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演奏中にドラムセットを振り返りそうになった

――前後して〈サニーデイ・サービスの世界〉が2公演行われました。12月19日は9人編成で、28日は曽我部さんと田中貴さんの2人だけで演奏した、という対照的なライヴです。丸山さんの死を悼んだ28日の〈サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”〉で忘れられないのは、“完全な夜の作り方”の演奏中に曽我部さんが少し泣いてらっしゃったこと。あの曲はサニーデイというバンドと丸山さんについてのものだったんだと思いました。

「実際、あの曲では晴茂くんがドラムを叩いているしね。うん。そうだね……。いろんな気持ちがあった。悲しみもあって、でも前向きな何かは特になかったかな。喪失感や悲しみ、さびしさしかなかった。そこから一歩を踏み出していこうって気持ちは持ち得なかった」

――MCでは丸山さんがいないこと、亡くなったことについては触れませんでした。

「淡々としていましたよね。親友が死んだということと、ずっと3人でやっていたのが2人になって、〈(人数が)減った〉ということを、ただただ感じていて。すごく重要な音楽だったと思います。ギター/ヴォーカルとベースだけでやるっていう。〈これしかないんだ〉っていうことと、〈これでなんとかやっていくしかない〉っていうこと――そういう現実のなかで一生懸命やっていくことを考えていましたね」

――レコードを聴き続けていたリスナーとしては、〈ここでフィルインがあった〉〈ここでこんなドラムのフレーズが鳴っていた〉というのが聴こえてくる気がしました。“桜 super love”の歌詞に〈きみがいないことは きみがいることだなぁ〉とあるように。演奏中はどうでした?

「演奏中に後ろ(ドラムセットがあるほう)を向きそうにはなりましたね」

 

〈2人でやるしかない〉っていうのもすごく前向きなこと

――曽我部さんが止まらずに動き続けていた2018年は、再結成後10周年という節目の年でもあり、5年後、10年後に振り返ったときにターニング・ポイントになりそうな年だったと感じています。

「何も考えずにやっていただけなんです。だから疲れちゃって。今年はお休みしようと思っています。

晴茂くんが死んじゃったから、別の人を入れることでそれを補うのか、それとも2人でやっていくのか――どういうストーリーを自分たちが歩みたいのか、何をすべきかというのをしっかり考える時間にしようと思ってる。ライヴもお休みして、ちゃんと、ゆっくり、突発的な判断ではなくて。だから、あまり予定を入れずにしてますね。田中とはたまに会うんだけど」

――バンドの今後について具体的なお話をされるんですか?

「うん。どうしようかって話はたまにしています。俺たちこれからどうすんのって(笑)。何がどうなるかはまだわからないんですけど、そのなかで新曲みたいなものも出来てきてる。

この間、福岡でソロのワンマン・ライヴをやったんですけど、せっかくだから田中にも来てもらって、7、8曲くらいかな、一緒にやったんです。僕がアコギで田中がベースっていうスタイルだったんですけど、それがすごくよくて。ただ、フェスに出るときにサニーデイ・サービスとしてそのスタイルでやるのもちょっと変じゃないですか(笑)。やっぱりドラムとか、いろんな楽器があったほうが楽しいし。

……っていうことを、今年はいろいろ考えていきたい。でもベースは、核はここなんだろうなって、2人でやったときに思いましたね。2人でできないと、この上に楽器を乗っけたとしても成り立たないよなって」

――2016年から丸山さん不在でライヴをしていたと思いますが、もちろんそのときとは状況は違うということですよね?

「そうですね……。〈いつか戻ってくるだろう〉という思いのなかでやっているのと、〈もう戻ってこない〉という状態では気持ちが違う。だから、〈2人でやるしかない〉っていうのもすごく前向きなことだなと思います。そこから自分が力を持ちうるかどうかを、いま試している。

(丸山が)亡くなったことが前向きな力になっていくかどうかの瀬戸際……というか、前向きな力にしかならないと思うんだけどね。自分が力を持ちうるか、そのエネルギーを蓄えようとしている期間です。だから、去年は思いつきでいろいろ動いていたんだけど(笑)、そういう余裕がいまの自分にはないんだよね」

――先ほど〈保守的になった〉とおっしゃっていましたが、まずは曽我部さんがご自身を〈守り〉〈保つ〉ことが大事?

「まず朝起きて、洗濯をして、洗濯物を干して、掃除機をかけられるかどうかがいちばん大事なことなんだよね。いまはそれをやっている感じかな。ちゃんと生きられるかどうかってことだと思う。それからギターを持って、練習するとか、曲を作るとか……そういうことだと思う。去年はいろいろやったけど、もう去年のこととは思えないですから(笑)」

――遠い昔のようですか? あるいは、別人のことのよう?

「〈別人〉ってわけではないですね。もちろんグラデーションがあって、いまにも繋がっています」

――今年の6月、ロロの演劇に出演されましたよね。そこからの影響はありましたか?

「すごく大きかったね。『はなればなれたち』ってタイトルで、そういうことがテーマだったから」

――お話を伺っていると、すべてが繋がっていて、大きな流れのような感じがします。

「そうだね。〈さよならだけが人生だ〉って言葉があるじゃないですか。それってほんとそうだなって思ったんです。それをテーマに生きていこうと思う。確実なのは自分が死ぬこと、さよならするってことだけだから」