INTERVIEW

ヨルシカ『エルマ』 時代の旗手から早くも届いた次なる物語

ヨルシカ『エルマ』 時代の旗手から早くも届いた次なる物語

時代の旗手から早くも届いた次なる物語。音楽性の高さによって紡がれたコンセプチュアルなファンタジーとそこに浮かび上がるリアリティー——だからヨルシカはこの作品を生み出した

結成当初からあった物語

 ヨルシカが、セカンド・フル・アルバム『エルマ』をリリースする。

 4月にファースト・アルバム『だから僕は音楽を辞めた』を発表し、その音楽的なクォリティーの高さ、物語性を持ったコンセプチュアルな内容が注目を集めたヨルシカ。新作は、前作と対になるような一枚だ。音楽を辞めた〈青年〉を主人公に、彼が〈エルマ〉に向けて作った14曲を収録した『だから僕は音楽を辞めた』に対し、『エルマ』では、青年の足跡を辿って旅をする主人公・エルマの作った14曲が収録される。

ヨルシカ エルマ ユニバーサル(2019)

 ヨルシカのコンポーザー、n-bunaは新作の狙いをこう語る。

 「最初から『だから僕は音楽を辞めた』と対になるコンセプトを持った『エルマ』というアルバムのプロットを同時に考えて、それを2枚に分けて出したという感じです。音楽を辞めた青年の物語と、それに影響されて模倣するように生きるエルマという人間の物語。それをコンセプトにしたものを作ろうと思っていました」(n-buna)。

 ヨルシカとは、もともとボカロPとして音楽活動を行っていたn-bunaが、ヴォーカリストにsuisを迎えて2017年4月に結成したバンドだ。『エルマ』の構想も結成当初からあったという。n-bunaとsuisの2人はヨルシカのスタートをこう振り返る。

 「昔から、映画や小説のような一つの作品が作りたかったんです。コンセプトをしっかり固めたうえで、その作品の中に音楽というものがあって、それをパッケージして世に出すということがしたかったのが、ヨルシカの始まりですね。それを人間的なヴォーカルを使って表現したくて、suisさんという人と出会って組んだ感じです」(n-buna)。

 「ヨルシカの前に、n-bunaくんのボーカロイド曲を歌うライヴのゲスト・ヴォーカルをして、そこで見つけてもらったんです。もともとn-bunaくんのボーカロイド曲のファンで、彼の描く歌詞や世界がすごく好きだったので、最初に聞いたときには嘘みたいな話だと思ったんですけれど。〈人生っておもしろいな〉って」(suis)。

 『エルマ』の物語の舞台はスウェーデンだ。手紙を残した青年の足取りを辿り、主人公の女性エルマが同地を旅する。収録曲“心に穴が空いた”のMVも、アルバムの舞台となるスウェーデン・ゴットランド島で撮影されている。そこはn-bunaにとって強い思い入れのある場所だったという。

 「今回のアルバムの最後に入っている“ノーチラス”は、ヨルシカを始めて最初に作った曲なんです。その時にはもう、音楽を辞めた青年の話とそれに影響されて模倣するように生きるエルマの話は考えていました。スウェーデンのガムラスタンはもともと僕が住んでいた街ですし、子どもの頃に見た綺麗な景色とか、その頃に体験した思い出って、ずっと忘れられないですよね。そういう意味で今も影響を受け続けている僕の原風景の一つを書いたのが“ノーチラス”という曲でした」(n-buna)。

 

ただ音楽として楽しんでほしい

 なぜ、n-bunaは音楽を通して物語を描こうと考えたのか? その背景には、19世紀の詩人/劇作家、オスカー・ワイルドに強い影響を受けて〈芸術至上主義〉を掲げるn-bunaの信条があった。

 「僕はオスカー・ワイルドを信奉しているんですけど、オスカー・ワイルドの〈人生は芸術を模倣する〉という言葉を忠実に再現した物語が作りたかったんですね。だから、エルマという人間はエイミーという青年が残した作品に影響を受けて、それを模倣するようになってしまう。そういう人間の物語を作ろうとまず思ったのが、そもそもの根底にあります」(n-buna)。

 オスカー・ワイルドだけでなく、音楽、映画、俳句や短歌など、幅広いカルチャーからの影響がn-bunaのクリエイターとしての背骨になっている。

 「音楽的なところで言えば、僕はブルースとか、ギター・ヒーローのようなギタリストが好きなんです。ジョニー・ウィンター、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ラリー・カールトンのような人たちが好きだし、影響を受けていると思います。映画だったら、クリストファー・ノーランやデヴィッド・フィンチャー、あとはヒッチコックが好きで影響を受けています。あと、僕は近代歌人が好きなんです。名前を挙げるならば、正岡子規、与謝蕪村、種田山頭火の俳句や短歌にはすごく影響を受けています。作品の中でもいろんな箇所でオマージュしていますね。それこそ、与謝蕪村は松尾芭蕉が残したものに影響を受けて、芭蕉が辿った道をなぞるように日本中を旅したんですよね。ヨルシカでエイミーとエルマの物語を作るにあたっても、そういう構造を描きたかったというのがあります」(n-buna)。

 透明感のあるsuisの歌声もヨルシカにおいては重要なピースとなっている。ミュージカルをルーツの一つに挙げる彼女は、ヴォーカリストとして、音楽で物語を描くヨルシカならではの歌の表現を形にしている。

 「『だから僕は音楽を辞めた』では青年に感情移入をして、その気持ちを感じながら歌うという形だったんですけれど、『エルマ』では、suisではなくエルマになりきって、エルマ本人としてアルバムをレコーディングするというような思いで歌っていきました」(suis)。

 「僕が書いた曲に対して、ちゃんと考えてその時々の役に入り込んで歌ってくれる。映画における役作りみたいな感覚で歌ってくれているというのは、ありがたいと思っています」(n-buna)。

 『エルマ』の初回限定盤〈エルマが書いた日記帳仕様〉には、CDに加えて、写真とエルマの旅の足跡を記した日記帳が封入されている。音源やMVだけで聴いて楽しむことももちろんできるが、その世界に入り込むことで、一つ一つの曲に込められた背景を、より深く味わうことができる。そんな魅力をヨルシカの音楽は持っている。

 「リスナーには、何も考えずに頭を空っぽにして聴いてもらえたらいいなと思います。そういうアルバムとしても作っているので。〈この曲がいい〉〈この歌詞がいい〉って、ただ音楽として楽しんでほしい。で、それもありつつ、その音楽がなぜできたのかという背景も日記帳では説明しているので、興味がある人はその根底を知ってもらったらいい。そういう思いで作っています」(n-buna)。

ヨルシカの作品。

 

次ページヨルシカの音世界を紡ぐコンポーザー、n-bunaの足取り
関連アーティスト
40周年プレイリスト
pagetop