オペラに花開く、一途なヒロインたちの生き方

 名門ウィーン・フォルクスオーパーを始めとする国内外の歌劇場に出演を重ね、コンサートのステージやメディアへの出演などでも活躍めざましい日本随一のソプラノ。昨年末にリリースした、メジャーデビュー10周年で10枚目となる記念アルバム『ARIA 花から花へ~オペラ・アリア名曲集~』では、信頼厚いラルフ・ワイケルト指揮によるチェコのブルノ・フィルとのレコーディングが実現。表情豊かで可憐な歌唱が、真摯に愛を貫くヒロインたちのドラマに生命を吹き込んでいた。

 それから約半年後の7月6日、今度は東京の紀尾井ホールで、同アルバムのコンセプトを踏襲しつつ、更に趣向を凝らして華麗にヴァージョンアップさせた魅惑のリサイタルが開催。オペラ演出家の馬場紀雄が〈様々な花とアリア〉をテーマに、花の持つ美しさや気高さ、儚さ、しなやかさなどに、珠玉の名アリアやデュエットの色彩を重ねたようなステージを展開。もちろんその中心には美しさと力強い情熱を兼ね備えた艶やかな名花、幸田浩子が佇んでいた。

 

第一部

 最初に舞台上に姿を見せるのは数多の受賞歴を持ち、2012年には「マルセル・プルーストへのオマージュ 失われた時を求めて」舞台公演にて、音と香りを融合させたいけばなパフォーマンスで独自の世界を切り開いたことでも知られる華道家の大泉麗仁。彼女の静謐な装花パフォーマンスによってリサイタルは幕を開けた。

 第1部はヴェルディの次世代を担うイタリア系としてオペラ・シーンの頂点に君臨したプッチーニの世界。オープニング曲はピアノによるオペラ「ジャンニ・スキッキ」ファンタジー。編曲を担当したのは、作曲家/ピアニストとして高い評価を受け、日本映画「おくりびと」でも名演を披露している藤満健。主に同喜劇を彩る幸福感に満ちた旋律を中心にまとめあげられていたのが印象的だった。

 その雰囲気を前奏曲のように纏って今夜の主役である幸田が登場。「ジャンニ・スキッキ」の有名なアリア“私の愛しいお父さま”に乙女ラウレッタの深い恋心を滲ませ、異色作「つばめ」より“誰がドレッタの美しい夢を”では純粋な愛への憧れを歌う。

 ところが次に藤満が奏でるオペラ「マノン・レスコー」ファンタジーは、劇中2つの“悲哀の二重唱”のメロディをつなぎ合わせたもの。まるで公演後半の悲しい結末を予期しているようだ。

 しかしそんな不安を打ち消すかのように雄々しいテノール、ジョン・健・ヌッツォが登場。「マノン・レスコー」より“こんな美しい女性を見たことがない”を逞しい声で歌い上げ、幸田もそれに応えるかのように同オペラから“この柔らかなレースの中で”の心情を甘美なまでにしみじみと浮かび上がらせる。

 それからオペラ「ラ・ボエーム」ファンタジーを挟んで、二人は同作品から“ええ、私はミミと呼ばれています”と“愛らしい乙女よ”を交互に披露。こうして、恋の始まりを予感されるハッピーな空気に包まれながら幕を閉じる。