没後三十年~芥川也寸志が遺した音楽遺産を聴く

 DOMMUNEが坂上忍へのアンサープログラムを放送して話題を集めたのは4月15日のこと。その際、「成長と音楽」という切り口で“前口上”をおこなったのが西耕一である。彼はこれまでも主に昭和に活躍した日本の作曲家たちを様々な切り口から取り上げており、ジャンルに囚われず多様な音楽を取り扱うDOMMUNEの中でも一際異彩を放つ存在として注目を集めてきた。そんな彼がライフワークとして取り組むのは、日本の作曲家が手がけたクラシック音楽をアーカイヴして次世代へ受け継ぐこと。なかでも芥川也寸志(龍之介の三男)に懸ける想いは半端なものではない。そんな西が企画制作してきた演奏家のライヴCDがこの度、2種発売される。

水戸博之,オーケストラ・トリプティーク オーケストラ・トリプティークによる芥川也寸志個展 ~芥川が絃楽へ寄せた想い~ スリーシェルズ(2019)

 ひとつめの『オーケストラ・トリプティークによる芥川也寸志個展』は代表作である《弦楽のための三楽章(トリプティーク)》を筆頭にした、弦楽オーケストラのための作品集(編曲を含む)。マニアからすると《陰画》のような激レアな作品を聴けるのも嬉しいのだが、普通の意味での聴きどころは映画音楽だろう。なかでも楽譜が散逸しているため採譜(耳コピ)によって復元された松本清張原作の映画『ゼロの焦点』(野村芳太郎監督)や、島崎藤村原作の映画『破戒』(市川崑監督)の音楽は親しみやすく、映画から独立しても実に魅力的。武満徹の 《3つの映画音楽》のように、レパートリーとして定着してほしい作品だ。

松井慶太,オーケストラ・トリプティーク 芥川也寸志生誕90年メモリアルコンサート スリーシェルズ(2019)

 ふたつめの 『芥川也寸志生誕90年メモリアルコンサート』でも映画やテレビのために芥川が手がけた作品を堪能できる上、編成は室内管弦楽に拡大する。名曲として懐かしむ方も多い1964年の大河ドラマ 『赤穂浪士』はテーマのみならず、残された数少ない譜面を再構成して聴かせてくれており、聴き応え充分(第3曲《不吉な予感》は、スターウォーズ新作の一場面と言われても違和感ない!)。他にも芥川が音楽を手がけている『八つ墓村』『八甲田山』といった、未だに観続けられている傑作映画の音楽も新たな組曲として蘇った。他にもラジオやテレビのための音楽や、伊福部昭そっくりの初期作もなかなかに面白い。没後30年にあたる2019年、芥川の業績を振り返るのに最適なディスクとなるだろう。