INTERVIEW

バード・アンド・ザ・ビーからヴァン・ヘイレンへ、カヴァー最新作は情熱的なラヴレター

バード・アンド・ザ・ビー『Interpreting The Masters Volume 2: A Tribute To Van Halen』

Photo by Alexa Nikol Curran
 

バード・アンド・ザ・ビーが8月2日に発表したカヴァー・アルバム『Interpreting The Masters Volume 2: A Tribute To Van Halen』のCD版が、日本限定で本日リリース。ここでは本作の対訳も担当した、「フィメール・コンプレックス」などの著作でも知られるファッション&音楽ライター/翻訳家/DJの多屋澄礼が行ったメール・インタヴューを掲載する。 *Mikiki編集部

THE BIRD AND THE BEE Interpreting The Masters Volume 2: A Tribute To Van Halen No Expectations/Release Me/Ca Va?/HAYABUSA LANDINGS(2019)

 

リトル・フィートのフロントマン、ローウェル・ジョージの愛娘で、昨年ソロ・アルバム『Dearest Everybody』新境地を開いたシンガー・ソングライターのイナラ・ジョージ。そしてリリー・アレンやフー・ファイターズ、リアム・ギャラガー、ケンドリック・ラマーらの楽曲に携わり、2018年のポール・マッカートニーの最新作『Egypt Station』も手がけた売れっ子マルチ・プレイヤー/プロデューサー、グレッグ・カースティンのふたりによるユニット、バード・アンド・ザ・ビー。

※2019年1月に世界初のCD化で日本盤がリリース

ジャズを下敷きに、エレクトロな風味付けがされたオーセンティックなポップ・サウンドでその世界観を創り上げてきた彼女らは、ブルーノートからリリースされた2007年のアルバム『The Bird And The Bee』でデビュー。以来、まるで1本の長編映画を見ているような、ハイ・クォリティーなスタジオ・アルバムを計4作発表している。

本国アメリカだけでなくここ日本でも人気を獲得してきたバード・アンド・ザ・ビーだが、オリジナル・アルバムの制作の傍らで取り組んできたプロジェクトがある。それが、ひとつのバンドにフォーカスしたカヴァー・アルバム〈Interpreting The Masters〉シリーズだ。このたび、80年代に一世を風靡したブルーアイド・ソウルのデュオ、ホール&オーツを取り上げた第一作目『Interpreting the Masters, Vol.1: A Tribute to Daryl Hall & John Oates』から約9年の時を経て、第二作目『Interpreting The Masters Volume 2: A Tribute To Van Halen』が遂に完成した。

今回彼女たちが選んだのはなんと、米ハード・ロックの先駆者ヴァン・ヘイレン! バード&ザ・ビーと言えば、軽やかなポップ・サウンドが持ち味だが、その真逆を行くようなお題のチョイスに驚くファンも多いだろう。しかし、作品を聴けば、ふたりのヴァン・ヘイレンに対する溢れ出す愛情やリスペクト、そして原曲本来の魅力を感じ取ることができる。さらには、両バンドの新しい側面も知ることができるようなアルバムだ。

ここではイナラへのメール・インタヴューの回答を交えながら、本作の内容に迫ってみる。

 

カヴァーをすることは、自身のスタイルを表現する楽しい方法

「誰もが知っているような有名な曲だからこそ、自分たちの色を打ち出すことが大切。他のアーティストの曲をカヴァーするのは、自分たちのスタイルを表現する楽しい方法だと思う」

そう語るイナラは、偶然にもヴァン・ヘイレンの結成年と同じ74年生まれ。ヴァン・ヘイレンが初の全米1位を獲得したシングル“Jump”が収録された『1984』がリリースされた当時、彼女もグレッグもティーンエイジャー(イナラは10歳、グレッグは15歳)だったのもあり、多感な時期に強烈なインパクトを与えた存在だったに違いない。

「次はどのアーティストを取り上げるかアイデアを出し合ったりしながら、ヴァン・ヘイレンに辿り着くまでに数年はかかったと思う。最終的にどんなふうに決めたのか、実のところあまり覚えてはいないけれど、決めてからは全力投球したわ」

ヴァン・ヘイレンと聞くと、私たちは派手なパフォーマンスだったり、攻撃的なギター・プレイだったりと、過激なイメージを抱きがちだが、楽曲を再解釈しカヴァーすることで、そのエッセンシャルな魅力を紐解くことができたとイナラは語る。

「80年代の当時のイメージはもっともっと激しくて、強烈だった。カヴァーしてみて、そのイメージはすごくパーソナルなもので繊細なイメージへと変化したわ。それにとてもユーモアがあるってことにも気づくことができたの」

今作では、エドワード・ヴァン・ヘイレンのギター・リフを鍵盤に置き換えるなど、グレッグならではのウィットに富んだアレンジが至る所で発揮されている。特に印象的だったのは“Jump”のイントロだ。オリジナル版のシンセサイザーのサウンドを鍵盤やギターなどの楽器でなく、イナラの声による多重コーラスで再現しているのは斬新だった。

「グレッグは本当にどんな楽器も弾きこなせる卓越したプレイヤーなの。エドワード・ヴァン・ヘイレンのあのギター・プレイをどんなふうに再現するか、チャレンジすることに意欲を燃やしていたし、何より愉しんでいたと思う」

一方、イナラはヴォーカリストとしてヴァン・ヘイレンのデヴィッド・リー・ロスのショウマンシップ、ロックンロールの象徴というべき振舞いに大きく影響を受けてきた。今作のラストに収録された“Diamon Dave”はバード・アンド・ザ・ビーのセカンド・アルバム『Ray Guns Are Not Just The Future』(2009年)に収録された楽曲のセルフ・カヴァーで、イナラがデヴィッド・リー・ロスにオマージュを捧げたもの。

「もしヴァン・ヘイレンのメンバーになれるとしたら誰を選ぶ?」という問いに「〈Diamond Dave〉ことデヴィッドを選ぶ」と答えてくれた彼女は、今作でより一層、ヴォーカリストとして意識したことを教えてくれた。

「ヴォーカルのレコーディングには、デヴィッドの持ち味やスタイルに敬意を払い、それを聴き手に感じてもらえるようなものになるように心がけながら臨んだの。ソロとバード・アンド・ザ・ビー、それぞれのプロジェクトで自分の歌い方に変化をつけているけれど、今作ではデヴィッドを意識してほんの少しだけパンク・ロックの要素を加えているわ」

 

ベックやオマー・ハキムら、親交の深い豪華ゲスト陣も尽力

常にオリジナルを意識しながらも、バード・アンド・ザ・ビーらしさを打ち出すために苦労も多かったと、イナラはレコーディングのプロセスを振り返る。

「アルバム全体をどんなものにしたいのか、それがはっきりイメージできるようになったのは“Runin’ With The Devil”の制作後だった。コード・ヴォイシング(和音の配置)を自由にしたり、使用する楽器もオリジナルとは違うものを選んだり。あの曲のおかげでどうアプローチするべきか方向性を確立することができたの。グレッグと私はそれをテンプレートにして、他の収録曲のレコーディングに取り掛かった。

いちばん大変だったのは“Unchained”もしくは“Hot For Teacher”ね。オリジナル楽曲の印象がとても強いから、その魅力を損ねないようにするためにはどうすればいいのか、ふたりで慎重に考えながらレコーディングに取り組んだわ」

イナラとグレッグのふたりからヴァン・ヘイレンへの情熱的なラヴレター――そんなニュアンスを持つ今作だが、それをより魅力的なものにしているゲスト・ミュージシャンたちの存在も忘れてはならない。

イナラのレーベル〈Release Me〉からソロ・アルバム『2% MILK』をリリースし、その来日公演でも素晴らしい演奏を披露したアレックス・リリー。“Hot For Teacher”で艶めかしいナレーションを担当したベック、ウェザー・リポートのドラマーであり、ナイル・ロジャースの紹介でデヴィッド・ボウイの“Let’s Dance”に参加した経歴を持つドラマーのオマー・ハキムなど、今作の豪華なゲスト陣からふたりの人脈の広さを垣間見ることができる。

「ゲスト・ミュージシャンたちとのレコーディングはとても有意義なものだったわ。ベックはとにかく素晴らしいミュージシャンよね。それに、アレックス・リリー、彼女とのレコーディングはいつでも最高! “Hot For Teacher”で素晴らしいドラム・パートを提供してくれたオマー・ハキム、彼のパートはNYでレコーディングすることになったから録音には立ち会えなかったけれど、本当に素晴らしい演奏で感銘を受けたわ」

リリースされたばかりで時期尚早ではあるが、シリーズの第三弾はあるのだろうか。

「まだいつになるかは見当もつかないけれど、絶対にまたやりたいと思ってる。でも、まずはそうね、新しいオリジナル・アルバムをまずリリースするのが先ね」

ソロにユニットにと常に精力的に音楽に取り組むイナラだが、自身の活動の傍ら〈Release Me〉の運営にも全力で取り組んでいる。同レーベルからは今作にも参加したシンガー、サマンサ・シドニーのファースト・アルバムのリリースも控えているとのこと。つい先日には、TVショウでフー・ファイターズのデイヴ・グロールと共に本作収録曲“Ain't Talkin' 'Bout Love”を披露していたが、バード・アンド・ザ・ビーとしての来日は2007年が最後。長い年月が経ってしまったので、アルバムを引っ提げた来日公演にも期待をしながら、これからの活動にも注目したい。

デイヴ・グロールを招いて演奏した“Ain't Talkin' 'Bout Love”

 


PROFILE:
多屋澄礼(Girlside/Violet And Claire)

ファッション&音楽ライター。1985年生まれ。レコード屋での経験を生かし、女性ミュージシャン、アーティスト、女優などにフォーカスし、翻訳、ライティング、diskunionでの〈Girlside〉プロジェクトを手がけている。翻訳監修に「ルーキー・イヤーブック」シリーズ。著書に「フィメール・コンプレックス」「インディ・ポップ・レッスン」「New Kyoto」。8月15日(木)〜9月1日(日)には代官山蔦屋書店にて〈Girlside〉のPOP UP SHOPを展開。
https://violetandclaire.net
Instagram:@sumiretaya

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