夏が来ようが来るまいが、この熱波は必ずやって来る! 世界にレゲトンを広げたアンバサダーが初のベスト・アルバムをリリース! 現在進行形のポップ・スタンダードを体感せよ!

ジャンルの広がりを体現したキャリア

 資料によると〈日本の夏、レゲトンの夏。〉とある。そうした短絡的なキャッチがどう受け止められるのかはさておいて、押しも押されぬ〈キング・オブ・レゲトン〉ことダディ・ヤンキーの放つ熱がこの暑い季節によく似合うのは間違いのないところだろう。なかなか日本におけるレゲトンというものの一面的なイメージが拭えないうちにブームが一周してしまった観もあるとはいえ、2017年にルイス・フォンシと連名でリリースした“Despacito”が全米1位を16週も獲得したうえ(オリジナル・ヴァージョンのMVのみで)YouTubeで63億回再生という世界新記録を樹立した事実は大きすぎるトピックとして記憶されているはずだ。さらに日本ではTikTokでも人気になった“Dura”が自動車のCMソングとして使用されてヒットを記録、今年に入ってからリリースされた“Con Calma”はスノー本人を招いた“Informer”(92年)のリメイクという話題もあって世界中のチャートを席巻している。そんなグッド・タイミングでコンパイルされたのが、初のグレイテスト・ヒッツにあたる『Con Calma & Mis Grandes Exitos』というわけだ。

DADDY YANKEE Con Calma & Mis Grandes Existos El Cartel/ユニバーサル(2019)

 プエルトリコのサンフアン出身、77年生まれのダディ・ヤンキーは、レゲトンという言葉が使われはじめた90年代初頭からマイクを握ってきたパイオニアの一人でもある。91年に最初のレコーディングを経験し、95年にファースト・アルバム『No Mercy』をローカル・リリース。同時代のヒップホップとダンスホール・レゲエに影響された彼の音楽性はレゲトンの進化するラインをそのまま描いていく。全米にラテン・ブームが到来した90年代末~2000年代初頭にかけてメジャーの熱視線がレゲトンに注がれるようになると、ドン・オマールやテゴ・カルデロンら多くの猛者たちがメジャーに進出し、ダディもユニバーサルと契約。2004年のアルバム『Barrio Fino』のヒットによって、シーンを牽引するボスとしての存在感を世界に知らしめた。なかでもシングル“Gasolina”はスペイン語曲ながら全米32位を記録し、レゲトンの代名詞的なビッグ・チューンとして世界的なブームの波及に油を注いでいくことになる。2005年になるとプエルトリコ系ラッパーのN.O.R.E.(ノリエガ)がレゲトンに挑んだ“Oye Mi Canto”に客演し、みずからのクロスオーヴァー志向な『El Cartel: The Big Boss』も全米TOP10に送り込んでジャンル自体の広がりをも体現してみせた。

 そうしたブーム期に〈アゲ〉のイメージを刷り込まれてしまったという人も多いだろうが、以降のレゲトンはラテン・ポップにおいてアーバン(R&B~ヒップホップ)の分野を代表する普遍的なスタイルとして浸透していき、同時代のヒップホップやEDM方面でのムーンバートンとも交差しながら多様に発展していく。そんななかで生まれたのが先述の“Despacito”や“Dura”ということになるが、ダディ自身は頻繁に自曲のリリースやコラボを展開しながらも、2013年のミックステープ『Imperio Nazza: King Daddy Edition』以降はアルバム・サイズの作品を出すまでには至らず、2014年頃から制作がアナウンスされていたという『El Disco Duro』も延期を重ねたままとなっている。つまり、このたびの『Con Calma & Mis Grandes Exitos』は彼にとって久しぶりのアルバム作品と捉えることもできるわけだ。

 

クロスオーヴァーの象徴として

 今回収録される全17曲のうち、6曲は現時点での最新オリジナル・アルバム『Prestige』(2012年)が初出のトラック。プリンス・ロイスを迎えた“Ven Conmigo”、“Pasarela”といったメレンゲ路線の曲がシングル・ヒットしたほか、EDM風味も取り込んだソカ・フュージョン“Lovumba”やフィットネスでお馴染みの“Limbo”はUSラテン・チャート首位をマークしている。さらに、直球のレゲトン“La Nueva Y La Ex”は先述のミックステープに収録されていたヒット・チューンだ。

 それ以外の10曲はすべて以降のシングル曲で、これが初CD化となるものも多い……というか、2015年の“Sigueme Y Te Sigo”と“Vaiven”、ダンスホール的な2016年のNo.1ソング“Shaky Shaky”、2017年のオズナ客演曲“La Rompe Corazones”、バッド・バニーとのラテン・トラップ“Vuelve”など、多くのトラックは幻のアルバム『El Disco Duro』へのセットアップとして連発されてきたヒット・チューンである。2018年にはその流れに連なる“Dura”がいわゆるチャレンジ動画での拡散も相まって人気となり、モダンな歌い口のトラップ“Hielo”、後進のアヌエルAAと連名で放った“Adictiva”がそれに続いた。

 で、これらのヒットを集大成し、今年1月リリースの“Con Calma”と、ケイティ・ペリーを迎えた同曲のリミックスを加えての全17曲。呼び方はレゲトンでもラテン・ポップでも何でもいいが、それらの言葉の内包するサウンドがイメージ以上に多様に拡がっていることは本作を一聴していただければすぐに感じ取れるだろう。思えば“Con Calma”のオリジナルとなるスノーの“Informer”は、レゲエとヒップホップをクロスオーヴァーして(しかも、それをカナダの白人が)ポップ・ヒットさせるという早い段階での成功例であった。越境していくレゲトン~ラテン・ポップの勢いを象徴する現在のダディには実に相応しい一曲のようにも感じられはしないだろうか?

ダディ・ヤンキーのアルバムを一部紹介。

 

『Con Calma & Mis Grandes Existos』の収録曲に参加したアーティストの作品。

 

ダディ・ヤンキーの客演曲を含む作品を一部紹介。