エレクトロニカ・オリジナル世代がゆえのカウンター精神

サンフランシスコを拠点に活動するスコット・ハンセンのソロ・プロジェクト=ティコが、ボーズ・オブ・カナダやウルリッヒ・シュナウスと比較されるドリーミーなエレクトロニカでキャリアをスタートさせたあと、『Dive』(2011年)、『Awake』(2014年)、『Epoch』(2016年)という3部作で徐々にバンド化し、2017年にグラミー賞の〈最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞〉へとノミネートされるにいたったのは、非常に感慨深いものがあった。

アナログシンセのレイヤーを特徴とする初期のアトモスフェリックな作風は、時代的にチルウェイヴという括りに含まれたりもしたが、徐々にその〈もや〉が取り払われると、輪郭のはっきりしたギターの単音フレーズが楽曲の顔となり、アグレッシヴなビートが高揚感を生み出す、オーガニックな作風を確立。

その変化はフォー・テットとフリッジというふたつのアウトプットでエレクトロニカとポスト・ロックを横断しながら、徐々に肉体的な音楽性へと進化していった00年代のキエラン・ヘブデンのようであり、プログラミングと生演奏を組み合わせた〈ポスト・ポスト・ロック〉としてのバトルスにも通じるものがあった。

2014年作『Awake』収録曲“See”

では、なぜティコがバンド化して行ったのかといえば、そこには形骸化したEDMに対するアンチの精神が少なからずあったのでは。そして、それは2000年代初頭のエレクトロニカが形骸化したデジロックに対するある種の反動だったことを思い起こさせる。そもそもスコットは2002年に自主で初作を発表し、現在は42歳という、まさにエレクトロニカのオリジナル世代。カウンター精神は、当時から持ち合わせていたに違いない。

2002年のEP『The Science of Patterns』収録曲“Human Condition”