COLUMN

ブラック・ミディ『Schlagenheim』に聴く、恐れ知らずのロック・サウンド

音楽的分析とロック史的視点から迫る

ブラック・ミディ『Schlagenheim』に聴く、恐れ知らずのロック・サウンド

ロンドンから現れた若き4人組、ブラック・ミディ。大胆不敵なそのサウンドは、通常のロック・カルテット編成でありながらも、独特の緊張感に満ちている。名門ラフ・トレードとの契約を経て届けられたデビュー・アルバム『Schlagenheim』は、すでに今年のベスト・アルバムとの呼び声も高い。

そんな彼らを、Mikikiは3つの視点から読み解く。前回お届けしたのは、BOREDOMSなどを影響元に挙げるブラック・ミディと日本のカルチャーとの関係性についてのコラム。それに続く今回は、imdkmが『Schlagenheim』のサウンドを分析し、小野島大がロック/ポップ・ミュージックの歴史から彼らの存在を考えた。9月の来日公演への期待も高まっているブラック・ミディに、2人の書き手が迫る。 *Mikiki編集部

BLACK MIDI Schlagenheim Rough Trade/BEAT(2019)

 

『Schlagenheim』に聴く、ブラック・ミディという異形のファンク
by imdkm

ブラック・ミディの音楽を言葉で形容するのは難しい。それは言葉がみつからないからではなく、あまりにも言葉があふれてきてしまうからだ。あのジャンル、あの時代、あのバンド……とさまざまな連想が浮かんでは、微妙なズレに彼らの〈新しさ〉を確認することになる。

よく彼らの音楽はマス・ロックと言われるが、そうは思えない。マス・ロックといえば、タッピング奏法による複雑でメロディックなリフとか、変拍子やめまぐるしいリズム・チェンジを含む構成が思い浮かぶ。たしかに、たとえば5拍子と6拍子を往還する“953”や、ギターやベースの印象的なリフが反復し絡み合う“Western”はそれに近いかもしれない。

しかし、不穏なコードのストロークが淡々と繰り返される“Speedway”“bmbmbm”、シンプルなリフがグルーヴのニュアンスを変えつつ執拗に反復する“Reggae”“Ducter”は、マス・ロックが抱えがちな過剰さとは一線を画している。リズム・チェンジもここぞというポイントで一気に風景を変えてしまうような大胆さで挿入されるのが印象的だ。

『Schlagenheim』収録曲“Ducter”

最初に彼らを知ったときまっさきに連想したのは、ジェイムズ・チャンス&ザ・コントーションズなどの80年代ノーウェイヴのバンドだ。ロックンロールやジャズ、ファンクをパンクのアティチュードで解体し、再構築するかのような楽曲のつくりがまさしくノーウェイヴ的だと思えたからだ。

思い切っていえば、ブラック・ミディは異形のファンクだ。そのことは本作でいえば“Ducter”がもっとも顕著だろうか。付点8分音符を中心にしたギター&ベースのリフに対して、変則的なパターンを鳴らしつつしばしば三連符を挟み込むドラム。ジェイムズ・ブラウン流のファンクをドライに換骨奪胎したかのような演奏が、奇妙にもダンサブル。これもまた、コントーションズがJBのナンバーを彼らなりに再解釈してカヴァーした演奏を思い起こさせる。

ジェイムズ・チャンス&ザ・コントーションズの79年のライヴ映像。演奏しているのはジェイムズ・ブラウンの“I Can't Stand Myself”

その系譜から見ると、リズムに対する鋭敏な感覚や演奏の図抜けたタイトさこそ、彼らの最大の特色であるように思える。また、ドラマティックな展開を巧みに取り入れることで、ノイジーでありながら一曲一曲がきわめてキャッチーに響いているのも強みだろう。長時間のジャム・セッションを経て練られたフィジカルな快楽と、ドラマティックなカタルシスの両立。ノーウェイヴ流ファンクの再生産からは一歩はみ出たポピュラリティーを獲得しているのは、この点によると見ている。

 

豊富な知識に裏打ちされたギター・バンドの、何ものをも恐れぬ姿勢
by 小野島大

ブラック・ミディというバンド名は同名の、MIDIファイルを用いた電子音楽のジャンルから取ったものだ。おびただしい音数=音符によって楽譜が黒く見えてしまうから〈黒楽譜〉などと言われる。ニコニコ動画やYouTubeを舞台に普及したこの音楽ジャンルの多くはピアノ・ロールで表現されることが多く、バンドのブラック・ミディとは似ても似つかぬ音ではあるが、凄まじい量の情報量がそこに投下され、ジャンルの壁を食い破って自己増殖して、次第に別のなにか怪物的なものに変貌していくような、そんな強迫じみたパフォーマンス・アートという点で、両者には共通点がある。

〈Black MIDI〉の一例。東方Projectの人気曲“U.N.オーエンは彼女なのか?”を〈音符数88,000〉で演奏している

ブラック・ミディのメンバーは全員19~20歳という話だが、そこに埋蔵される音楽的知識、語彙の豊富さには驚かされる。彼らについて語られた言葉から、引き合いに出されたジャンル/アーティスト名を片っ端から挙げてみると、ポスト・パンク、クラウト・ロック、マス・ロック、グランジ、ポスト・ハードコア、ダモ鈴木(カン)、BOREDOMS、スワンズ、デス・グリップス、ディアフーフ、マイルス・デイヴィス、マハヴィシュヌ・オーケストラ、ノイ!、J・ディラ、トーキング・ヘッズ、MELT-BANANA、グラウンド・ゼロ(大友良英)、武満徹、OOIOO、マーク・E・スミス、ジョン・ライドン、ギャング・オブ・フォー、ポップ・グループ、コントーションズ、ディス・ヒート……と、枚挙に暇がない。外部の人間が似ているものとして挙げた名前もあるし、彼ら自身が影響を受けたと言明しているものもあるが、なるほど、確かにそうした音楽の要素が少しずつ入っているように聞こえる。

個人的には、そのヴォーカルはジェロ・ビアフラ(デッド・ケネディーズ)に似ていると思った。ビアフラの、いかにも底意地が悪くシニカルで悪意に満ちた声はデッド・ケネディーズの色を決定づけていたが、ブラック・ミディにも、そうした一筋縄ではいかない屈折が見てとれる。また“bmbmbm”のケオティックでノイジーでブルージーな世界は初期のアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのようで、その呪術的なヴォーカルはブリクサ・バーゲルトを思わせる。

デッド・ケネディーズの80年作『Fresh Fruit For Rotting Vegetables』収録曲“Holiday In Cambodia”

つまり影響源を特定されやすい、脇が甘い、とも言えるが、同時にそこには、自分たちが好きなもの、インスパイアされたものを表明したい、みんなに知ってもらいたいと望んでいる雰囲気が濃厚だ。影響源を明らかにすることで、自分たちを正当に批評し位置づけてほしいという思いもあるかもしれない。誰も把握できないような大量の作品を(フィジカル/デジタル問わず)大量にリリースし続けることで、あるいは作品に何重もの意味を張り巡らすことで、自分が影響を受けたものに関して表明しないことで、その核、本質に容易に肉薄させたがらないミュージシャンもいるなか、その姿勢は際だっている。

それはダモ鈴木という、彼らにとってみればほとんどおじいちゃんみたいな世代のレジェンドと屈託なく共演していることや、その名もズバリな“Talking Heads”なんて曲名をつけたりする、ある意味で直球な姿勢からも察することができる。“Western”なんて曲もあるが、確かにそんな音が入っている。“Reggae”は全然レゲエに聴こえないが、このへんはさして意味はないのだろう。そういえば、お揃いのコスチュームに身を包んでいるアーティスト写真は、ディーヴォやPOLYSICSのようでもある。

2019年のシングル“Talking Heads”

彼らの歳に似合わぬ音楽的知識は、自分たちの親のレコード・コレクションという若い世代ならではの情報源と共に、ブリット・スクール出身という環境によるところも大きいだろう。最近日本でも音楽専門学校出身のミュージシャンが増えているが、若い世代が前世代のなぞりではない、自分たちならではのオリジナリティーを打ちだそうと思えば、単なるヤマカンや行き当たりばったりでは通用せず、過去の膨大な情報を徹底的に研究・分析して、そこに自分たちならではの視点やセンスを加えていく必要があるからだ。彼らの音楽から読み取れるさまざまな記号、情報はさまざまに組み合わされ、違う角度から光を当てられ、別のものに変容していく。彼らにはそれができている。

とはいえ、彼らの音楽が誰も聞いたことのないような圧倒的なオリジナリティーを獲得できているかといえば、まだそこまでは行かない。彼らの楽曲は即興的なジャム・セッションから出来ることが多いようだが、そのぶんロック的な形式やルーティン、手癖のようなものが多少見え隠れするからだ。ただ、そのサウンドや演奏の切っ先の鋭さ、何ものをも恐れぬ気概、エネルギーのようなものは十分感じ取れるし、それが彼らの音楽の強いインパクトに繋がっている。今どき彼らのようなオーソドックスなギター・バンド編成で、こんなインパクトのあるバンドは珍しいのだ。彼らの登場が〈落ち目〉のロック復権に繋がるかわからないが、来日公演はとても楽しみだ。

 


LIVE INFORMATION
black midi live in japan

2019年9月5日(木)東京・代官山 UNIT
開場/開演:18:00/19:00
前売り:5,500円(税込/ドリンク代別)
※オールスタンディング
※未就学児童入場不可
お問い合わせ(Beatink):03-5768-1277 https://www.beatink.com/
イープラス:https://eplus.jp/blackmidi
ローソンチケット(L:75591):https://l-tike.com/blackmidi
チケットぴあ(P:154-969):http://t.pia.jp
Beatink:https://beatink.zaiko.io/_buy/1jTd:Rx:5d80b
iFLYER:https://iflyer.tv/

2019年9月6日(金)大阪・心斎橋 CONPASS
開場/開演:19:00/19:30
前売り:5,500円(税込/ドリンク代別)
※オールスタンディング
※未就学児童入場不可
お問い合わせ(CONPASS):06-6243-1666 http://www.conpass.jp
イープラス:https://eplus.jp/blackmidi
ローソンチケット:https://l-tike.com/blackmidi
チケットぴあ:http://t.pia.jp
Beatink:https://beatink.zaiko.io/_buy/1jUy:403:8f9c8

2019年9月7日(土)京都 METRO
開場/開演:17:30/18:00
前売り:5,500円(税込/ドリンク代別)
※オールスタンディング
※未就学児童入場不可
お問い合わせ(METRO):075-752-2787 info@metro.ne.jp
イープラス :https://eplus.jp/sf/detail/2979250001-P0030001
ローソン(L:52912):https://l-tike.com/blackmidi
ぴあ(P:154-620):http://t.pia.jp

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