COLUMN

ファビオ・ビオンディ&エウローパ・ガランテ――古楽の最前線が挑む幻のオペラ、ヘンデル「シッラ」

©Ryoko Fujihara

古楽界でもっともヴィヴィッドなアーティストが放つ、ヘンデルの知られざる傑作! ~ファビオ・ビオンディ&エウローパ・ガランテ「シッラ」

 1991年にヴィヴァルディ《四季》の目の覚めるような録音で、全世界に旋風を巻き起こしてからおよそ30年。イタリア、パレルモ生まれのヴァイオリニスト、

 ファビオ・ビオンディと、彼が結成した古楽オーケストラ、エウローパ・ガランテは、古楽界でもっともヴィヴィッドで目が離せないグループのひとつでありつづけている。レパートリーは母国イタリアのバロックにとどまらず、バッハ、ヘンデルから知られざる古楽レパートリー、古典派、初期ロマン派まで幅広く、知られざるレパートリーの発掘にも熱心だ。今生まれたばかりのようにフレッシュでいながらまろやかな音色、色彩感に富んだ音のパレットは、聴きなれた音楽に鮮やかな生命力を吹き込む。

 来日も多いが、近年の日本での話題は何と言っても神奈川県立音楽堂で上演されるバロック・オペラだ。2006年にヴィヴァルディ「バヤゼット」でセンセーションを巻き起こし、2015年には同じくヴィヴァルディの「メッセニアの神託」で聴衆を虜にした。いずれも日本初演である。復活の兆しがあるとはいえ、まだまだ上演の機会が少ないヴィヴァルディのオペラの、それも最先端、最上級の演奏を日本で体験できた意義はかぎりなく大きい。

 彼らと神奈川県立音楽堂がタッグを組むバロック・オペラの第三弾が、来年2~3月に上演されるヘンデルの「シッラ」(日本初演)である。ローマ帝国時代の有名な暴君シッラ(スッラ)の暴虐と改心を描く〈暴君もの〉だ。近年急速に大劇場のレパートリーに加わりつつあるヘンデルのオペラだが、ビオンディはあえてスタンダード・レパートリーにはない作品を取り上げた。

 「シッラ」は、ヘンデルがロンドンに来て精力的にオペラを発表していた充実した時期の作品だが、初演場所も確定できない〈幻のオペラ〉とされる作品だ。上演時間も2時間と短いが、音楽は充実しており、劇的なものからリリカルなものまで個性豊かなアリアが次から次へと現れる。数は少ないながら、陰影に富んだ二重唱も美しい。「ヘンデル初期の美しい音楽の集大成」(ビオンディ。以下同)と言われるのもうなずける。オペラの大家ヘンデルのエッセンスがぎゅっと詰まった、お得なオペラなのである。また多くのアリアで、ヴァイオリンからオーボエ、トラヴェルソ、トランペットまで各楽器のソロが用意されていて、エウローパ・ガランテの名手たちの妙技が体験できるのも嬉しい。何しろ序曲から、ビオンディのヴァイオリン・ソロが聴けるのだから。

 歌手陣も贅沢のひとこと。翳りのある音色と超絶技巧で、今日を代表するバロック~ベルカント歌手のひとりに数えられるヴィヴィカ・ジュノー、澄んだやわらかい音色、卓越した技術で20年以上にわたる輝かしいキャリアを誇るロベルタ・インヴェルニッツィ、バロックから古典派のオペラで世界的に活躍し、ルネ・ヤーコプスら大家の信頼も厚いスンヘ・イムらトップクラスがそろうのだ。まさに、「バロックの饗宴」である。

 ビオンディは、かつてカストラートが歌っていた男役に、カウンターテノールではなく女性歌手を好むが、それは彼女たちが、声楽的に「より自然」だからだという。「カストラートは広い音域を〈自然〉に出すことができた。今の時代、ファルセットを使わない分、彼らにより近い発声ができるのは女性歌手」というのがビオンディの意見だ。彼は「イタリアならではの、円く柔らかな美しい音」を探求している演奏家だが、その彼の美学には、女性の声のほうが近いのだろう。

 ビオンディは、県立音楽堂という空間をことさら気に入っている。「サイズが理想的で、音響がよく、当時のように歌手とオーケストラが同じ高さで演奏できる。客席も近く、私たちの特徴であるイタリアの美しい音を、客席のすみずみまで届けることができる」からだという。

 《シッラ》の音楽をあらかじめ知りたい方には、2017年にビオンディがウィーンのコンツェルトハウスで録音したCDが、来日記念盤として7月21日にリリースされたので、一聴をお勧めしたい。歌手の顔ぶれも今回とほぼ同じだ。この時は演奏会形式で上演され、絶賛を博した。今回は演出がつくので、舞台上演付きの公演としては「世界初演」ということになる。

 演出を担当するのは、前回の「メッセニアの神託」で演出をつとめ、ビオンディと信頼関係を築いた彌勒忠史。「シッラ」は結末がやや唐突で、そのような点で台本が弱いと指摘されることがあるが、彌勒とビオンディは綿密な打ち合わせを重ね、歌舞伎や文楽の手法も取り入れ、ダンサーや俳優も登場させて、説得力のある舞台を目指している。バロック・オペラならではのスペクタクルなシーンも、きちんと再現するという。オペラファンもバロックファンも、見逃したら絶対に後悔する舞台になるはずだ。

 


LIVE INFORMATION

開館65周年記念 音楽堂室内オペラ・プロジェクト ~東京オリンピック・パラリンピック開催記念~
ヘンデル「シッラ」全3幕
ファビオ・ビオンディ指揮 エウローパ・ガランテ
George Friedrich Haendel: opera “Silla” in 3 acts, HWV 10 by Fabio Biondi & Europa Galante

(イタリア語上演/日本語字幕付)日本初演 ※休憩2回
公演日時: 2020年02月29日(土)~2020年03月01日(日) 14:00開演 (13:00開場)

●ファビオ・ビオンディによるプレトークあり 13:15
●13:15-pre talk by Fabio Biondi / 13:00-door open

www.kanagawa-ongakudo.com/detail?id=36013

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