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 彼がソロ歌手転向後も歌い続けてきた1曲に“自由に愛して歩いて”がある、作詞:安井かずみ/作曲:井上堯之によるPYG時代の名曲だ。没後初の誕生日となる7月26日に放たれる新譜『Kenichi Hagiwara Final Live~Forever Shoken Train~@Motion Blue yokohama』の2曲目にも収録されている。生前最後の雷舞(ライヴ)を刻んだ同盤では、初の本人作詞・作曲による22年ぶりの話題シングルとして昨年発売された3曲も聴ける。芸能生活50周年の節目に自己史を凝縮し、光陰矢の如し/ガキのころは弱虫だった/いまは年老いた男さ、と編んだ“Time Flies”。バランスを失った魚のように/泳ぎ疲れてここまで来たよ、と希望の既視感を描く“Dejavu”。そして、孤独ぶるのはもうやめよう/作り笑いの人生に別れを告げようと、決意を込めた“Good Action”。3曲ともショーケンの原点であるブルースの匂いが漂うロックナンバーだが、その結晶群を本人は「自分自身のことであり、妻(理加さん)との二人のことである」と語っていた(新譜はこの3曲+1の映像付きだ!)。それらを受けて5曲目に披露されるのが“Shoken Train”、お経の代わりにロックを歌うぜ/この列車には終点がないよ、と疾走するShoken Records発のヘッドマーク的な作品だ。おなじみの“愚か者よ”や“ぐでんぐでん”“フラフラ(春よ来い)”等を含むフル・バージョンの70分実況盤。最後は、今日も自分のやり方で、と転がり続ける精神を掲げる“ローリング・オン・ザ・ロード”が締める。享年68の訃報に触れて初めて彼の存在に惹かれたという世代にも奨めたい貫禄と不屈ものの実録盤。Shoken Bandも現役バリバリの鉄壁軍だ。

 本人の実感では「俳優が7割で、歌手は3割ほど」の半生らしいが、「私には欠くことのできない両輪」だとも。語り/演じるような独自の歌唱性が彼の魅力だが、じぶん的には金子正次監督の遺作映画「竜二」のラストに流れる“ララバイ”や“泣くだけ泣いたら”等の速水清司作品、“ララバイ”のアンサーソング的な作品(作詞:萩原/作曲:速水)として『Shining With You』に収められた“プレゼント”を聴くたびに涙腺が緩む。かの『熱狂雷舞』は別格とし、自らの逮捕/拘留体験を赤裸々に作詞した連作を含む異色盤『Thank You My Dear Friends』『同LIVE』を今でも高く評価したい。前掲《Shoken Train》の元歌である《9月25日吉日、友の結婚》、超個人的な体験を男女間の普遍性にまで昇華させた“55日目、の夕方和んで”“54日間、待ちぼうけ”“58年9月、お世話になりました”。そして珠玉の“九月朝、母を思い”が秀逸だ。何かあったんですか/いいえ何も…母子の対話で始まる冒頭詞を、1985年のライヴで萩原は「大震災と大津波と原発です」と差し替えた。ライヴとは「なまもの、初々しいもの、清潔なもの、作られていないものだ」と彼は言う。危篤状態の母は「敬三(=本名)、おまえはどこにいるんだ?」と最期に訊いたという。その秘話を読んで「約束」の第一声と、マカロニ刑事の最期の「母ちゃん、暑いなぁ……」の呟きを思い出した。ショーケン自身は「私は清潔なものが好きだった。本当に清いものを探していた」と綴っている。なお、上記の連作群はのちに“Someday’s Night(54日間、待ちぼうけ)”のように改題され、件の秀作も“鈴虫 (9月朝、母を想い)”と変更された。であるならば、今年は鈴虫が鳴く季節を前に、ショーケンからの最期のプレゼント的な新譜を聴いて故人を偲びたい。

 


萩原健一(はぎわら・けんいち)【1950-2019】
1967年にザ・テンプターズのヴォーカリストとしてデビュー。解散後、井上堯之、大野克夫、沢田研二、岸部一徳、大口広司らでPYG(ピッグ)を結成。1972年の松竹映画「約束」で高い評価を得、俳優へ本格的に転身しテレビドラマ「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」に出演。1975年には初のソロ・アルバム『惚れた』をリリース。以降、精力的にライヴなどソロ活動を続ける一方、映画「いつかギラギラする日」や「TAJOMARU」など多数出演。デビュー50週年を迎えた2017年にはスタジオライヴアルバム『LAST DANCE』をリリース。2018年、初の本人作詞・作曲となるシングル『Time Flies』を発表。大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺」に高橋是清役で出演。

 


寄稿者プロフィール
末次安里(すえつぐ・あんり)

1954年4月、東京生まれの著述家/編集者。近年はUSTREAMやFRESH LIVE(=いずれも無料配信事業から撤退)でネット番組を企画・制作し、近々に撮影・編集・出演までをソロで担うカルチャー系新番組「ラジオのように」(仮題)を、懲りずに某メディアにて画策準備中。