実はヒップホップで渋谷系

――黒田さんがハマった理由は?

黒田「僕はアティテュードにすごくヒップホップを感じたんですよね。マークもインタビューで言っていたけど、〈安っぽい〉って言われかねない音楽を組み合わせて、いかにかっこよく聴かせるかっていう方法が彼らの音楽にはある。昔ベックが言っていたことに近いなと思いました。古今東西のいろいろな音楽を折衷させていく感じは、日本の渋谷系のアーティストにも近いですよね。

あとは、コンセプチュアルなところが好きで。ライブでマークとローラの2人がキメでシンメトリーな動き方をしたり、途中でお客さんと乾杯をしたりするんですよ。そういったタイミングもちゃんと考えられているんです」

2018年作『Con Todo El Mundo』収録曲“Friday Morning”

松永「上手いギタリストがいるトリオって、いままでもいなかったわけじゃないんです。でも、これまではもっとインプロ、ジャムっぽいバンドが多かった。だけど、クルアンビンは完全に決め事でやっているわけです。といっても、カッチリ拘束しているわけではない。ルーズなんだけど、〈かっこいい!〉って感じられる瞬間をどんどん置きながら演奏を構成している。

ライブを観た友だちが〈あれを観たらバンドを組みたくなる〉って言っていて。〈自分にもできるかも〉って思う要素もいっぱいあるんですよね」

黒田「そうなんですよね。シンプルなんだけど、いろいろなポイントをずらすことでおもしろさが生まれている」

松永「しかも、〈ギター・ソロはダサい〉と言われている時代にギター・ソロしかない逆張りバンドなわけで(笑)」

黒田「ただ、ライブを観るとドラムとベースのグルーヴがすごく重要だなって思います。この間リリースされたダブ・アルバム(『Hasta El Cielo』)を聴いても、改めてそう感じましたね」

KHRUANGBIN 『Hasta El Cielo』 Night Time Stories/BEAT(2019)

『Con Todo El Mundo』のダブ・アルバム『Hasta El Cielo』についてダブ・ミックスを担当したジャマイカのプロデューサー/エンジニアが語ったインタビュー映像

 

DTM的な編集で出来上がった楽曲

――ベーシストのローラ・リーはものすごく人気がありますよね。ライブを観た人はみんな彼女に夢中になっている。

黒田「ルックスや衣裳、動きもセクシーで〈悩殺!〉っていう感じ(笑)。もちろん、ベースのフレーズもおもしろいんですよね」

松永「ちなみに、マークとドナルドはもともと教会のゴスペル・バンドで10年間一緒だったんですよね。〈あいつはオルガンを弾いているけど、ドラムを叩けるはずだから〉ってマークがドナルドを誘った。ローラなんて、もともとベースどころか楽器の経験がほとんどない人だった」

クルアンビンの2018年のスタジオ・ライブ映像

黒田「『ギター・マガジン(2019年7月号)』で曲作りについてしゃべっているインタビューって読みました? まず、マークがストックしているジャズ・ファンクやソウルのドラム・パターンをいくつかドナルドに渡すことから始めるらしいんです。そのなかから彼が叩きたいものを選んで、それをローラに渡す。で、ローラがベースを乗せたものをマークに送り返して、彼がエディットしながらアレンジや構成を作り込んでいく。曲の作り方がすごくDTM的だなって思うんです」

松永「それはドナルドも言っていました。ライブで曲を叩き上げているって思われるけど、僕たちはちがうんだって。〈曲になったな〉って思った段階で、初めてスタジオで合わせるんだそうです。だから、出来上がったときのグルーヴやテンポ感が重要で、そのときのノリで速くしたり遅くしたりはしない、と」

黒田「ライブで電話が鳴る曲があるじゃないですか(“Evan Finds The Third Room”)。ステージに電話が出てきて、曲のテンポに合わせてベルが〈チリリリリン〉って鳴るんです。それにローラが出て〈ハロー〉って言う演出があるんですが、あれもベルの音と曲のテンポをちゃんと合わせているからこそできる。そういったところも、めちゃくちゃ考えていますよね」