サヴァールの音楽でも大活躍の3人が作り出す未知の音の宇宙

 まさか3MA(トロワマ)のライヴを聴ける日が来るとは思わなかった。彼らは東京のライヴ・マジックの他、静岡や愛知でも公演を行なう。メンバーはドリス・エル・マルーミ、バラケ・シソコ、ラジェリ。ユニット名はメンバーの出身地モロッコ、マリ、マダガスカルのフランス語表記の3つの頭のMAを意味する。

 彼らが演奏する楽器ウード、コラ、ヴァリー(あるいはヴァリハ)に通じている人は少ないかもしれない。それぞれ元は、西アジアから北アフリカをはじめとする地中海沿岸、西アフリカのマリやギネア、東アフリカ沖の島国マダガスカルで使われ、世界に紹介されてきた弦楽器だ。

 梨型のウードはリュートや琵琶の仲間で半音のさらに半音がさらに微妙にずれたような深みのある音が出せる。ひょうたんを共鳴胴に使うコラは西洋のハープにも似た透明感のある音がヨーロッパで人気。ヴァリーは竹の共鳴胴の周りに金属弦を張った楽器で、とても繊細な音がする。いずれも優美という形容詞がぴったりの響きの楽器である。

 ギター、ピアノ、フルートなど、おなじみの楽器は、それなりの約束事にそって演奏されることをわれわれは知っている。ときにそこからはみ出すことがあっても、約束事を前提にして批評的に演奏されるのが通例だ。そんな知識がなくとも、そのおもしろさや大変さをなんとなく感じながらわれわれは演奏を楽しんでいる。

 しかし珍しい楽器をはじめて聴くときは、少し事情がちがう。3MAのメンバーは同じアフリカといっても、何千キロも離れた土地で音楽の基礎を身につけてきた。どの土地の音楽も異なった哲学や技術の上に成り立っているから、たとえ親しい友人同士でも簡単に共演できるわけではない。その難題を編曲の工夫と優れた技術で軽々とクリアしてきたのが彼らだ。たとえばウードは伝統的にはマカームと呼ばれる旋法で演奏されるが、ドリスはそこから離れ、低音部をベースのように弾いてアンサンブルを支えたりもする。3人が3人とも伝統的な奏法とそこから逸脱した方法を併用することで、彼らにしか演奏できない未知の音の宇宙を作り出しているのだ。

 触媒としてヨーロッパの音楽の要素も使われている。古楽の巨人ジョルディ・サヴァール(サヴァーイ)が15~19世紀に奴隷の運ばれた道と音楽をたどって作った大作では3MAが大活躍していた。3人とも欧州滞在が多く、ドリスとジョルディの共演歴は長年にわたる。

 そんなわけでライヴでは柔軟性に富む名手たちの技をつぶさに味わいたい。

 


LIVE INFORMATION

3MA 来日公演2019
10/18(金)13:30開場/14:00開演 ○会場:愛知・宗次ホール
10/19(土)17:30開場/18:00開演 ○会場:静岡音楽館 AOI
10/20(日)東京「Peter Barakan's LIVE MAGIC! 2019」
10/21(月)18:00 開場/19:00 開演 ○会場:代官山・晴れたら空に豆まいて
plankton.co.jp/3ma/

■ メンバー
バラケ・シソコ(from マリ):コラ
ドリス・エル・マルミ(from モロッコ):ウード
ラジェリ(from マダガスカル):ヴァリハ