COLUMN

三宅純『人間失格 太宰治と3人の女たち オリジナル・サウンドトラック』 エキゾチシズムとモダニティをシャッフル

エキゾチシズムとモダニティがシャッフルする三宅純の音世界

三宅純 映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』オリジナル・サウンドトラック P-VINE(2019)

 平成から令和へ、時代が変わる。変わったこともあればそうでもないこともある。時代をめぐる考察は喧しい。そしていずれの場合も、私たちは時代の変化にともない変わったものをみつけたがる。なんとなれば時代が変わったのだから、という同語反復の基調をなすのは私たちの外にあって私たちを規定する〈他者〉なのではないか。名指されない他者は〈世間〉といってもいいが、しかし「世間とは、いったい、何の事でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう」と「人間失格」の主人公葉蔵は友人堀木に女道楽をなじられ、そのように述懐する。ここに、作者太宰の変わらなさをみたのは令和にはいって二週間後に物故した批評家加藤典洋だったが、敗戦という有史以来最大の激動期にあって、反省と悔恨と転向があいつぐなか、太宰がひとり孤塁をまも りつづけたのは彼特有の個を貫く文学のありようだ、と加藤はいう。

©2019「人間失格」製作委員会

 太宰という個は多くのものを惹きつけてきた。蜷川実花監督の「人間失格 太宰治と3人の女たち」は「人間失格」執筆時の太宰と、彼をとりまく3人の女たちとの関係を主軸にした映画で、史実をもとにしたフィクションの体裁をとっている。音楽は失われた記憶をめぐる〈Lost Memory Theatre〉三部作を2年前に完成させた三宅純。三宅は本作で蜷川の映像の色彩感に響きの多様さで拮抗するのだが、サントラの形式を借りた端的な楽曲のなかに、夥しいモチーフを散りばめ、優雅な表情の裏に鋭い実験性をひそませている。その一例は各種民族楽器と西洋音楽楽器の共存だが、その折衷具合にも、ハープと箏のくみあわせなど、遊戯的な側面もあれば、モダンクラシカルを彷彿する戦略性もある。過去作で活躍したブルガリアン・ヴォイスの援用など、三宅純という作家の記名性を担保する楽曲もあわせて、本作から聴こえるのは音楽家の個を貫く、エキゾチシズムとモダニティのありようでもある。

 


CINEMA INFORMATION

映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」
監督:蜷川実花
脚本:早船歌江子
音楽:三宅純
出演:小栗旬 宮沢りえ 沢尻エリカ 二階堂ふみ
配給:松竹 アスミック・エース(2019年 日本 120分〈R-15〉)
◎9/13日(金) 全国ロードショー
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