©Seiji Okumiya

世界中とボーダレスで繋がり、熱い視線を受ける気鋭の作曲家、藤倉大をアーティスティック・ディレクターに迎えて赤ちゃんからシニアまであらゆる人々に楽しんでいただこうというボンクリ・フェスティバル

 作曲家・藤倉大がプロデュースする、東京芸術劇場でのイヴェント〈ボンクリ・フェス〉は今年で3回目を迎える。〈ボンクリ〉とはボーン・クリエイティヴ、つまり〈人間はみんな、生まれつきクリエイティヴ〉という意味が込められている。

 ところで、大人になるにつれてクリエイティヴさは失われるのだろうか。そして藤倉本人はどうだったのだろう? 「子供の作曲教室をやってショックだったのは、5歳くらいだとどんどん曲を書いてくるんですが、小学校高学年になると急に書けなくなっちゃう。こんな変な音楽を書いた自分が恥ずかしいとか思うのかな。でも、そういう感覚は自分ではちょっとわからない。だって、音楽を作るの、ずっとやってましたから。僕の生活は8歳か9歳くらいからまったく変わっていないんです。最初はピアノを練習していたんだけど、ベートーヴェンとかモーツァルトを弾いても、いつも曲を変えてしまうので先生に怒られたんですね。楽譜通りに弾けって。じゃあ、怒られないには、自分の弾くものを楽譜に書いちゃえばいいと。それが作曲を始めたきっかけですね」

 今年のボンクリにも、様々なアーティストが登場する。アンサンブル・ノマドに、福川伸陽(ホルン)、萩原麻未(ピアノ)、八木美知依(箏)本條秀慈郎(三味線)、そしてマルチに活動する大友良英などなど。現代音楽という枠など軽々と超え、いったい何が飛び出すかわからない。「予算が限られていたんですが、豪華にしてやろうと思って。そういうときには、やっぱトモダチ作戦ですね。出演者には僕が直接頼んだんです。小学校の遠足のときのおやつってあるじゃないですか。僕のときは200円以内って決められていたんですけど、うまく買い物して豪華にしたので、いつもチェックされてました」。

 これまで夜に行われていたコンサートホールでのスペシャル・コンサートは14時からに変更。夜には、コンサートホールで電子音楽をかけまくるという〈大人ボンクリ〉もスタートする。好評の〈電子音楽の部屋〉などの無料プログラムも拡充し、〈デヴィッド・シルヴィアンの部屋〉を新設するなど未発表の新作も堪能できる。アトリウム・コンサートの選曲はまだ未発表だ。すべてを計画通りに進めるのは好きじゃないという。「クラシックで残念なのは、すべてがカッチリと決まりすぎていること。ボンクリではわざと決めてないこともあるんです」。

藤倉大 ざわざわ ソニー(2019)

 そういった行き当たりばったり、偶然性に自然に身を任すところに生まれるみずみずしさが、藤倉の音楽作品にはある。新譜の『ざわざわ』も、特定のコンセプトなどはないという。「出せるものが集まり、アルバムの長さになったら出す、という感じですね」。とにかく出来たものを時間いっぱいに詰め込む。遠足のおやつと一緒だ。その代わりに、曲の並べ方やミックスにはずいぶんと凝るという。

 この『ざわざわ』には、合唱曲の“ざわざわ”とその続編の“さわさわ”、そして“ゆらゆら”や“はらはら”など、タイトルにオノマトペを用いた曲が並ぶ。象徴に委ねることなく、音楽の質感をよりダイレクトに伝えたいという藤倉の考えの現れといっていい。最初にオノマトペのタイトルにしたのはホルンのための“ぽよぽよ”だった。「現代音楽なめてんだろ、と言われそうですが、今じゃこれ以外のタイトルは考えられないですよ!」。

 アルバム最後の曲は、17歳のときに書いた合唱曲だ。その楽譜は、彼が通っていたロンドンの高校の音楽室で発掘されたという。「その楽譜が出てきて、演奏していいかと学校から連絡が来たんです。ちょうどその日、指揮者の山田和樹君がたまたま英国に来ていて、その話をしたら東京混声合唱団のアンコールで演奏することになって」。

 友達のために音楽を作り、自分でマイクを立てて録音、ミックス、プロデュースまで行う。世界中で注目を浴びる作曲家になってからも、作曲を始めたときと変わらぬ音楽との付き合い方を貫いている。

 


藤倉大 (Dai Fujikura)
作曲家。1977年大阪生まれ。15歳で渡英し、E.ロックスバラ、D.ランズウィック、G.ベンジャミンに師事。数々の作曲賞を受賞し、国際的な共同委嘱が続く現在最も演奏されている作曲家の1人。17年には、革新的な作曲家に贈られる伊の『ヴェネツィア・ビエンナーレ』音楽部門銀獅子賞、19年には芸術選奨音楽部門 文部科学大臣新人賞を受賞。録音も多数。楽譜はリコルディ社から出版されている。Minabel Recordsを主宰。

 


LIVE INFORMATION

ボンクリ・フェス2019
“Born Creative” Festival 2019

○9/28(土)東京芸術劇場

スペシャル・コンサート
[コンサートホールでおこなう、出演者勢揃いのスペシャル・コンサート]

【時間】13:00ロビー開場/14:00開演
【会場】コンサートホール
【曲目】モートン・フェルドマン:サムシング・ワイルド・イン・ザ・シティ―マリー・アンのテーマ(ホルン、チェレスタ、弦楽四重奏のための)"Morton Feldman Collection, Paul Sacher Foundation, Basel”
挾間美帆:颯(はやて)
八木美知依:通り過ぎた道「通り過ぎた道」PUNKTライブ・リミックス
テリー・ライリー:In C
坂本龍一:honj Ⅰ~Ⅲ(日本初演)
大友良英:新作(世界初演)
藤倉大:春と修羅(映画『蜜蜂と遠雷』より)
藤倉大:ホルン協奏曲第2番(アンサンブル全編版世界初演)

【出演】アンサンブル・ノマド(指揮:佐藤紀雄) /福川伸陽(hr) /八木美知依(筝) /本條秀慈郎(三味線) /藤倉大/ヤン・バング/エリック・オノレ(electronics) /アイヴィン・オールセット(g) /ニルス・ペッター・モルヴェル(tp) /大友良英/萩原麻未(p) /永見竜生[Nagie](sound design)

○デイタイム・プログラム
[赤ちゃんからシニアまで楽しめるアトリウム・コンサートやスペシャル・コンサートのチケットで楽しめるプログラムを、館内各所でおこないます。]

誰でも楽しめる!無料プログラム
◆アトリウム・コンサート 出演:東野珠実(笙)ほか
◆電子音楽の部屋(入退場自由) 監修:檜垣智也
作曲:デヴィッド・シルヴィアン、デヴィッド・トゥープ、ランガム・リサーチ・センター、ベランジェル・マキシマン、武満徹 ほか

スペシャル・コンサートのチケットで楽しめるプログラム
◆デヴィッド・シルヴィアンの部屋
◆電子楽器工作の部屋 講師:ジルベール・ノウノ(ポンピドゥー・センター〈イルカム〉研究員)
◆ノマドの部屋 演奏:アンサンブル・ノマド
◆トーンマイスター石丸の部屋 講師:トーンマイスター石丸
◆箏の部屋 演奏:八木美知依
◆プンクトの部屋 演奏:ヤン・バング、エリック・オノレ、アイヴィン・オールセット、ニルス・ペッター・モルヴェル
◆大人ボンクリ 18:00ロビー開場19:00開演
詳しくは公式サイトまで!
www.borncreativefestival.com

七感でたのしむシアター
○12/1(日)13:00開場/14:00開演
【会場】東京藝術大学奏楽堂
【曲目】藤倉大:Sounding Seven Senses~アンサンブルとダンスのための(世界初演)
【出演】大前光市(dancer)/本條秀慈郎(三味線) /東野珠実(笙) /LEO(箏)/大崎結真(p) /永見竜生[Nagie](sound design) /芸大フィルメンバーによる七感アンサンブル
www.geidai.ac.jp/event/sogakudo/