見知らぬハーモニー探しに始める秘密の旅――ピアノ連弾ヴォーカル・ユニットとして鮮やかなデビューを飾った二人が、さらに彩り豊かな音の世界へ二歩目を踏み出した!

 姉妹でピアノを奏で、歌声を重ねる京都のデュオ、Kitri。そのユニークな才能が大橋トリオに見出されて、EP『Primo』でメジャー・デビューしたのは今年1月のこと。その後に行われたワンマン・ツアーも成功を収めるなか、セカンドEP『Secondo』が届けられた。前作に続いて大橋トリオがプロデュースを手掛けた本作は、彼女たちいわく「〈挑戦〉が詰まった一枚」だ。例えば1曲目の“矛盾律”は、先が読めない展開やカラフルなサウンドなど、まるで見知らぬ世界に迷い込んだような曲。ソングライティングを担当する姉のMonaは、曲の成り立ちをこんなふうに語ってくれた。

Kitri Secondo BETTER DAYS(2019)

 「これまでは全体の構成を意識して曲を書いていたんですけど、この曲は行き先を決めずに思いつくまま書いてました。そして、歌詞は物語を意識せず、〈タンゴと浄瑠璃〉とか単語の意外な組み合わせから生まれる不思議なイメージのおもしろさを追求してみたんです」(Mona)。

 この曲のアレンジを手掛けたのは神谷洵平(赤い靴)。ストリングスやビートなどさまざまな要素を加えているが、さらに妹のHinaがピアノ以外の楽器を弾いて曲に彩りを与えている。

 「前作はピアノだけだったんですけど、今回はいろんな音を入れて未知の世界を旅するような雰囲気にしたいと思ったんです。ギター、カスタネット、鈴、リコーダー……箸で食器を叩いたりもしました(笑)」(Hina)。

 2曲目の“目醒”も楽曲の構成がユニークで、ヴォーカル・パートと連弾パートが交互に現れる。

 「これまで〈サビは歌うもの〉と思っていたんですけど、この曲ではピアノだけでサビを聴かせることにしてみました。いつもより強めにピアノを主張したアレンジで連弾しています。この曲は〈集団の中で、恐れずに個を出していいんじゃないかな〉という曲なんです。最近、ネットですぐ炎上したりするから、みんな周りを気にしているように思えて。それでハーモニーを何層にも重ねることで、集団のイメージを出してみました。心地良いと言っていただけるKitriのハーモニーを、ちょっと不気味な感じで使うことで曲にアンバランスな雰囲気が生まれたらおもしろいと思ったんです」(Mona)。

 そんなふうに、時には自分たちのスタイルを巧みに演出しながら、2人はKitriの世界を広げようとしている。その一方で、続く2曲“終わりのつづき”“Dear”は、Kitriらしい美しいメロディーとハーモニーを聴かせる親しみやすいナンバー。でも、そこにも2人の挑戦が盛り込まれている。「自分たちのピアノ・ポップを作りたかった」(Mona)と明かす“終わりのつづき”では、初めて使ったというエレクトリック・ピアノが曲のアクセントになっている。

 「エレピの音色には、ピアノの音色にはない寂しさみたいなものを感じて、エレピで何か新しい表現ができるんじゃないかと思ったんです。それでエレピを使うことを前提にして、〈プチハッピーになれる曲〉というテーマで曲を作りました。エレピで憂いを表現しつつ、サビの連弾で少し明るくすることでプチハッピーな感じを出してみました」(Mona)。

 そして、切ないバラードの“Dear”ではHinaが初めて歌詞を担当。別れの悲しみのなかで、新たな一歩を踏み出す瞬間を切り取っている。

 「メロディーを聴いた時、切なくなるようなドラマを感じたんです。でも、歌詞を一人で書くのは初めてだったので、最初はどうしたらいいかわからなくて。姉に訊いたら〈誰かに手紙を書くようなつもりで書いてみたら〉と言われたんです。それで、自分の中にある思い出とか、好きな小説や映画をヒントにして歌詞を書きました」(Hina)。

 ピアノと歌というシンプルな要素を軸にしながら、広がりを増したKitriの歌の世界。そこには、デビュー以降に経験したライヴの影響も大きいようだ。

 「いろんな方がライヴに来てくださったことに衝撃と喜びを感じたんです。ライヴをしてからは、曲を書く時に聴いてくださる方のことを意識するようになりました。〈どうやったらもっと楽しんでもらえるかな〉って」(Mona)。

 「あと、これまではただ楽しんで音楽を聴いていたんですけど、最近では楽曲の演奏とかアレンジを細かく聴くようになりました。本を読んでいる時も〈この言葉、すごくいいな〉と思ったらメモしたりして、〈いろんなことを採り入れたい!〉という欲が強くなってきたんです」(Hina)。

 音楽への好奇心と情熱をバネにして、いまがまさに育ち盛りのKitri。『Secondo』は、そんな彼女たちの瑞々しい成長の記録だ。