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ラップとブルースを日本人目線で勝手に繋ぐ

――具体的な曲で言うと、どの曲から作っていったのでしょうか?

佐々木「“Game Over”と“Snowy Snowy Day, YA!”は最初に送った10曲のデモにあって、いちばん古いのが“Snowy Snowy Day, YA!”。この曲は自分のなかにテーマがあったんです。シカゴに惹かれたポイントとして、いまの音楽がおもしろいのもあるんですけど、昔のブルースの街でもあり、すべての中間にはウィルコがいるなと思って。ウィルコはソウルやブルースの人たちとも繋がりがあって、ポップス・ステイプルズが亡くなったあとに、最後の録音をジェフ・トゥイーディーが預かって、自分でベースとドラムを入れてリリースしたアルバムがあるんですよ。それをメンフィスで聴いてあらためて感動して、ちょうど同じころに(ポップスの娘である)メイヴィス・ステイプルズがゴリラズのアルバムに参加もしてたから、いまも生きてる音楽なんだなと思って」

※1940年代より活動してきたゴスペル/R&Bシンガー、2000年没
ジェフ・トゥイーディーによって完成されたポップス・ステイプルスの2015年作『Don’t Lose This』収録曲“Somebody Was Watching”
 

――そうやって、ウィルコの存在があらためてクローズアップされてきたと。

佐々木「で、ラッパーのヴィック・メンサがティーンエイジャーのときにやってたキッズ・ジーズ・デイズってバンドのプロデュースもジェフがやってて、つまりは、いまのラッパーの文化とブルースの文化を繋いでるんだなって。ウィルコは基本的にはロックのバンドで、いまインディー・ロック自体はきついけど、Netflixで『Beats』(2019年)っていうラッパーのドラマを観たら、最初にちょこっとウィルコのジャケが出てきて、〈やっぱり尊敬されてるじゃん〉と思った。三船くんのスタジオでも、やっぱりウィルコのジャケが飾ってあって(笑)」

――素晴らしいリンクですね(笑)。

佐々木「ただ、実際ラップとブルースをどっちも聴いてるアメリカのティーンエイジャーはいないんですよ。だったら、俺が日本人目線でそこを勝手に接続させたらおもしろいんじゃないかなって。なので、“Snowy Snowy Day, YA!”はいかにも00年代前半のインディー・ロックっぽい曲で、でもシンベだしドラムは打ち込みだし、普通のロック・バンドはこうはやらない。そのうえで、三連のいまっぽいラップのフロウが入ってたり、コーラスの重ね方はゴスペルっぽかったり、自分なりのブレンドができたかなって」

三船「この曲は佐々木くんのギターがいちばん嬉しそうだし、彼の得意技が出せる曲があると楽しいなと思っていました。途中ちょっとアレンジで悩んだんですけど、〈Snowy〉が〈タンタン〉ってアニメーションに出てくる犬の名前だって聞いて、すべてが繋がったんです。タンタンと一緒に冒険して、疾走してる曲っていうヴィジュアル・イメージがパッと開いて、オルガンをオーヴァーダビングしてエコーの処理をして。おもしろいのが、佐々木くんのデモって全部ヴィジュアル・イメージがついてるんですよ」

佐々木「すべてのデモにジャケットを作ってるんです(笑)」

三船「なので、再生するとちゃんとジャケットが表示されて、この曲はそれが〈タンタン〉だったんです。〈それだわ!〉と思って、そこからは早かったですね」

――基本的にトラックはGarageBandで作られていて、ギターをはじめ、ところどころで生楽器も使うというバランス自体は『大脱走E.P.』のときと変わりないですか?

佐々木「そうですね。〈もしドレイクだったら、ガレバンひとつで超すごい曲作るだろう〉というのがテーマなので。三船くんは真逆で、めちゃめちゃ機材を持ってるから、そういう人にも憧れるんですけど、俺はいまはGarageBandでやれることをやろうと思ってます。スティーヴ・レイシー、アンダーソン・パーク、みんなガレバンでやってるらしいので俺もそのスタイルで、というのは変わってないですね」

スティーヴ・レイシーの2019年作『Apollo XXI』収録曲“N Side”

 

海外からフッと東京に戻ってきたときの感覚を映した音

――最初のデモにあったもう一曲、“Game Over”はどのように作ったのでしょうか?

佐々木「ちょうどこれを作った頃にJ・ディラの本『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』が出て、ディラのサンプリングの仕方を、アナログ・レコードじゃなくて、ガレバンのサンプル音源でやろうと思ったんです。それをさらにアレンジしてもらって」

三船「佐々木くんが作るトラックはクォリティーが高いから、すべてこっちでコントロールする必要はなくて、彼のヴィジョンがはっきりとあるなか、自分もアレンジを乗せられるんで、やりやすいです。この曲は最初ベースがなかったんですけど、いちばん低いサブベースの音でロウ感を足して、上から下まで幅広い帯域が鳴っているように落とし込むと、佐々木くんが持ってるポジティヴな絶望感がさらに遠くに届くんじゃないかなって」

――ポジティヴな絶望感(笑)。

三船「意外とシリアスじゃないっていうのがポイントで」

佐々木「〈食らってる波動拳/Likeピヨピヨ〉とか言ってるしね(笑)」

三船「立膝でうずくまって歌ったようなテイクがほしくて、あんまりきれい目に歌わないでって、マイク近めで歌ってもらって。ヘッドフォンで聴いたリスナーの人が、佐々木くんの声が近くで鳴ってるように感じてほしかったんです」

――東京編の一曲目になっている“Sofa Party”に関してはどうでしょうか?

佐々木「さっきの2曲はシカゴに行く前からあったデモだったんですけど、シカゴ後のことをやりたいと思ったときに、ピアノの弾き語りから始まる曲があってもいいかなって。あと、CDに関しては日本でのリリースなので、シカゴのおもしろさを紹介したくて、シカゴの街の音を入れようと思った。そこでずっと回してたビデオの音源を抜いて入れることを提案したら、ピアノの音をカセットに落とすことでちょっと荒くして、それを街の音と混ぜるっていうニクい演出をしてくれて。これが出来たことで、アルバムのストーリーに整合性が出たなって」

――シカゴから東京に帰ってきて、革ジャンを脱いで、ソファーに横たわるような。

三船「夕方5時くらいにスーパーのビニール袋を持って、商店街を歩いてるような絵がすげえ浮かぶんですよね(笑)。成田空港に降りたときの帰ってきた感にも近くて、あっという間に馴染んでしまう感じとか、すげえよく出てるなって。でも、複数人で同じ空間を共有してる感じを持ったトラックだとも思ったから、手拍子を入れたり、合ってるか合ってないかわかんないようなラフなコーラスをわざとバラバラッと入れたり。オープニングはシカゴの街の雑踏のなかにいるんだけど、フッと東京に戻ってくる感じにできたらおもしろいかなって」

 

俺たちがいちばん自由な音楽家だと思えた

――そして、ラストを飾るのが“We Alright”で、ロットを彷彿とさせるビッグなコーラスも入っていますね。

佐々木「もともとヴォーカリストだから当たり前なんですけど、三船くんが何気ないチェックで歌った声がめちゃくちゃよくて、ハーモニーを思いついたらすぐ鼻歌で歌ってるから、〈それいいじゃん!〉みたいなことが多くて。〈歌っちゃう〉っていうのは、三船くんならではのプロデュースだなって(笑)」

『RAINBOY PIZZA』収録曲“We Alright”
 

――アルバム全体通じてコーラスは多用されていますが、この曲のハーモニーは特に印象的です。

佐々木「ボン・イヴェールとかフランシス・アンド・ザ・ライツとか、ゴスペル・グループを1人でやるような音楽に対して、2人ともヴォーカリストだから声の倍音もおもしろいだろうし、2人しかいないのにビッグ・コーラスっていう。それはやってみたいことでした」

三船「あえて佐々木くんの声にオートチューンをかけて、ちょっと無機質なパートがあったり、逆に生々しいところがあったり、ハイブリッドを目指しつつ、佐々木くんが作ったトラックが壮大ですでに声を飛び立たせてくれてたので、〈さらに高く〉という」

佐々木「シンセも入れてくれて、俺は音源ソフト使ってるから、〈アナログ・シンセってこんないい音なんだ〉とかもあって、(三船くんの)BEAR BASE STUDIOならではのアレンジになってると思います」

三船「レイヤーをどんどん重ねて、同じフレーズでも、デジタルとアナログを重ねることで質感を足し、丁寧に織り込んだことで、分厚いトラックになりました。佐々木くんが作るシンセの音もいいから、それを生かしつつ、ちょっとエフェクトをかけたり」

佐々木「この曲は自分史的に代表曲ができたんじゃないかと思っていて。これでホントの聖歌隊を呼んだらマネになっちゃうし、1人でやる人はやってるし、そのどれとも違う分厚いコーラスの聴かせ方ができて、そこは大事だったかな。〈俺たちなりのやり方でやる〉という。それこそ〈謎〉というか、〈何このコーラスの作り方?〉って感じだと思うので」

――〈迷ってもいいよ/きっと最後の答えは「やるしかないっしょ」〉や〈新しい季節の風が吹いているよ〉といった歌詞が印象的で、〈これが俺たちなりのやり方だ〉というステートメントが音からも言葉からも伝わってくる。そういう曲がラストに収められているというところに、非常にグッときました。

三船「佐々木くんは常に何かを超えようとしてる人だから、バンドマンよりも、もしかしたらいまのヒップホップの人たちよりも、フレキシブルなことができたと思ってて。〈俺たちいちばん自由じゃね?〉みたいな会話がやりながらポロっと出ることもあった。いい瞬間がいっぱいあったし、あんまり経験したことないことがたくさん起きたレコーディングでしたね」