INTERVIEW

日本一のホット・チップ狂がその魅力を語り尽くす! 

パブリック娘。の斎藤辰也に訊いた、エレクトロ5人組がポップ名手たるわけ

日本一のホット・チップ狂がその魅力を語り尽くす! 

〈朝霧JAM 2019〉への出演を含む、新作『A Bath Full Of Ecstasy』を引っ提げての来日ツアーを10月に控えるホット・チップ。ニュー・エレクトロやニュー・レイヴの時代に登場し、それらとダンサブルなビートを共有しながらも、美しいハーモニーと流麗なメロディーを武器に一線を画した存在感を放ってきた。多くのバンドが消えゆくなかで、彼らが生き残ってきたのはひとえにソングライティングの傑出した才ゆえだろう。

新作『A Bath Full Of Ecstasy』でも、グルーヴィーで艶やかなポップソングは健在。奇しくもリリースの直前に不慮の事故で亡くなったフィリップ・ズダールと、XXやサンファなどの作品で知られるロンドンのロディ・マクドナルドをプロデュースに迎え、バンドは煌びやかに飛翔するさまを見せてくれる。

今回はラップ・ユニット、パブリック娘。のメンバーであり、日本一のホット・チップ狂として知られる斎藤辰也氏を招き、バンドの魅力を徹底解説してもらった。ホット・チップの最新情報を紹介するTwitterアカウント〈ホット・チップくん〉の中の人でもある氏はメンバーとの親交も深く、先日公開された“Bath Full Of Ecstasy”のミュージック・ビデオにもカメオ出演している。これを読めば、あなたもホット・チップの虜になること請け合いだ。

 『A Bath Full Of Ecstasy』収録曲“Bath Full Of Ecstasy”。斎藤氏は2分55秒付近に出演

 

ホット・チップはUKのRIP SLYME?

――まず斎藤さんがホット・チップを知ったきっかけは?

「ちょうど10年前の2009年にmixiをやっていて、その頃遠くに住んでいた女の子……いまPLASTICMAIという名前でラップをやっている子とマイミクだったんです。彼女の友達が書いていた日記にホット・チップ“One Pure Thought”のミュージック・ビデオが貼られていて、それで観てみたのがはじまりでしたね」

2008年作『Made In The Dark』収録曲“One Pure Thought”
 

――“One Pure Thought”を聴いてどう思いましたか?

「うーん、なんかいろいろな音楽が入っているなーって(笑)。当時の僕が聴いていたのはヒップホップと60~70年代のロックとか……くらいだったんですけど、“One Pure Thought”にはビーチ・ボーイズとヒップホップ、さらにその頃はまったく聴いていなかったテクノとかも含めて、なにやら多彩なジャンルが混ざっているような印象を受けたんです」

――当時、ヒップホップは同時代のものを聴いていたんですか?

「いや、むしろ90年代のものを掘り下げていましたね。いわゆるニュースクールと言われているようなネイティヴ・タン周辺のグループやファーサイド、あとはDJプレミアとか……。そうそう、〈ホット・チップってほかのグループに喩えるとなんだろう?〉と考えたときに、僕がイメージするのはヒップホップだとファーサイドなんです。なので、日本のグループだとRIP SLYME。メンバーのキャラ立ち具合が近い気がして。ロック・バンドならビーチ・ボーイズとかホリーズとか」

――RIP SLYMEというのはわかる気がします。ポップなキャラ立ち感に加えて、ちょっと渋谷系の匂いもするんですよね。

「見た目がポップで可愛らしい人たちでもありますからね。先の“One Pure Thought”のMVもお洒落で可愛いアニメが音楽と相性ぴったりで好きになりましたし、ファッションもお洒落なんですよね。特にリーダーのアレクシス・テイラーのファッションは、自分なりに真似しようと頑張ったりしました」

――“One Pure Thought”を収録しているのはサード・アルバムの『Made In The Dark』(2008年)。あの作品は、エレクトロ・ポップ調の曲だけではなく、泣きのバラードも印象的ですよね。

「まさにそのアルバムを最初に買ったんですけど、ハーモニーがすごく綺麗に聴こえて、それが耳に残りました。ハーモニーの重ね方は、いま振り返ってもほかのグループがまずやらないような感じ。古き良きポップスの作り方を下敷きにしつつ、僕が知らないいろんな音楽が入っている――そういうところに惹かれたんだと思います」

――ホット・チップを知ることによって、ほかのエレクトロ系のバンドも聴くようになったんですか? LCDサウンドシステムやソウルワックスとか。

「えーと……よく並んで語られていたエレクトロ勢とかLCDやクラクソンズなんかはまったくハマらなかったんですよ。ホット・チップと近しいバンドだと、ギャング・ギャング・ダンスや、彼らと同じレーベル、ソーシャル・レジスティからリリースしていたショーン・アリス・グループなんかを好きで聴いてました。ショーン・アリス・グループのメンバー――ルパート・クレボーはアレクシスのソロでドラムを叩いていたり、ベン・クルックは新作の“Bath Full Of Ecstasy ”のMVを編集していたり、このへんはみんな繋がっているんです」

ショーン・アリス・グループの2009年作『Troubled, Shaken Etc.』収録曲“Close To The Ground”
 

――2000年代中盤から後半にかけてはジャスティスやDFA界隈が牽引したニュー・エレクトロの盛り上がりもあって、ホット・チップもそうしたシーンの周縁にいるという印象がありましたよね。なので、斎藤さんがそこにはハマらなかったというのはおもしろい。

「例えば、最近閉店したTRUMP ROOMって、東京のエレクトロ・シーンのある種の象徴みたいではありましたよね。ああいうとこに出演していたDJに知り合いはいたけど、彼らもホット・チップという名前は知っていても、実際DJでかけていたのはオリジナルよりむしろ“Ready For The Floor”のソウルワックス・リミックスとかだったんです。だから、ホット・チップというバンドそのものが親しまれていたわけではなかったように思います」

2008年作『Made In The Dark』収録曲“Ready For The Floor”のソウルワックスによるリミックス

 

愛ゆえの厳しい近作評

――『Made In The Dark』の次作『One Life Stand』(2010年)は、リアルタイムで聴かれたんですよね?

「はい。初めてのリアルタイムのリリースだったので、狂喜乱舞しました(笑)。いまでもこのアルバムがいちばん好きで、最高傑作だと思っています。その前の『Made In The Dark』って、すごくダンサブルでアグレッシヴな曲とピアノ・バラードがある意味では水と油というか、ちょっと無理があるくらいの感じで一緒にアルバムに収められていたと思うんです。躁と鬱の双極を行き来させられるというか。

それが、『One Life Stand』ではいろいろな気分や感情が自然なグラデーションで描かれていると感じました。一枚を通してのムードが無理なく保たれていて、なおかつスティール・パンやピアノやドラムなどの生楽器がすごく気が利いているんですよね。メンバーに子供が出来たりとかそういう過程の……アレクシスは〈ハッピー・ノイズ〉って言っていたかな、そういう私生活の変化が制作にいい影響を与えたそうで、その感じが音から伝わってきます。

ホット・チップって根本的には弱そうというか、はっちゃけられない内向的なギークの集団として見られていたし、本人たちもそのことには自覚的だったけど、彼らも子供が出来てハッピーな状況になった。でも、家庭的な責任とかにシリアスになる手前、それをしょいこむ手前の状態というか。子から父……一家の主になっていく手前というか、境界線の上に立って前を向いているような。若いときのナイーヴさと父になって逞しくならきゃいけないという、その過渡期にいる作品だったと思うんです。自分たちを強いとも思ってないけど、もう弱くも思っていられない、みたいな。

アルバムを締める曲“Take It In”の最後のピアノの残響には、人生がこれから変わる予感みたいなロマンティックなニュアンスがあって、それはたぶん、そのときだからこそ出せたサウンドのように聴こえます」

2010年作『One Life Stand』収録曲“Take It In”
 

――なるほど。とすれば次の『In Our Heads』(2012年)には、メンバーがさらに大人になった姿を垣間見た?

「なんですが、『In Our Heads』を最初聴いたとき、僕はとても受け容れられなかったんです(笑)。それはele-kingのレヴューにも書いたんですけど、なんか自信満々になっちゃっていて、〈ああしろ、こうしろ〉と聴き手に言っているかのような説教くさい印象を受けたんですよね。一家の主の態度が出すぎちゃっていた。〈こうすればいいんだよ〉と言われてるみたいな。ホット・チップでさえ父になるとこんなにわかりやすく変わってしまうのか、って面食らいました。エディプス・コンプレックスでしょうか(笑)」

――音楽的にもさほど惹かれなかった?

「1曲目の“Motion Sickness”が、もうイントロからイヤだった(笑)。ホーンがやたら力強く鳴ってて、〈ダメだこりゃ〉〈謙虚さがなくなったな〉って。変わってしまったな……と感じました。でも、時間を置いて冷静に聴いてみるといい曲がいいアレンジで鳴っていて、楽しめるようになりました。よく練られて構築されているファンキーなリズムとか、美しいメロディー・ラインとか、ポップでキャッチーな瞬間がたくさん詰まってますよね。そのあたりは間違いなく前作よりも進化している。“Flutes”はワンループの抜き差しとシリアスな歌詞で曲がどんどん展開されていくのが気持ちいい名曲で、いまでもライヴで演奏していますね。

あと、前作の“Take It In”をさらに発展させたようなコーラスに加えて、サイケデリックなサウンドも挿入される“Let Me Be Him”のトリップしているような気分とか、それに続く“Always Been Your Love”のアンセム感あたりは、新作の後半にも繋がる重要なポイントだと思います。とくに“Let Me Be Him”はホット・チップのなかではだいぶ浮いた感じの曲でしたが、バンドとして、特にリードを歌っていたジョー(・ゴダード)はだいぶ手ごたえを感じたのではないかと思います」

2012年作『In Our Heads』収録曲“Let Me Be Him”のライヴ映像
 

――続く『Why Make Sense』(2015年)はいかがでしょうか?

「『Why Make Sense』はホントにいまでも失敗作だと……いやこれは言い方が難しい。『Why Make Sense』は初めてホット・チップのアルバムで進化がなかったんです。アレクシス自身が昔のインタヴューで〈僕たちはアルバム一枚ごとに急激な変化はしなくとも、前作を引き継ぎながら着実に進歩している〉と言っていて、僕も確かにそこがホット・チップのいいところだと思って追いかけていました。

なのに『Why Make Sense』は『In Our Heads』のアウトテイク集みたいな印象で。〈これこそホット・チップだ〉と言えるような出来の曲がなかった。アレクシスのバラードもソロのアレンジのほうが全然よかったり、タイトル曲なんてかなり投げやりな出来で、それでアルバムを締めているのがけっこうつらかった。“Need You Now”は“Flutes”とか“Boy From School”系統のいい曲でしたが、それら過去作を超えているとは思えませんでした。

『Why Make Sense』収録曲“Need You Now”
 

“Love Is The Future”でデ・ラ・ソウルのラップが唐突に挟まれるのなんか全然意味わかんなくて、何かっぽく仕立てることがゴールになっちゃっているというか。曲自体はよくてもアイデアもアレンジも練りきれてないし、アルバムとしての展開もなくまとまりも欠けてて、まさにアウトテイク集……。

しかも前作からリリースまで間が3年くらい空いていたんですよ。それまでは2年に1枚のペースで出していたのに、ここで結構待たされて、ソロでの動きはあったけど、ようやくバンドとしてリリースされたアルバムがそんな出来だったので、アレ~みたいな。それから今回の新作が出るまでにさらに4年空きましたからね。多少動きがあればバンドは続いているとわかるけど、インスタとか見てもバンドは出てこなくて、アレクシスのソロ活動の宣伝が出るだけだったんです。〈もうホット・チップは終わっちゃったのかな〉と半ば諦めてました」

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