バッティストーニ × 上野耕平のライヴ感溢れる録音

 バッティストーニ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団による録音プロジェクト『BEYOND THE STANDARD』の新録音はベートーヴェンの“運命”と吉松隆のサクソフォン協奏曲“サイバーバード協奏曲”という興味深い組み合わせとなった。“サイバーバード協奏曲”でサクソフォンを演奏した上野耕平に、今回の録音と作品について聞いた。

上野耕平 ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」 吉松隆:サイバーバード協奏曲 Columbia(2019)

 「バッティストーニとの共演はとても刺激的でした。彼の全身から出てくる音楽、それに見事に反応する東京フィルのコンビネーションが素晴らしく、その両者の作るグルーヴに乗って、一気に駆け抜けた。そんなライヴ感あふれる録音になったと思います」

と上野。彼がこの協奏曲に出会ったのは中学1年生の時。2012年には実際に演奏もした。

 「色々な“ひき出し”が無いと演奏できない作品ですね。クラシックの知識だけではなく、様々な音楽を知っていないと出せない表情がある。それぞれの場面に応じた音色感も必要です」

 吉松がこの“サイバーバード協奏曲”を書いたのは1993年晩秋から1994年早春にかけて。上野の師でもあるサクソフォン奏者・須川展也へのオマージュとして書かれた3楽章の協奏曲であり、それぞれの楽章には〈彩の鳥〉〈悲の鳥〉〈風の鳥〉というサブタイトルが付けられている。

 「楽譜に書かれた音符をただ再現して行くだけでは、この曲の要求する音楽が出て来ません。例えば第2楽章では連符がとても多いのですが、そこからいかに歌を紡ぎ出して行くかは演奏者に委ねられている。第1楽章と第3楽章にはアドリブのセクションもあり、特に第3楽章はクライマックスとなる部分なので、とてもチャレンジグです。今回の録音でも、そこまでの演奏の流れで毎回違うアドリブになりました」

 サクソフォン協奏曲だが、実際にはピアノとパーカッションも加わり、サクソフォンと音楽的にからんで行く〈3重協奏曲〉的な作品でもある。

 「ピアノは共演を重ねている山中惇史君、パーカッションには石若駿君に参加してもらいました。石若君は実は大学の同期生で、10代の頃からジャズのドラマーとしても活躍していましたから、この作品にはうってつけだと思いました。3人でのリハーサルも重ねて、この曲の場面に応じた音色を3人でこだわって作り出せたと思います」

 ベートーヴェンの“運命”もバッティストーニらしいスピード感に満ちたスリリングな演奏。上野にとって初となる協奏曲の録音と共に、過去のスタンダードを超えた熱い演奏に触れてみて欲しい。

 


LIVE INFORMATION

上野耕平のサックス道! Vol.5 上野耕平サクソフォン・リサイタル
○12/20(金)開場18:30 開演19:00
【会場】浜離宮朝日ホール
【出演】上野耕平(sax)山中惇史(p)スペシャルゲスト:林英哲(太鼓)
【曲目】長生淳「天国の月」/藤倉大:Bueno Ueno(2019世界初演!)/武満徹:小さな空 ほか
uenokohei.com/concert/2019