数多くのロック・レジェンドたちを撮影してきたカメラマンにして、ウェブページ〈久保憲司のロック・エンサイクロペディア〉を運営するなど音楽ライターとしても活躍しているクボケンこと久保憲司さん。Mikikiにもたびたび原稿を提供いただいております。そんなクボケンさんによる連載が、こちら〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉。動画配信サーヴィス全盛の現代、クボケンさんも音楽そっちのけで観まくっているというNetflixやhuluの作品を中心に、視聴することで浮き上がってくる〈いま〉を考えます。

今回のお題は、2013年にはじまったNetflixドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」。女性刑務所を舞台に囚人の日常をコミカルに描きつつ、人種やLGBTQ+といったトピカルなテーマを扱った同作は、先日配信されたシーズン7でついに最終章を迎えました。このドラマはアメリカの、ひいては我々の暮らす社会の何を映し出していたのでしょうか? *Mikiki編集部

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Netflixオリジナルシリーズ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」シーズン1~7独占配信中
 

「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」、ついに終わってしまいました。

一日だけ拘置所に入ったことがあるので、なんとなく「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の気持ちが分かる久保憲司です。

なぜ逮捕されたかというと、ヘイト・スピーチをするレイシストたちに抗議したからです。誤認逮捕だったので一日で釈放、不起訴、残念ながら前科持ちにはならなかったです。

「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の人たちに比べると僕なんてアマちゃんなんですけど、拘置所から検察庁に連れて行かれるとき、こんなにもたくさんの人が毎日検挙されているのかとびっくりしました。月曜日から金曜日まで毎日パンを作るようにシステマティックに犯罪者か/犯罪者でないかが裁かれていく光景を見て〈これは完全に社会の裏と表、一つのシステムだ〉と思いました。子供の頃、社会科見学でパン工場に連れて行かれたりしましたが、子供達にこっちの方を見せておいたほうがよくないかと思いました。

「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」もこんな気持ちから作られたドラマです。〈普通のことだよね〉〈誰もがちょっとした間違いで堀の中に入ってしまうかもしれないよね〉と。堀の中の人たちの馬鹿げたエピソードを見ながら、僕らとの違いを笑いながらも、実は僕たちの生活もそんなに変わらないんじゃないのという卑屈な笑いに酔ってたんだと思います。

Netflixオリジナルシリーズ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」シーズン1~7独占配信中
 

今回の最終章のテーマのひとつは、堀の中の世界より、もっと下の世界があったということでした。下の世界とは移民が暮らす社会です。堀の中の人たちが、移民の人たちを助けようとする物語。

移民によって作られたアメリカなのに、そのアメリカから追い出されようとしている人たち、〈お前らみたいなやつらはいらない〉と言われているような犯罪者たち、そして、主人公パイパー(・カーマン)のように刑期を務めあげたのに、なかなか社会復帰できない前科者たちの物語が合わさって、アメリカ(=僕たちの社会)っていったいなんやねん?という問題を突き詰めていきます。

「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のサブテキストの一つには、いまのアメリカだと(多分これからの日本もそうだと思うが)犯罪者に税金がかかりすぎるから、その金銭問題を解決するために、刑務所を民営化したらとんでもないことになってしまった……という現実への問題提議があったと思います。今回はそんな問題を生んでしまうアメリカ(=現代)にまで話を突き詰めていたから重かったです。

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お金の問題って、そんなに解決しない問題なんですかね。昔のイギリスだったら、少しでも犯罪を犯したらなんでも死刑だったので問題なかったんですけどね。すごい時代でしょう。スリをしても死刑です。だから女性の犯罪者は殺されないために、牢屋に入れられたらすぐに看守とセックスをし、身籠ることで死刑を免れようとしたのです。身籠っている女性は死刑にならないという法律があったのです。子供は関係ないということなんですね。キリスト教的というかなんというか、200年くらい前の話です。

それに比べたら「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の時代はよくなった、ですって。違う! とにかくいろんな問題が解決しないまま終わってしまう最終シーズン、観ててつらかったです。でも、アメリカらしく全部ハッピー・エンドにしなかったのはよかったかなと。

そして、最後に〈再結成あるかもしれないよ〉というセリフがジーンと来ました。10年後くらいに「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の人たちのその後の物語が作られそうです。その頃にはアメリカも変わっているかもしれませんね。よくなっているのか、悪くなっているのか、わからないですけど、僕はよくなっているような気がしました。それがアメリカだし。