〈サマソニ〉へのヘッドライナー出演も控える、世界代表のヒットメイカー・コンビ! すでに大ヒット済みのセカンド・アルバムがスペシャル仕様の日本盤で登場したぞ!!

不満が溜まっていたんだ

 エミリー・ウォーレンの歌う“Paris”やコールドプレイとの“Something Just Like This”といったヒットの高めた期待に違わず、全米チャートNo.1に輝いた2017年のファースト・アルバム『Memories...Do Not Open』によってポップ・シーンの頂点に立った、アレックス・ポールとドリュー・タガートのコンビ、チェインスモーカーズ。が、その華々しい成功に続くステップとして2018年1月からスタートした毎月1曲ペースの配信リリースは、セカンド・アルバム『Sick Boy』の中身をほぼマンスリーで公開していくという新しい試みであると同時に、負の感情に振れた彼らの悩みと苦しみをも率直に映し出すものだった。

 なかでもキックオフとなった“Sick Boy”は、〈周りにどう見られるか〉を主眼に振る舞うSNS民たちに向けて〈ナルシシズムを進じるな〉と歌いかけながら、〈自分の作り出した監獄の中で生きてる〉〈僕の人生にはいくつの“いいね”の価値がある?〉と自嘲するリリックが印象的で、そもそも彼らがSNS時代を謳歌する“#Selfie”(2014年)で脚光を浴びたことを考え合わせれば何とも皮肉にも思えたものだ。続く2月配信の“You Owe Me”も、3月配信の“Everybody Hates Me”もいままでになくパーソナルな感情を色濃く投影したダークな雰囲気のトラックに仕上がっていた。この頃の作風についてドリュー・タガートはこのように振り返っている。

 「みんなが期待していたチェインスモーカーズとは違っていたかもしれない。でも、僕らにとって“Everybody Hates Me”や“Sick Boy”といった曲は、前進するために必要だった。それくらい八方ふさがりで不満が溜まっていたんだ」。

 もっとも、彼らのサウンド・イメージを作り上げてきた楽曲といえば、全米チャートを12週に渡って制したホールジーとの“Closer”にしろ、ロゼスとの“Roses”やデイヤとの“Don't Let Me Down”にしろ、いずれもアルバム・リリース前のトラックであったわけで、ノスタルジックなコンセプト作だった『Memories...Do Not Open』への不評や、単純にブレイク後の反動という意味でもさまざまな声が彼らのメンタルを蝕んでいたことは想像に難くない。4月配信の“Somebody”はドリュー・ラヴ(ゼイのヴォーカリスト)を迎えたドレイク風のアーバン・トラックだったが、これもまた暗い影に覆われた内容に仕上がっていた。実際にドリュー・タガートは後にこうも明かしている。

 「大成功してキャリアの頂点に立っているみたいに思われていたかもしれないけど、その裏では鬱病とずっと闘っていた。寒い冬に制作したというのも関係していたのかもしれないけれど、僕らの音楽は、いつも僕らの置かれている状況や心情を反映しているから当然なんだよね。いまでは精神的にも落ち着いたけど、僕が鬱から抜け出して最初に作った曲は“This Feeling”なんだ」。

 

これまでのキャリアをまとめた一枚

 その“This Feeling”は9月に配信された甘酸っぱいラヴソングで、ヴォーカルはカントリー・シンガーのケルシー・バレリーニが担当。アルバム『Sick Boy』のオープニングを飾っていることからも彼らにとって意味のある一曲となったのだろう。出来上がったアルバムの曲順を改めて眺めてみれば、同名インディー・バンドに影響されたという11月配信の“Beach House”が2曲目、スウェーデンの新進シンガー・ソングライターであるウィノナ・オークを招いた12月配信のメランコリックなトロピカル・ハウス“Hope”が3曲目……と、苦悩を抜け出した制作サイクル後半のトラックがアルバム序盤の印象を儚くも仄明るく印象づけていることもよくわかる。そうした揺れる思いの変化を反映した『Sick Boy』には、他にも馴染みのエミリー・ウォーレンが歌うファンキーなディスコ・ハウス“Side Effects”や、アザーと組んだダブステップの“Siren”、ナイトメアと共作した“Save Yourself”などの楽曲を収録。その過程で敢行された昨年6月の来日公演でも見られたように、近年のステージでは準メンバーのマット・マクガイアがドラマーとして演奏に参加し、ヴォーカルもとるドリュー・タガートがギターを、アレックス・ポールがキーボードを演奏するなど、ライヴ・セットでも新たな効力を発揮するナンバーが揃っていて、今夏の〈サマーソニック〉でもどのようなステージングが繰り広げられるのかが楽しみなところだ。

THE CHAINSMOKERS Sick Boy...Special Edition Disruptor/Columbia/ソニー(2019)

 そんな来日を控えたタイミングで日本独自選曲でリリースされたのが、件のセカンド・アルバムに13曲ものボーナス・トラックを加えた全23曲入りの『Sick Boy ...Special Edition』だ。ボーナス・トラックはすべて過去曲も含めたリミックスとなり、アフロジャック&ディストによるバキバキな“This Feeling(Afrojack & Disto Remix)”をはじめ、よりハウシーになったフェデ・ル・グランド製の“Side Effects(Fedde Le Grand Remix)”、さらにはリッジ&ピロスやザックス、ルード、マグナス、クレブトらが手腕を発揮し、他にもヴィナイやアレッソ、シグマ、W&W、リハブといった大物たちによる過去曲のリミックスが取り揃えられ、よりフロア・フレンドリーなトラックによって楽曲の新たな持ち味を引き出している。

 なお、そのように1年を費やした『Sick Boy』のプロジェクトにて苦悩と再生のプロセスをパッケージした後、今年に入ってからのチェインスモーカーズは、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーを迎えた2月の“Who Do You Love”を皮切りに、“Kills You Slowly”やタイ・ダラー・サイン&ビューロウとの“Do You Mean”、ビービー・レクサをフィーチャーした“Call You Mine”……とコンスタントに新曲を配信している。それらが年内リリースだという次作『World War Joy』にまとめられる頃には、各々の受け手にとってのチェインスモーカーズ像というものも更新されているに違いない。もちろん、それに先駆けた8月の〈サマソニ〉のステージでは、そうやって力強く次章へと向かう彼らの勇姿を確認できることだろう。

 「『Sick Boy』はこれまでの僕たちのキャリアをまとめたアルバムだと感じている。そして、次のアルバムで僕らはきっと次の段階に進める気がするよ」。

チェインスモーカーズの作品を紹介。

 

関連盤を紹介。