COLUMN

宮嵜道男「光のパシスタ」 浅草サンバカーニバルを舞台にした〈サンバ小説〉が登場!

映画化希望! 浅草サンバを舞台にした〈サンバ小説〉

宮嵜道男 光のパシスタ 志學社(2019)

 晩夏の浅草を彩る風物詩、浅草サンバカーニバル(以下、浅草サンバ)を舞台にした小説が本作。タイトルにある〈パシスタ〉とはパレードの中で踊るソロダンサーを指すポルトガル語。あらすじはある日偶然に浅草サンバに出くわした主人公が、そこで目にしたサンバチームのパシスタに一目惚れする。まるで落語の「紺屋高尾」だが、この主人公は恋わずらいで寝込むのではなく、彼女に近づくために所属するサンバチームを突き止めて飛び込んでいくのだが、そこで普段の生活の一方で年に一度のカーニバルに情熱を注ぐ様々な人々に出会い、自身もまた呑み込まれていく。そして浅草サンバで大通りを闊歩し、さらには本場のカルナヴァル観戦のためにリオに渡るまでになる。並行して肝心な恋物語も進んでいくのだが、ほぼ予想通りの展開の後に意外な結末が待っている。

 作者の宮嵜道夫は会社経営の傍ら横浜のエスコーラ・ヂ・サンバ・サウーヂというサンバチームの打楽器隊に加わり10年間カーニバルに出場していた経験を持つ。本作がその体験を下敷きしているのは言うまでもないが、一方で作者自身が体験した様々な出会いを積み上げた物語だとも言えるだろう。またジョアン・ジルベルトの来日公演や2008年のリオのカルナヴァル(日系移民100年の節目でもあった)など実際の出来事も織り込まれているのもおもしろいし、カルナヴァルに出るパレード構成の解説や浅草サンバの歴史などが綿密な取材に基づいて書かれているので、一種の資料としても有用なものに仕上がっている。

 浅草サンバもリオのカルナヴァルも体験したことがある評者だからかも知れないが、こうした華やかな街を背景にした物語を読んでいると脳裏に風景が浮かび上がってくるような感覚を覚えた。だからこそ映像化するとまた面白い作品になるような予感がする。

 おそらく我が国では初めてとなるだろう“サンバ小説”。浅草サンバの見物前に一読するのもまた一興だろう。

本書に登場するサンバの楽器。左から、ショカーリョ、ガンザ、アゴゴ
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