最大の規模ですけど。
夏目「怖いですよ(笑)。がんばんないと」
――なにせ広いですからね(笑)。いまの時点で、どんなライヴにしようと考えてます?
夏目「最近、ライヴの調子が良いんですよ。その感じをギュッと出せたらって感じかな。なんというか、普段は食わないものを食いに行く感じ。それこそ誕生日なんだし、いつもは頼まないけど今日はサーロインにしとくか、みたいな。そういう感じのライヴになったらいいなと思っています」
ちゃんとした音源を作るため、良いライヴをやりお金を稼ぎ、休む時間を増やす
――ミツメも現在、リリース・ツアーの真っ最中ですよね。
川辺「そうですね……新作の曲が難しくて(笑)。毎回なんで自分たちができないことをやろうとしちゃうんだろうって」
夏目「でも新鮮だな。今回のアルバム、アンサンブルはおもしろいけど、そんなに難しいって印象はなかったから」
川辺「いやー。マオ(大竹雅生/ミツメのギター)が初めて鍵盤を2台演奏する曲があって。その曲は僕のギターも難しくて、手が震えてヤバイと思いながら横を見たら、マオの手も」
――みんなブルってる(笑)。
川辺「だから、ライヴを重ねるうちに、だんだん仕上がっている感じがしますね。常に最新のライヴがいちばん良いんじゃないかな。完璧な状態に仕上げようと、いつもよりリハもたくさんやったんですけど、本番になるとやっぱり手が震えてしまう(笑)。ツアー初日からパーフェクトな状態で来いやって話だと思うんですけど」
夏目「いや、それこそ結構リアルに、こういうスタイルでやっていると難しいなと思うんだよね」
――というと?
夏目「自分たちで全部やっているじゃないですか。もうちょっとスタッフがいるような環境だとスケジュールをしっかり組めると思うんですよ。例えば1週間くらいスタジオ入りして、練り上げた状態でツアー初日を迎えるとかできるかもしれないけど」
川辺「いや、それが本来の正しいエンタテインメントの姿だと思うんですけどね」
夏目「本当にそう。現状のスタッフで全体を回してとなると、ツアーの前にリハに入れる時間も限られるし、もうちょっと余裕がほしいなと思う。そうなると人が必要だってなるけど、そのためにはもうちょっと儲からないといけない。そのためにはもうちょっと良い曲が必要。でも曲を書く時間がないな。どうする!?みたいなジレンマはずっとあるよ。徐々にそういうのを良くしていかないと」
川辺「わかります」
夏目「だからね、僕はライヴがいちばん説得力があるというか、人前で表現することがすべての打開策になると思っていて。良いライヴをするとお客さんもわかりやすく増えるし。そういう意味で、昔とは正反対になってきているかもしれない。もともとは宅録主義っていうか音楽を作りたくてやっている感じはあったけど、いまはちゃんとした音源を作るために良いライヴをいっぱいして、お金を稼いで休む時間を少し増やしたいかな」
――では最後に、今後の10年について思い浮かぶ範囲で、どんなヴィジョンかを教えてください。
川辺「武道館ですね」
夏目「ちょっと~(笑)」
川辺「どうだろう……。状況を良くしたい気持ちを持って行動し続けているけど、僕はマンネリを悪いことだと思ってないので。サザエさん状態でも構わないというか、延々同じことをやっていてもOKみたいなところがある。だから、やらなきゃいけないことのルーティンをこなしつつ、自分たちが楽しめる刺激的な音源を作り続けられたらいいかな」
――夏目くんは?
夏目「少しずつお客さんを増やしたいし、もっと社会に受け入れられたいですね。それに、もっと自分の国でがんばんないとダメだなとも思う。自分たちの暮らしから出てくるものと向き合いながら、まずは日本でがんばって、さらに海外でも認知されるようになりたい。これは人気云々とは別の話で、そういう存在に近づくことで、自分がやりたい表現をできている手応えが得られそうな気がする。ちゃんとオリジナリティーがないと受け入れられないだろうしね」
INFORMATION
■シャムキャッツ
10周年記念ライブ at STUDIO COAST
2019年12月13日(金)東京・新木場STUDIO COAST
詳細未定
ライヴの映像作品化に向けたクラウドファンディングを実施中(7月10日まで)!
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■ミツメ
tour Ghosts 2019 東京公演
2019年7月10日(水)東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演:18:30/19:30
前売り:3.500円(ドリンク代別)
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