COLUMN

ベニー・シングスやG.RINAらが語る渡辺信一郎監督の最新作「キャロル&チューズデイ」。豪華作家陣が揃った挿入歌たちを一挙紹介!!

個性的なシンガーたちの歌を援護した作家陣が語る「キャロル&チューズデイ」

BENNY SINGS
自身のもっとも得意とする領域から広がる主人公二人の歌世界

 C&Tについて「とても大好きな作品だよ! 〈友情〉と〈孤独〉をテーマにしていて、アクションで引っ張っていないところが特に気に入ってるんだ」と太鼓判を押すのは、オランダから洒脱でウェルメイドなポップソングを世に送り出し続けているシンガー・ソングライター、ベニー・シングスだ。今作の監督を務める渡辺信一郎に関しても「たくさんは観ていなかったけど、彼の作品は好きだったよ。テーマ設定が秀逸で、もちろんアニメのスタイルも好みだね」とワールドワイドに流通する渡辺作品を評価する。

 そんなベニーは今回、ヒロインのキャロルとチューズデイが歌うナンバーをプロデュースしている。〈ミュージシャン〉という夢に向かって手を取り合って進んでいく2人の楽曲の制作には、作品のバックグラウンドについての詳細な説明をもらったうえで臨んだという。

 「楽曲はそれぞれ特定の主題があった。ひとつは、〈希望を持てない世界のなかで友情を見つける〉こと、もうひとつは、〈自分が属していると感じられる場所を切望する〉こと。それぞれ別の楽曲で表現をしているよ。ヴォーカルに関する情報も事前にしっかりもらっていたから、どんなものを書くのか良い意味で明瞭にイメージすることができたんだ。僕が好きな主題であり、僕がもっとも得意とする領域だったよ」。

 ベニーの手掛けた“Someday I'll Find My Way Home”は、彼の代表的なナンバー“Make A Rainbow”を彷彿とさせる雰囲気のノーブルなワルツ。“The Lone­liest Girl”はシンプルに主役たちの歌声だけで勝負するような力強いバラードだ。キャロルとチューズデイの歌唱を担当するネイ・ブリックスとセレイナ・アン、両者の声と向き合いながら楽曲をブラッシュアップする過程を経て、これらの楽曲は完成した。

 「シンガーが得意とする音域には気をつけたよ。あまり高すぎず低すぎないメロディーがもっとも魅力的な声を出せることが次第にわかったから、いちばん美しい声を出してもらえるよう楽曲を洗練していったんだ」。

 ベニーがこれまでにプロデュースしたウーター・ヘメルやジョヴァンカなどの作品ともまた違ったスタイルのこれらの楽曲は、ファンにとっても新鮮に受け止められるに違いない。 *澤田大輔

ベニー・シングスの2018年作『City Melody』(ビクター)

 

YUC'e
〈ラップ〉と〈オペラ〉のユーモラスな邂逅

 キャロルとチューズデイの2人と、オーディション番組「マーズ・ブライテスト」で音楽対決を果たすOGブルドッグは、元ギャングにして元ドラッグ・ディーラーというアウトローな経歴を持ついかつい男。このキャラのナンバー“Bulldog Anthem”は、トラックメイカー/シンガー・ソングライターとして活躍し、アニメ音楽のリミックスなども手掛けるYUC'eが作/編曲を担当している。同曲は、サウス・ヒップホップ直系のド派手でブーミーなビートの上で、ヴォーカルを担うテノール歌手の工藤和真がオペラ流儀の歌~ラップを披露するという、なんともハイブリッドでアクロバティックな怪作だ。

 「この曲は〈ラップ〉と〈オペラ〉という異色の組み合わせで、また、普段私が作るものとはまったく違った方向性のサウンドでしたので、とても楽しく制作させていただきました! ギャングを連想させるような悪いサウンドのなかにクワイアやストリングスを散りばめて……劇中でもみんなが驚いたように、OGブルドッグの第一声からびっくりするような楽曲になったと思います」。

 今回の楽曲提供について「渡辺信一郎監督の作品を幼少期より拝見しており、この特別な〈ボンズ20周年×フライングドッグ10周年記念作品〉の劇中歌に参加できたことが嬉しくて仕方ありません! ぜひお楽しみいただけると幸いです!」と喜びを語るYUC'e。彼女がこれまでにないアプローチで挑んだダーティーでどこかユーモラスなサウンドをぜひご堪能あれ。 *澤田大輔

YUC'eの2017年作『Future Cαke』(Mirai­cha)

 

G.RINA
ポジティヴに覚醒したナイーヴな少年。その内面に在る憂いと強さを

 キャロルとチューズデイが参加するオーディション番組「マーズ・ブライテスト」の本戦に駒を進めた8組のうちの一人、ピョートルの楽曲を提供したG.RINA。これまで渡辺監督作品にきちんと触れたことはなく、その印象について「友人知人のアーティストが楽曲提供していたりで、クラブ音楽に特別な想いのある方が制作されているのかなと思っていました」と語る彼女だが、初参加となるC&Tに関しては「ディテールに至るまで音楽愛を感じます」と絶賛する。

 「音楽がもたらしてくれるあらゆる感情を何層にも描いて、どんな宇宙ができるんだろう?と、これからが楽しみです。世界中のアーティストがそれぞれのキャラクターをもとに作ったさまざまな音楽が聴けるのも、音楽大喜利のようで……愛しかないですね」。

 そんな彼女のお題となったピョートルは、ジェンダーレス男子なキャラクターで人気を集めるSNS界の有名人。いつでも動画配信を行う自由な性格をしているが、子供の頃はその言動が原因で周囲から浮いてしまうことを恐れ、〈自分らしさ〉を封じ込めていた過去を持つ。

 「中性的でナイーヴな少年が、たくさん悩んだその先で、物凄くポジティヴに覚醒した。音楽を通して、同じように悩んでいる誰かを勇気づけたいという使命を感じているんです。見た目からはわからない内面の憂いや強さが、隠れた彼の魅力でもあるのかなと」。

 そのチャームを音楽で引き出したのが、ピョートルが本選で歌う2曲。「ダンサブルな楽曲と、言葉とメロディーが強い〈静〉の要素のあるR&B曲を作ろうと思いました」という言葉通り、“Dance Tonight”はモダンなディスコ・グルーヴがタキシードあたりを想起させるナンバー。一方の“Love Yourself”もキャッチーさはキープしつつ、浮遊感のある音像と繊細な歌詞で彼の内なる想いを表現している。甘さと精悍さを備えたその歌声を担当するのは、JR・プライスなるシンガーだ。

 「今回は楽曲制作だけでなく、ピョートルのイメージに沿うソウルフルなヨーロッパ系の男性シンガーを探すところから作業が始まりました。いろいろなところをあたって、最終的にライアン・ヘムズワース氏の紹介で、英国に住むシンガーのジョス(JR・プライス)に辿り着いたんです。時差がある遠隔のやり取り――面と向かっていないので、喋るでもなく英文で、細かなニュアンスをやり取りするのがとても大変で。粘った甲斐があり、ユニークなヴォーカルを残してくれましたし、貴重な経験になりました」。 *流星さとる

7月10日にリリースされる、G.RINA所属のユニット、FNCYの初アルバム『FNCY』(EVIL LINE)

 

吉田一郎不可触世界
水戸の黄門様が出てきそうなデス・メタル

 高校時代に「カウボーイビバップ」と出会い、「菅野よう子さんの音楽も山寺宏一さんと林原めぐみさんの声も、そこにあるすべてがそりゃあもう滅茶苦茶グッときました」と語るのは、今回、ファイヤー兄弟の楽曲“Never Die”を作/編曲した吉田一郎不可触世界だ。

 「その後、友人宅で『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』のDVDを見せてもらい、アナベル・ガトーの声が大塚明夫さんだったり、演出コンテがナベシン(渡辺信一郎)さんだったりで、系譜というか、歴史を勝手に想像して『魁!!男塾』みたいな見た目の漢たちが硬派にアニメを作っておられるんだろうと本気で思っていました」。

 それだけに、C&Tについても「瑞々しい絵と色と物語と同時に、大塚明夫さん、堀内賢雄さん、大塚芳忠さんの昔から聞き慣れつつも、どこまでも鋭利で重厚な声が琴線にグッときます」と評価。「フェス出演者の楽屋裏での人間模様が、自分が普段フェスでよく見ている自己顕示欲の飛び交う楽屋風景に似ていて、妙にリアルでソワソワしました。あとジギー(劇中に登場する目覚まし時計、かつペット)が欲しいです」という音楽家ならではの感想も。

 そんな彼が楽曲提供したファイヤー兄弟とは、オーディション番組「マーズ・ブライテスト」の歴代最年長挑戦者となる、99歳の双子によるユニット。普段はまともに会話できないほどのヨボヨボぶりだが、メタル・ミュージックが流れ出すと途端にシャキッとなって激しいパフォーマンスを行うという、アニメらしいコミカルなキャラクターだ。

 「ファイヤー兄弟の朴訥というか、〈これしかできない感〉というか、進化を拒否するかのような姿勢は非常に魅力的でした。何十年も同じことを続けるって大変ですもんね」。

 そのメタル一筋な彼らがオーディションで歌った“Never Die”は、重々しいギターとドラムがエクストリームな空気を醸すなか、兄弟それぞれによる金属的なハイトーン・ヴォイスとデス・ヴォイスがぶつかり合う衝撃的な一曲。歌唱はCMソングなどで活躍するsingmanが担当している。

 「ファイヤー兄弟はオーディションで一目置かれる老人兄弟デス・メタル・デュオというオーダーでしたので、勝手に水戸の黄門様が出てきそうなメタル・リフという裏設定のもとで作りました。キャラクターの絵と設定資料を見ると二人ともV型のギターを持っていたので、〈これは〉と思って僕もV型のギターでレコーディングしたんですが、弾きづらくて大変でした」。 *流星さとる

吉田一郎不可触世界の2015年作『あぱんだ』(MAT­SURI STUDIO)

 

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