サンプルのエディットによる特異なポップスを作っているhikaru yamada and the librariansや、マリ(mukuchi)とのfeather shuttles foreverのほか、んミィバンドや数多くの客演で活躍する山田光(アルト・サックス)。そして、実験音楽や音響派、フリー・ジャズからの影響下で独自のロック/ポップスを探求する毛玉のリーダー、黒澤勇人(ギター)。2人が2016年に吹き込んだ12の即興演奏集が、この『we oscillate!』だ。

1曲ごとにそれぞれが持つ特殊な技法や発想が詰め込まれており、曲名には演奏法がわざわざ明記してある。例えば2曲目の“#4 (tube attachment, feedback+prepared)”では、山田がサックスのネックにホースを継いで吹き、黒澤がプリペアド・ギターを弾いている。3曲目の“#19 (steel board attachment+E-bow)”では、山田がサックスのベルに〈さわり〉のような鉄板を当ててビビる音を出し、黒澤がEボウを用いている、という具合だ(ちなみに、大友良英から影響を受けて即興を始めた黒澤の演奏スタイルは、アコースティック・ギターを横に寝かせて弾く独特なもの)。

“#10 (circular breathing+contact mic)”は、山田が得意とする循環呼吸(実際は〈息継ぎを誤魔化すのを連続でやっているだけ〉らしいが)による途切れないブロウが続くなかで、黒澤のギターからは〈ガタガタ〉〈ブブブ〉という奇妙な音が発せられている。これはなんなんだろう、と思っていたところ、7月21日に水道橋Ftarriで2人が初めておこなったライヴで真相を見た。実は黒澤は、(アダルト・グッズの)ローターをボディーや弦に当てていたのだ。そんな使い方もあるのか、と驚いてしまった。

そのようにして、多種多様な特殊奏法がさまざまに――どこか〈これとこれを掛け合わせたらどんな音が鳴るのか〉という興味を冷静に試していく実験のように――組み合わされることで、万華鏡的な音像/音響が生まれている。〈即興〉と一口に言ってもこれほど色彩豊かなものなのか、と驚かされる意外性や力強さ、みずみずしさがそこかしこから感じられる、実にユニークな作品だと思う。

先日のライヴで印象的だったのは、音そのものに向き合う、徹底してドライでクールな2人の姿だった。フリー・ジャズの文脈から派生した即興演奏となると、どうしてもそこにはジャズのインプロヴィゼーションめいたフレーズが差し込まれてしまう。だが山田と黒澤は、一切フレーズらしきものを吹かないし、弾かない。音楽的な着地点や聴いていて心地いい、秩序だった音の連なりにはまったく興味もない、というような冷めた態度で、純粋に音と音との響き合いのみを探究しているかのようだった(それだけに、最後に〈サービス〉として“#5 (free jazz!)”を再現したフリーキーな1分間の演奏は強烈だった)。

なお『we oscillate!』には、気鋭の批評家・細田成嗣による1万字超のライナーも封入されている。そこでは阿部薫と高柳昌行による、日本フリー・ジャズ史におけるクラシック『解体的交感』(70年)を起点に、サックスとギターによる即興演奏の系譜が洗い直されている。さらに、それを踏まえて『we oscillate!』を批評した労作で、この特異な作品を聴きながら思惟を巡らすにはうってつけのテキストだろう。

本作は宮城・仙台のvolume1(ver.)やFtarri、リリース元のp.minor、Amazonなどで販売中。また、p.minorのBandcampではCDとデジタル・アルバムを購入できる。他の取扱店などは、こちらの記事を参照してほしい。

※このレビューは2019年6月20日発行の「intoxicate vol.140」に掲載された記事の拡大版です