(左から)馬渕モモ、藤村頼正、原田晃行、夏目知幸
撮影協力:ココナッツディスク吉祥寺店
 

原田晃行と馬渕モモの2人組、Hi,how are you?(以下、ハイハワ)。ローファイの良さを突き詰めたようなラブリーな楽曲のみならず、強烈なキャラクターとユーモラスな振る舞いでも人気を博す彼らが、通算5作目となるニュー・アルバム『Shy,how are you?』を発表した。同作のリリース元は、シャムキャッツが主宰するTETRA RECORDS。自身のバンド以外では初の音源として、ハイハワの新作がレーベルのカタログに加わった。

今回は、ハイハワの2人とシャムキャッツの夏目知幸&藤村頼正との対談を実施。8月31日の晩、ココナッツディスク吉祥寺店で『Shy,how are you?』インストア・ライヴが行われた直後に、お店を使わせていただいた。

もともと親交深いことで知られている両者だが、なぜハイハワはこれまでリリースしてきたROSEを離れ、TETRAと組むことになったのか? そして、常に飄々として見える彼らの譲れない美学とは? 凡百ならざるデュオの特異性を炙り出しつつ、オブスキュアなサウンドを背景に、この世のものとは思えないファンタジックなラブストーリーを描いた新作『Shy,how are you?』の魅力に迫った。

Hi,how are you? Shy,how are you? TETRA(2019)

目標ゼロなのに多作

――まずシャムキャッツの2人は、ハイハワのどんなところに魅力を感じてきましたか?

藤村頼正(シャムキャッツ、ドラムス)「原田が最初に声をかけてきたときから〈こいつ、かわいいな〉って。第一印象がよかった(笑)。2014年の春にシャムキャッツがHomecomingsとツアーをまわっていたときに、原田もホムカミに付いてきてたんだよね」

夏目知幸(シャムキャッツ、ヴォーカル)「SLITSって書かれた手作りのTシャツを着ていて、ノリもいいし、なんかよさそうだなと思った(笑)」

原田晃行(Hi,how are you?、ギター)「そのときのこと、めちゃ覚えてますよ。シャムキャッツの物販に〈S〉ってデザインのバッジがあって、それをTシャツに書いたSLITSのSに付けたんですよね」

――2014年には、ハイハワはアルバムを3枚も出しています。春ならファーストの『?LDK』がリリースされたくらいですかね。

藤村「そうそう。その帰り道で原田にもらった『?LDK』を聴いて、めちゃくちゃいいじゃんって。歌詞がまずおもしろくて、いろいろな固有名詞がいっぱい入っていて、なおかつ情景が伝わってくる。でもアルバム全体を通すと、すごく冷静な感じがして、隙間や余地があるような。すごく聴きやすいCDだし、これは聴きたくなるなって好印象でした」

『?LDK』のCM映像
 

――過剰さのない音楽ですよね。夏目さんの最初の感想は?

夏目「俺はたぶんミュージックオルグにあったチラシとか、馬場ちゃん※※からの推薦とかでHi,how are you?って名前は知ってたんだよね。でもギターとピアニカの2人組って情報だけだと、またよくあるダサめのフォークみたいなのが出てきたのかな……くらいに思ってたんです。でも、音源を聴くとぜんぜん違ったっていう。なるほど、みんながいいっていうのはわかるわーって。

※池袋のライヴハウス。2014年に閉店した
※※馬場友美。ハイハワの多くの音源で録音やミックスを担当している
 

歌心もありつつ、参照点とかもやたら多かったりするんだけど、どっちにも寄らないところがよかった。小ネタ勝負に走るわけでもなし、かといって歌心を押し付ける感じでもない。そこがいいし、2人の人柄がそんな感じにさせてんのかなーって気はする。いい意味で向上心がないっていうか(笑)」

一同「笑」

夏目「特にいまはCDを出したらO-nestのワンマンを埋めるっしょ、それができたらQUATTROでしょ!とか、きっちり目標を立てて活動するバンドが多いけれど、ハイハワはそういうのがゼロだしね。それがゼロなのに、かたくなに音楽をやり続けてもう5枚目ですよ! 独特のバランス感覚が、そのまま音楽にも表れている気がするな。存在しているだけでカウンターみたいな感じ」

――ハイハワの2人は無意識的……というか常に自然体で動いている気がするんですけど、実際はいかがですか?

原田「……うーん、でもまぁ常にカウンターでいようとは思ってますね。人がやってないことをやろうって」

――馬渕さんはどうです?

馬渕モモ(Hi,how are you?、鍵盤)「なんも考えてないです」

一同「(笑)」

 

馬渕がハイハワをやるメリットはゼロ?

――飄々としているのもハイハワの魅力ですよね。楽しく続けるためのコツはありますか? さっき馬渕さんは何も考えてないとおっしゃってましたけど。

原田「でもそれがねぇ、やりやすいんですよ。馬渕さんがすげえ考えてたら僕はめちゃくちゃやりづらいと思う」

夏目「そうだよね。馬渕さんが考える人だったらそんなに続いてないんじゃない?」

原田「だって、(やることに)メリットがないんですよ。僕が馬渕さんとやるメリットはありますよ。馬渕さんが僕とやるメリットはゼロですよね。むしろマイナスだと思う(笑)」

一同「(笑)」

馬渕「そんなことないけど」

――メリットとかデメリットとかじゃない価値観で馬渕さんはハイハワに関わっているんじゃないですか?

馬渕「なんか巻き込まれちゃった感じですね」

夏目「でも、やめないもんね。もうちょっと真面目だったら、たとえば〈もっとスタジオに入ろうよ〉とか〈ライヴのここはこうだったんじゃないの?〉とか絶対に言いたくなるはずなんですよ」

原田「ライヴが終わったとき、よくお互いに謝りますね。〈ちょっとあれだったね……〉とか。でも、こうしようとはならないし、深くも反省しない。その場のすみませんだけ。しかも、もう片方はたぶん何も思ってないところで、各自が〈すみません〉と言っているんですよ。そこも噛み合ってないんですよね」

2013年のライヴ映像

 

シャムキャッツの好きなハイハワの曲

――シャムの2人が特に好きなハイハワのアルバムや曲といえば?

夏目「俺はねぇ、自分の弾き語りでもたまにカヴァーしているんですけど、“プール開き”。あれがなんか好き。無駄がないし、意外とハイハワっぽくない気がするかな。ハイハワ節ってやっぱりあるでしょ? 切れ味のよいリズムと歌の回し方とか。そういうのがなくて、サラッとしていて切ない」

夏目と原田による“プール開き”のライヴ映像
 

藤村「俺はファースト・アルバムの『?LDK』が特に好きですね。“バンホーテン”とか最初にライヴで聴いたときから、〈これはオーラがある曲だな〉と思った。あと“空気人形”も好き。シューゲ感があって、歌もそんなに多くなくて」

原田「“プール開き”と“空気人形”は、自分としては同じフォルダに入っている曲なんですよ」

藤村「だよね。暴れないっていうか、そういうハイハワも魅力的なんだよね」

――シンプルで限られた演奏形態だけど、単調ではなくて多彩な表現をやっていますよね。

夏目「ぜんぜん単調じゃない。サウンドのオリジナリティーも濃いしね。昔、ライターの磯部(涼)さんが曲調に対して原田のギターを弾く腕力の強さがアンバランスだと言っていたんです。確かに、ハイハワの音楽ってギターがもうこれ以上は鳴りませんっていう悲鳴をあげている気がする。それがおもしろい」

――ギターの音は作品を重ねるごとに変わってきた印象もあって。新作はモノクローム・セットとかフェルトを想起させるポスト・パンクっぽいサウンドになった気がしました。

藤村「そうだね」

原田「あー、こだわっては……いないです」

一同「(笑)」

 

TETRAの最終目標はオフィス北野

――今回、ハイハワの新作をTETRAから出すことになった経緯を教えてください。

原田「実は〈いつどこから〉っていうリリースを決める前に録り終えていたんですよ。レコーディングは今年の2月かな。でも、いざ音源を作ってみたものの、出せる場所がないしどうしよう……となってました。そんななか5月に仙台であったシャムキャッツのライヴに遊びに行って、そこで夏目さんに〈実はこういう感じなんですよー〉と言ったら、〈それならうちから出せば〉という鶴の一声があって。それはめちゃくちゃおもしろそうだなと思った」

――これまでリリースしてきたROSEからは出せなかったんですか?

原田「ROSEから出すという選択肢も当然あったんですけど、なんていうかタイミングとしか言いようがないですね。因果というか(笑)。ちなみに一切揉めてはいないですよ!」

――もともとTETRAとしては自分たち以外のバンドも出していくという方針はあったんですか?

夏目「はい、ありました」

藤村「最初にTETRA RECORDSという名前が出来た時点で、レーベルだよねって意識はあった。いずれはほかのバンドをリリースしたりもするのかもって。ただ、まだまだ自分たち自身のことでいっぱいいっぱいなので、とりあえず自分らのことをやってからだな、とは思ってましたけど」

シャムキャッツの2018年作『Virgin Graffiti』収録曲“逃亡前夜”のライヴ映像
 

――じゃあTETRAとしては降ってわいたような話ではあったけど、そもそもの意向にはハマった?

藤村「バッチリでしたね」

夏目「やっぱりバンドが持っているレーベルだと自然と俺らっぽいカラーがついてくるだろうし、だから〈シャムキャッツの人たちがやっているレーベル〉って枠組みがマイナスになっちゃうバンドとはやれないとは思っていたんだよね。ハイハワはそれこそ5作目だし、まぁどこに入っても自分たちの色でやれるタイプの人たちなので、そういう意味では、自分たちがハイハワを少し汚してしまったり、余計な色を付けたりすることはないな、という安心感はあったな」

――すでにハイハワ像が確立されていますもんね。

夏目「そう、しかも濃いめだから」

原田「いや、もうスパッと出すと言ってくれて、僕ジワーときましたよ」

――原田さんは人に相談するくらいには、出しどころがないことについて悩んではいたんですね。馬渕さんはいかがでしたか?

馬渕「どうにかなるだろうとが思ってましたね。けど、TETRAで出してくれると聞いて、とんでもなく嬉しかったです。そんなことあるんだなーって」

夏目「俺らはとにかくおもしろい人たちと一緒にいたいと思ってるんです。よくわかんない奴らの集まりになれたらいい。ふざけて、たけし軍団/オフィス北野をめざすって言っているんですけど。だからついにダンカン、ガダルガナル・タナが入ってきたって感じかな」

原田「最初は(そのまんま)東じゃないですかね」